
5年後には、あの言葉をかけられる人に
新卒で入社した会社では最初の2ヶ月間全体研修があって、それから配属先に赴任した。
配属先では上司に教えてもらいながら仕事を進めた。いわゆるOJTだ。
上司はとても優しくて、一から全部教えてくれたし、同じことを聞いても怒らなかった。
それでも、私はなかなか仕事が覚えられない。
数字を間違える、質問に答えられない、同じことを繰り返し聞いてしまう...。
どうして私はこんなに仕事ができないのか。
もう向いていないんじゃないだろうか。
配属されてから半年後、そんな日々が続いて、思わず上司の前で泣いてしまった。
週次でやっていた、タスクの進捗確認の最中に急に涙が出てきたのだ。
これも出来てない、あれも出来てない、でもあれもやらないと、、、と切羽詰まっていたのだと思う。次の言葉を発するのも難しいくらい泣いた。
上司は私が落ち着くのを待ってくれて、落ち着いた頃、ゆっくり優しく言葉をかけてくれた。
「私にできることはありますか?」
この言葉の優しさに、私はもっと泣いた(笑)
「私にできることはありますか」ってすごいですよね。
押し売りの優しさでもなく、上から目線でもない。
10歳も違う上司が、新人の私と同じ目線で、こちらの立場で一緒に考えようとしてくれているんだ。
問題の解決ではなく、私の気持ちを優先してくれている。
これはこうするんだよ、とか、次はこうしてみよう、とか言わないでいてくれたのが本当にありがたかった。
私だってそんなの分かっている。分かっているけれど、できないのだ。
そのときなんと答えたのかは忘れてしまったけれど、上司のこの言葉はずっと覚えている。
もうちょっとだけ、この人の下で頑張ってみようと思えた。
それから数年、いまも同じ職業を続けている。
仕事もある程度できるようになり、後輩もできた。
後輩に仕事を教えるとき、自分がわかっていることは「これはこう」と教えてしまいがちだ。
もう5年もすれば出来ることが増えて、もっとたくさんのことを、具体的に指示が出せるようになるかもしれない。だれかの上司にもなるかもしれない。
でも、そうなっても、あの時の上司の言葉と姿勢を忘れずに。
「私にできることはありますか」と、寄り添ってあげられる上司に私もなりたい。