【短歌】陣取合戦 にんげん
こぼれ出したことばには注意を知らぬ間に仕掛けた時限爆弾
身振りだけでこころ中、穴だらけにしていったきみは散弾銃
遠く先、地球のどこかで放たれた文字 わたしにストライクする
マッハ2 あり得ない速度で迫る ぼくの防衛システム超えて
わたしが相互利用してた他人という人工衛星、消え去る
二人、おわりのそのときにわざわざボタンを押す必要もないのに
あなたを占有する複数の友人にわたしの姿はあるか
奪い、奪われ繰り返し、きみやわたしという陣地は変動する
スパイには注意。十年やそこらの付き合いは簡単に崩れる
このままの友人関係つづけるための外交、根回しをする
ヒトとヒト、ひとつところに集まれば世にも楽しき陣取合戦
今回の作品について
AさんとBさんは仲が良いとする。
CさんはAさんを嫌っていて、Bさんとは友人関係であるとする。
DさんはAさんの恋人で、束縛したがりだとする。
このときのAさんの占有率はどうなるでしょう。
Aさん自身が使いたい時間もあるでしょうし、仲の良いBさんとお茶にも行きたい。Cさんの地味な嫌がらせや皮肉も飛んでくる。Dさんからの連絡も返さなくてはいけないし、会わなければいけないし会いたい。
こうしてみると、Aさんの自由になるAさんって少なくないですか。
人間を陣地や領土として見立てて見ると、その人に影響度の強い誰かや何かが浮かんでくるかもしれません。われわれは常に自分と誰かの領土を奪い、奪われすごしているのかも。
気の合う友人であっても定期的な連絡や根回し(=遊んだり)が必要なわけです。彼や彼女のなかにある自分の領土を確保・維持、あるいは拡充するの必要があるのです。何もせず放置していると削られていってしまう可能性が高いのです。
すごくいやな言い方ですが、そう捉えることもできますよね。
仕事や趣味に使う時間もある意味では領土を侵攻されているといえないでしょうか。24時間という限られた区画のどの場所が何に、誰に襲われているのか。勝ち負けは明確ではなさそうですが、そう考えるとおもしろい。
長年の連れ合いや友人がいなくなったあとの荒野もあるでしょう。
そこに踏み込んでくるものは少ないかもしれない。
けれどどこかそれを待っている自分もあったりして、もしかするとそれが寂しさってやつなのかもしれないですね。
自分という全体のn%以上を何かや誰かに侵されたとき、領民の怒りが爆発したりするのでしょうか。そもそもこの例えの場合、領民は何に当てはまるのか? 感情?
想像が膨らむばかりです。
今回の作品群はそうした人間生活のなかでの個別の陣取り合戦をテーマとして詠んだものです。
どこかのあなたへ、その何らかの感情に触れることができましたら幸いです。