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『痛いの痛いの飛んでいけ』は貴方の心臓に処方する錠剤である

痛いの痛いの〜〜〜〜〜〜~~~~屯田兵!!

おのれさくま。

さて、本日も音楽の話。
何気にボカロ曲以外を取り上げるのは初めてだが、取り上げる楽曲は『痛いの痛いの飛んでいけ/TOOBOE』である。

結局ボカロPであることに違いはないのだが……。
(TOOBOE氏はjohnという名義でボーカロイド楽曲を制作しているシンガーソングライターだ)

そして映像監督は今私が、というより世間が、最も注目している映像制作ユニット〝擬態するメタ〟である。
(アニメ作家でありイラストレーターのしまぐち ニケ氏と映像作家のBivi氏のタッグ)
記憶に新しい有名作でいえば『ビビデバ/星街すいせい』だろう。

実写映像×アニメーションといえば最早今右に出るものは天下のディズニーくらいなものだろう。
その天下のディズニーが出来ない表現をやってのけるのが擬態するメタの魅力でもある。

さあ、遠回りをしたがまずは音楽の話をしよう。
まず私はjohn/TOOBOE氏のファンである。
どのくらいファンかというと、彼の代表作の一つである『春嵐』のカバー動画を世界最速で投稿したのは他でもない、筆者だ。

mixに失敗してボーカル音量がめちゃくちゃ小さくなってしまったという反省点はあるが、お気に入りの動画である。超良曲なので是非聴いてほしい。余談は以上。

本題に入るが、「痛いの痛いの飛んでいけ」という言葉を聞いてまずあなたは何を想像するだろうか。
すりむき転んだ子の膝小僧を撫でながら、その子が泣き止むように父や母がおまじないをかけている様子が浮かんだりするかもしれない。
しかしこの曲は歌詞の中にある「痛いの痛いの飛んでいけ」の後にある一言が付け加えられる。

「痛いの痛いの飛んでいけ 幸福な貴方に」

このフレーズこそがこの曲の全てを表していると言っても過言ではないだろう。
筆者は正直ゾッとしたし興奮した。
私の痛みを幸せな貴方に味わってほしい、という願い。
擬態するメタの映像はその歌詞の意味を更に増幅させ、人々の心を刺している。
というよりもはや映像のために作られた音楽だと錯覚(もしかしたら本当にそうなのかもしれないが)する程の曲構成になっているので是非聴いてほしい。
筆者が特にそれを感じたのは2:24からの〝間奏〟である。
間奏になると急にガラリとホラー映画のワンシーンのような雰囲気に音も映像も変化するのだ。

john/TOOBOE氏は元々「怒り」をテーマに音楽を作ってきた人物であり、TOOBOE名義で音楽を作り始めてからは「愛」というテーマが主軸となっているように筆者は感じている。その愛は他者から見れば歪な様相であっても、どこまでも純愛であり美しい。
そんな「愛」とかつてのテーマである「怒り」が見事に織り成した傑作こそがこの『痛いの痛いの飛んでいけ』だと言えるだろう。

そのテーマを踏まえて映像の話をしていこう。
主人公は幼い頃に母親の手によってサーカス団に売られた少女である。
だが母も子もお互いに確かに愛があった(と信じたい)
少なくとも母は子を手放すときに浮かない表情をしている。

このMVは左右に分割された画面で基本的に進行していくが、左半分が現実、右半分が彼女が売られなかったifの世界を描いており、それがまた一層悲壮感を増幅させている。

主人公はサーカス団で蛇のような下半身の団長にその尻尾の鞭で日々顔をぶたれながら、厳しい躾を受けて過ごした。
幼少期から掃除やサーカスの虎の世話をしながら過ごし、空中ブランコなどの芸も仕込まれ成長していく。

数年後、その虎がそんな彼女を守るためだろうか、団長にショーの最中に襲いかかり、殺害してしまう。
その団長の葬式の後、喪服を着た彼女はおそらく久しぶりに街を歩く。すると雨宿りをするかつての母と見知らぬ男。そして……その間に生まれた新たな家族である赤ん坊を見かけてしまうのだ。
主人公の瞳に浮かぶ激情は一言では言い表せない壮絶なものを感じるだろう。
そして問題の2:24に突入する。
あとは実際の映像を観てもらえば私の駄文より余程物語の奥深さが伝わる筈だ。

TOOBOE×擬態するメタのコンビは今回が初ではない。
『心臓/TOOBOE』で爆発的話題と共にメジャーシーンに旋風を起こし、アニメ『チェンソーマン』のEDテーマ『錠剤/TOOBOE』で一躍知名度を上げた。

『心臓』は2022/04/20に公開され、2024/06/18現在YouTubeで1,881万再生を誇るヒットソングだ。
あまりにも真っ直ぐな愛を描いた楽曲と、実写映像にビビットなアニメーションを組み合わせた映像で瞬く間に広まり、TOOBOE氏の代名詞となった。
またTOOBOE氏は漫画『チェンソーマン』のかねてよりのファンを公言しており、当楽曲の歌詞はチェンソーマンをテーマに書かれたものではないかと考察もされている。筆者も『チェンソーマン』のファンなのだが、正直その考察には納得感しかない。

『錠剤』は2022/11/7に公開され、2024/6/18現在YouTubeで1,256万再生というこちらも驚異の再生数。しかも〝年齢制限〟があったにも関わらずだ。
年齢制限の理由はめちゃくちゃ人を殺すしめちゃくちゃセックスしているから言わずもがなだろう。

楽曲としても映像としても彼の作品の中では私は『錠剤』を最も愛している。『チェンソーマン』のテーマであるという事を抜きにしてもだ。
筆者はカラオケで歌うと感極まって泣いてしまいそうになる程揺さぶられる。それでいて歌唱していて気持ちが良い楽曲だ。
(当楽曲も以前カバー動画を投稿したが、現在は非公開にしている)

前述した『痛いの痛いの飛んでいけ』とこの『心臓』『錠剤』の世界観が繋がっている!と視聴者の間では非常に話題である。見れば共通点はすぐに分かるだろう。
(ただし『心臓』に関しては『錠剤』のMVとリンクしているシーンはあるが、『痛いの痛いの飛んでいけ』とのリンクについては直接的なものは無い。作中に出てくる警察官3人組が同一人物では?と考察されているが、人物や制服のデザインがまるで別物であるため筆者は別人だと考える。血縁関係などはあるかもしれないが)

筆者、CLAMP作品のような作品と作品がリンクしている世界観大好き侍でござる故、これは実に堪らない要素だ。

どのMVも実に完成度が高く、視聴後に満足感を得られると保証出来る。
皆さんもTOOBOE×擬態するメタの生み出すダークな愛の世界に診入られる事だろう。
その心臓に処方される錠剤は、きっと貴方の痛みを飛ばしてくれる。
ただし、副作用で新たな痛みを伴う覚悟はしておくことをオススメしたい。

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