哀れなるものたち
この映画は冒頭で、ブルーの衣装を着た女性が19世紀末のロンドンのビクトリア・ブリッジから身投げするシーンからはじまる。
そして、その身投げした女性のお腹には胎児がいた。
フランケンシュタインのような顔をした天才的外科医のバクスターは身投げした若い女性の肉体とお腹にいた胎児の脳を用いて、新たな女性ベラを作り出す。
天才的外科医バクスターは、そのベラを手元におき、その成長を観察しようとするが、ベラは次第に成長し思春期をむかえ、性にも興味を持ち、外界に跳び出したいと願うようになり、女たらしの弁護士ダンカンと世界の旅に出るために出奔してしまう。
出奔したベラと女たらしのダンカンはリスボンにむかう。未来都市のように空飛ぶ車があり、迷宮のようにゆたかな光と色彩にあふれたリスボンは不思議な魅力に満ちている。
ベラはそこで性の快楽を知り、酒や美食、音楽やダンスの魅力を発見し、さまざまな奇行をふくめて益々奔放になっていく。
ベラを自分だけの女にしておきたいダンカンは、ベラを監禁するために長い船旅に連れ出すが、そのなかでベラは本を読み、ますます精神の自由に目覚めていく。さらにベラはアレクサンドリアでは灼熱の谷で多くの赤ン坊が餓死していくのを目撃し、もうひとつのこの世界の現実を知ることになる。
一文なしになったベラはパリで娼婦になるが、ベラにとってはそれは新しい自分の発見であり、この世の現実をより知ることにつながるもので、微塵の暗さも自己を卑下することもない。
そして最後にまたロンドンに戻ってきて、冒頭の身を投げた女性の真実が明らかになるが、ネタばれになるのでここでは伏せておこう。
ベラを演じるエマ・ストーンの目力のある演技が圧倒的な存在感があっていい。またリスボンや豪華客船、アレクサンドリア、パリ、ロンドンの映像が世紀末的な陰翳に満ちていて素晴らしい。
人造人間という一種の怪物の遍歴を通して、ひとりの若い女性の自立を描くこの映画は、ピカレスク(悪漢)ロマンのように諧謔と奇想に満ちている。
とりわけ肉体と精神がアンバランスで、過激で辛辣な言動を繰り返すベラが、哀れで愛おしく感じられるのはなぜだろう。それは、おそらくベラが真摯に自由と自立を求めている、そのひたむきさが心に響くからではなかろうか。
それゆえにこそ、この映画はすぐれて現代的な作品となっており、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞もむべなるかなではなかろうか。
○©錦光山和雄 All Rights Reserved
#哀れなるものたち #ヨルゴス・ランティモス #エマ・ストーン
#ヴェネチア国際映画祭金獅子賞 #アラスター・グレイ #映画が好き
#ロブスター #女王陛下のお気に入り
この記事が参加している募集
過分なサポートをいただきまして心より御礼もうしあげます。