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2023年に劇場で観た映画

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ヲノサトルが2023年に劇場で観た映画の備忘録です。ここ数年、サブスクリプションで観る作品の比率が多くなってきたけど、そこまで挙げたらキリがないので、劇場封切りのタイミングで観に…
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枯れ葉

泣いた。 年の瀬にふさわしく「人生はたいへんだしうまくいかないし、世の中は戦争とかひどいことだらけだけど、生きてれば良いこともあるよ…」と夢を見せてくれる作品だった。 本作 アキ・カウリスマキ監督のインタビューによれば、ウクライナ戦争をきっかけに引退宣言をひるがえして5年ぶりにメガホンをとったという。じっさい作中には何度も何度もウクライナの戦況を伝えるラジオニュースが流れ、登場人物は常にそれを意識している様子が描かれる。 また、突然クビを言い渡されても何も言えない低学

ザ・クリエイター/創造者

ざっくり言えば『アバター』と『マトリックス』と『スターシップ・トゥルーパーズ』とを足して3で割ったような話。ざっくりすぎるか。 圧倒的な武力と頭数を誇る「AI」陣営 vs. それに反抗する少数者=「人間」陣営の戦い ── という本作の図式は、どうしても「ソ連 vs. ウクライナ」や「イスラエル vs. パレスチナ」といった、現在進行形の戦争を連想させる。 のみならず「人間とAIに感情は通じるのか?」「人間とAIのちがいは?」といった哲学的な問いを掲げる作品…… ……だ

ヒッチコックの映画術

「サスペンスの神様」アルフレッド・ヒッチコックの作品を様々な角度から分類・分析し、そのテクニックを振り返ろうとするドキュメンタリー。 ヒッチ映画の特徴を「逃避」「欲望」「孤独」「時間」「充実」「高さ」という6つのキーワードに基づいて分析していく。 「映画術」と言うならば、ヒッチファンなら間違いなく読んでいるであろう『映画術 ヒッチコック・トリュフォー』という分厚い本がありまして。 この本でヒッチ先生が聞き手のトリュフォー監督に語っているような様々なテクニックやアイデアの

アステロイド・シティ

ウェス・アンダーソンは、独特な画面センス(構図と色彩)で知られる監督。語り口としては、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)では「ホテル」、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ』では「新聞」のように、物語の「外枠」を設定して、その中に「愛すべきイカれた人々」の群像劇を詰め込むのが得意な監督だ。 本作は、トリッキーにも「『50年代アメリカ西部の町』を舞台にした演劇作品」という二重の物語構造。 『50年代アメリカ西部の町』部分はカラー、「それを演じている演劇」部分は

バービー

とにかくキラッキラした世界観が映画! インテリアや衣装の細部まで小ネタ満載。画面の細部に至るまで情報量が多すぎて、あちこちに皮肉が効いていて、読みきれなかったのでもう1回観たい。 女子の世界「バービーランド」を乗っ取った男子の国が「ケンダム」("kingdom=王国"のもじり)なのも笑えた。 バービーたちが逆転のため男たちの気を惹いて時間稼ぎする策略として、「photoshopの使い方を訊くと延々としゃべって止まらなくなる」とか「映画"ゴッドファーザー"について質問すると

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

このシリーズを1作目からリアルタイムに観てきた世代としては、本作がハリソン・フォード演じるインディの見納めかと思うと感無量。 個人的には、父親(ショーン・コネリー)との掛け合い芝居が最高だった3作目『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989) でスパッと終わりにしていても良かったと思うが。 もう一つ個人的な見どころは、全篇にわたって登場しインディの邪魔をするナチスの科学者(マッツ・ミケルセン)。マッツ様、ホントはすごい優しいイイ人らしいけど、映画では悪役を演じると断然

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE

このシリーズは、物語のツジツマとかそんな事はどうでも良くて、「ようやりますわーッ!」って叫びたくなるような、次々にくり出されるド派手アクション・シーン(スタントマン無しで全てトム・クルーズ61歳が実際に演じている)を、「たまやーッ!」とか「かぎやーッ!」とか心の中で叫びながら見物してればそれでいいんです。そんな映画があってもいい!赦す! そしてトム・クルーズ61歳が、今回もしっかりトムちゃん走りを見せてくれたので、それだけで満足だ! (説明しよう!トムちゃん走りとは、ト

君たちはどう生きるか

製作の噂をきいて、哲学的な会話劇の原作小説『君たちはどう生きるか』をどうアニメ化するのか? と思っていたが、原作のタイトルを借りた全然べつの物語になっていた。 公開直後は内容について「難解……!」という声も上がっていたが、じっさい観てみたら、通常営業の「ハヤオ節」ではないか。主人公の少年が、異世界に入りこんで冒険をくり広げ、再びこちら側に戻ってくる ── というストーリーラインは、『千と千尋の神隠し』とほぼ同じ構造。 これは劇場のドルビーシネマで観て本当によかった。音楽

アシスタント

映画会社に入った優秀で志も高い新入社員(ジュリア・ガーナー)が、代わりなどいくらでもいる新人の立場を嫌というほど思い知らされ、心が折れていく長い長い一日を、ドキュメンタリータッチで描く。 彼女は、上司のプロデューサー(ハーヴェイ・ワインスタインがモデル)が、ある新人女性社員(美人)を異様に厚遇している様子に気づく。明らかに性的対象にしているようだ。それに気づいた彼女は声を上げようとするが、その声は組織の中で押しつぶされていく。 本作の画面には加害者の姿も被害の具体的な内

カード・カウンター

ポール・シュレイダー監督脚本、マーティン・スコセッシ製作総指揮……といえば、あの『タクシードライバー』コンビではないか。これは観るしかないだろう!と劇場に駆けつけたのだが。これは『タクシードライバー』以上に、全篇にわたって重苦しいトーンの作品だった。 カードゲームでは、出たカードを記憶して計算することで勝率を上げることができる。「カード・カウンター」とは、この裏技で稼ぐギャンブラーのことだ。主人公の帰還兵(オスカー・アイザック)は任務中の罪で服役していたが、出所後はカード・

テノール! 人生はハーモニー

フランス、バンリュー(郊外団地)に暮らす低所得ラッパー(演じるのはビートボクサーのMB14)が、ひょんなことからオペラ座の声楽教師に認められ、クラシックの声楽を学ぶことになる。 映画は、オペラ(富裕層の音楽)とラップ(貧困層の音楽)の対比で、フランス社会の階層格差を描き出していく。 現実には仲間や家族と同様の貧困層に属する主人公だが、次第にオペラという芸術の魅力にとり憑かれていく。音楽に境界はない。音楽の中ならば、このハードな現実を超えて夢をみることが可能なのだ。 クラ

TAR/ター

作曲家であり、女性初のベルリン・フィル主席指揮者でもあるリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。だが学生への高圧的な発言の動画がSNSに流れて炎上したり、演奏者へのセクハラ疑惑がマスコミに取り上げられたりして、次第にその地位を追われていく心理サスペンス。 指揮者やオーケストラを主題とした作品ということで、随所にリハーサルやコンサートの場面が織り込まれているのだが、いずれもきわめてリアル。ケイト・ブランシェットの、演技とは思えぬ本格的な指揮っぷりに驚く。 だがクラシック音

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー

当方、リアルタイムのファミコン世代としてマリオはプレイしていたし、大人になって子供ができてからは、彼とゲームセンターに出かけてはマリオカートをプレイしたりしてきた。その程度のユルいマリオファンではあるが、劇中の様々な小ネタには「あ〜、コレあるある!」とノスタルジーを刺激されながら鑑賞することができた。 デフォルメされたゲーム世界ではキャラクターがビュンビュン走ったりピョンピョン跳ねたり、敵をポヨ〜ンと叩いたりするものだが、それを現実世界のスケールに置き換えると、とんでもなく

ウィ、シェフ!

自己主張が強すぎる女性料理人(オドレイ・ラミー)は、その性格が災いして勤め先のレストランをクビになってしまう。次に働くことになったのは、未成年移民の自立支援施設。最初は渋々ながら勤め始めた彼女だが、少年たちに料理を教えるうちに、彼らとの交流を深めていく……というコメディ。 原題の"La Brigade"は警察や軍隊の「小隊」を指す。同時に、料理長が自分の「チーム」を指す言葉でもあるという。バラバラだった少年たちは、料理を通して「チーム」として結束を固めていく。同時に主人公も