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モリンコの結婚式-ドリームガールズ-
去年の4月は、3週連続で友人の結婚式があった。
いまさらなのだけれど、そのうちの1つの式の話を今日は書こうと思う。
新婦モリンコとは、2年半くらい前に知り合った。
共通の友人が主催した、長瀞でのラフティング合宿で出逢ったのだ。
立ち寄った温泉の脱衣所で、モリンコは私にヘアトリートメントをくれると言った。
化粧品会社に勤めている友人からサンプルをもらったそうで、「これ、すごくいいから」と薦めてくれた。
それから私のことを、原沙知絵に似ていると、しきりに言った。
モリンコは私より6つ年下で、フリーのカメラマンをしていた。
福岡出身で、地元の大学の写真科を出た後、東京で働いていた。
モリンコは、自分のことを「モリンコ」と呼んだ。
モリンコは、背が高く、髪が長く、化粧っ気がなく、キュートな笑顔をしていた。
そしてモリンコは、その夜、みんなの前で大きな発表をした。
「こないだプロポーズされたから、結婚します」
それだけで、知り合ったばかりの若い女の子が急にまぶしく見えた。
付き合い始めてまだ数ヶ月で、東京と福岡の遠距離恋愛だという彼について語る表情が、照れくさそうに輝いていた。
モリンコは、お酒が好きだ。
なにかというと、いつも飲んでいる。
高いお酒じゃなくて、缶ビールで十分嬉しそうだ。
高いお酒だと、さらに嬉しそうだけど。
モリンコには、友達が多い。
誰とでもすぐに仲良くなる。
男からも女からも、年上からも年下からも好かれる。
モリンコは、正直で明るい。
陽気で楽しく、お酒と音楽があれば踊り出す。
モリンコは、情が深い。
友達のために泣いたり、本気で怒ったりできる人だ。
モリンコの博多弁は、かわいい。
酔っ払ってふにゃふにゃになる様子が、みんなを惹きつける。
あるとき、そんなモリンコの人の良さにつけ込んで、彼女が大切な友人の一人だと思っていた人が彼女にとんでもなくひどい仕打ちをした。
モリンコはそれがきっかけで、東京を去ることになり、予定よりずっと早く福岡に帰ることになった。
そういうモリンコが1年半の婚約期間を経て、結婚式を挙げることになったのが、ちょうど1年前のことだ。
私とあと二人の友人は、その式に出席するために、福岡まで出向いた。
その週末、東京ではまだ咲ききらない桜も、福岡ではちょうど見ごろになっていた。
会場の入口には、モリンコを撮った写真や、モリンコが撮った写真が、古いものから新しいものまでたくさん貼られていた。
モリンコのママの若いころが、モリンコ自身とあんまり似ていてびっくりした。
モリンコはあと20年ちょっと経ったら、あんなふうになるんだ。
実は、彼らの結婚式と披露宴は、その日、二回目だった。
午前中に親族や新郎の職場関係で和装の式を挙げており、午後からは、友人たちを招いての式と披露宴だった。
二度目のそれは人前式で、博多湾を臨むレストランで行われたが、既に緊張も解けた新郎新婦とその両親は、初っ端からくだけてテンションが高かった。
パーティの席次表には、私たちの紹介に「新婦東京飲み友人」と書いてあり、テーブルのそれぞれの席には「ウコンの力」が置いてあった。
乾杯の前に、100人近くの招待客全員で「ウコンの力」を飲んでスタートする。
だいたいそんなノリだから、昼過ぎに始まったパーティが、その後そのまま二次会(三次会?)になり、花婿は鏡割りやら裸踊りやらした挙句、真っ赤な顔でへべれけになり、花嫁はウエディングドレスのまま、ビール瓶をラッパ飲みする始末だった。
この日、招待客の前で生着替えならぬ、生お色直しというユニークな演出もありながら、二次会の途中、モリンコは、再びお色直しに消えた。
やがて満を持して、スパンコールきらめく、ミニドレスをまとったモリンコが登場した。
その両脇には、同じドレスを着た、モリンコのママとお姉さんが並んでいた。
入場曲は「ドリームガールズ」。
ブロードウェイミュージカルがビヨンセ主演で映画化され、日本では、渡辺直美がエアビヨンセを披露する、おなじみのメロディ。
当然、盛り上がらないわけがない。
だいぶん練習を積んだようで、モリンコ母娘は、曲に合わせ、ドリームガールズとして見事に踊った。
普段はゆるいシルエットのユニクロばかり着ているモリンコだが、ミニからのぞくビヨンセ顔負けの脚線美がまぶしい。
モリンコ以上にノリノリだったのがそのママ(50代)で、やんやと囃子立てる観客たちをまわっては、ドレスの肩紐におひねりを挟んでもらっていた。
はじけきる才能は、どうやら遺伝らしい。
あんなに盛り上がった結婚パーティは、初めてだった。
ここに書ききれないほど、涙も笑いもある、本当に素晴らしい式だった。
とにかく、新郎も新婦も、みんなに本当に愛されているのだと思ったし、彼らがみんなを本当に愛していることもよく分かった。
モリンコは、不思議な子だ。
とても自由で、へんなこだわりがない。
彼らの結婚も、型にはまらないユニークなスタイルだ。
共通の友人はいるけれど、年齢も離れているし職業も違うし、なかなか交わりそうにない世界にそれぞれ生きているのに、どうして私たちが仲良くなることができたのか、それはよく分からない。
ただ、モリンコがあのえくぼのできる少し照れた笑顔でヘアトリートメントをくれた、たったそれだけのことから始まっている。
だけど、モリンコと友達になれて、本当によかった。
だってもう、あんなにかわいい女の子はいないから。
とても不思議で、とても楽しい。
モリンコがいると、みんな幸せになる。
ほんとにこんな子がいるんだなあって、ちょっとファンタジーみたいだと私は思っている。
ドリームガールズ Dreamgirls(2006年・米)
監督:ビル・コンドン
出演:ジェイミー・フォックス、ビヨンセ・ノウルズ、エディ・マーフィー、ケイト・ハドソン他
■2010/4/22投稿の記事
昔のブログの記事を少しずつお引越ししてきます
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