春色気分-プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角-
ファッション業界に半ば足をつっこんでから、半年以上経つ。
それは、上司の突然の異動に伴って、私のメインの仕事になった。
もともと温め続けた企画が実行フェーズを迎えたという感じなので、やるべきことに迷いはないが、とはいえ、まったく不慣れな世界である。
ロジックを組み立てて仕事するのを主としてきた私にとって、「ファッション」なんていう、感覚的世界で自分が仕事をするなんていうことは、思いもよらなかった。
さながら、「プラダを着た悪魔」の主人公アンディのようだが、以前にその映画についての記事で書いたように、未経験の世界でまず必要なのは、その世界のルールを知ること。
私は、決してファッションに詳しくない。
常識的な、ごくごく普通レベルのセンスしかない。
私が仕事で相手にするのは、バイヤーやスタイリスト、モデル、ジャーナリストといった感性で勝負する人たちであって、彼らとのコミュニケーションを成功させるためには、彼らを理解し、同じ言葉でしゃべる必要がある。
だから、まず私がやったことは、ファッションを勉強することだった。
と言っても、私はモードの世界に入ったわけでなく、いわゆるリアル・クローズに接しているので、勉強の対象は日常にいくらでもある。
自分自身がそれに関心を寄せ、様々な情報源に触れ、自ら売場に赴いて、流行の服を買ってみることだ。
いつもより少し質のいい服を、いつもより少しポリシーをもって。
世の中で何が流行っているかにアンテナを立てるのは昔から好きだったけれど、最近は、街中を歩く女性たちの服装を観察するのが癖みたいになった。
自分と同じ年代の人たちだけではなく、若い人のファッションも、少し年上の人たちのファッションも気になる。
ブランドにも詳しくなったし、勘が働くようになった。
素材や製法にも興味をもつようになったし、価格の感覚も少し身についた。
センスが磨かれたかどうかはよく分からないけど、昨夏以降、私自身の容姿について「雰囲気が変わったね」と人に言われる機会がとても多かった。
デジタルパーマをかけたのは5月なのに、10月の終わりあたりから突然、何人もの人に「髪型変えた?」と言われる日が続き、本当に面白いと思ったものだ。
ちょっと気を遣うだけで、ちゃんと印象は変わるらしい。
この秋冬は黒が流行色で、ファッション誌ではブラックが特集され、私が担当している番組でもブラックカラーの洋服が何度もラインナップされた。
「素材の質感で変化をつける全身ブラックの装い」とか「上品で若々しい黒の着こなし」なんていうのがキーワードで、確かにおしゃれなのだけれど、ぱっと見、真っ黒けで華やかさがなかったのは事実だ。
こうも黒ばかり見慣れてくると、次は彩が欲しくなる。
脂っぽい肉料理ばかり続くと、野菜や魚が食べたくなるようなもので。
天気が悪くて寒い冬日が続くと、桜がどんどん待ち遠しくなるようなもので。
ファッションも、自然と春を待ち望んでいる。
先日、仕事で某ファッション誌の撮影に立ち合ったのだけれど、3月1日発売の4月号のグラビアだから、スタジオはもう、完全に春だった。
ベージュやピンクの淡く優しい色合い。
ヌーディな足元には抜け感があって、実に軽やか。
このスタイリング、そっくりそのまま買い取りたいくらい素敵。
そう思っていると、お世話になっているスタイリストさんが「これは、yukoちゃんイメージよ」と。
「上品セクシー」がコンセプトだというそのコーディネートは、かなりスカートが短い。
色合いもシルエットも、私が普段あまり選ばないものだ。
モデルさんのように綺麗に着こなせはしないだろうけど、こういう服を着たら、確かに私にも春が来そう。
そんな風に思うような。
同じスタイリストさんから、映画「プリティ・イン・ピンク」のDVDを借りて観た。
80年代のアメリカの高校生たちの生活を描く青春ドラマで、主人公の女の子は、お金はないけれど独自のセンスでおしゃれを楽しんでいる。
彼女はテーマカラーのようにピンクを好んで着ているのだけれど、同じピンクでも、青みがかったものからオレンジ系のもの、サーモンピンク、ベージュピンク、ケミカルなもの、ナチュラルなもの、光沢があるもの、マットなものなど、とても幅が広い。
「yukoちゃんには、コーラルピンクが似合うと思う」
そう言われたときから、ショーウィンドウの春物が気になってしょうがない。
来週には、気温も少し、暖かくなるらしい。
プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角 Pretty In Pink(1986年・米)
監督:ハワード・ドイッチ
出演:モリー・リングウォルド、ハリー・ディーン・スタントン、ジョン・クライヤー他
■2010/2/18投稿の記事
昔のブログの記事を少しずつお引越ししてきます