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スワンボートの王子様

「ねえ、スワンボートの王子様の話って知っている?」

と、彼女が突然、公園にある池のスワンボートの話をし始めた。あの数十台あるスワンボートは皆んな女の子で、ひとつだけ男の子のスワンボートがあるんだとか。

「ひとつだけ、キリっとした眉毛がある子がいるの、その子が王子様なんだって。」

彼女は得意気な顔で話をつづける。たくさんいる女の子の中から、お姫様候補を探しているんだ、とか。あの中に意地悪なお嬢様がいる、とか。少し汚れているけれどとても可愛い子がいる、とか・・・つまりは、あの童話と重ね合わせている。そのうちに、「あのね」「んとね」が多くなってきて、別の童話の登場人物が出てきたりする。あとで「もう一度このお話をして。」と、言っても出来ないだろう。あきらかに創作しながら話している。

「今から探しに行ってみない?」

そんな彼女の提案に「じゃあ・・・行こうか。」と乗ると、

「うんっ!」

と、いつものあのクシャっとした笑顔と大きな声で返事をして、ボクの上着の袖を引っ張って走り始めた。

この「スワンボートの王子様」のお話は、JR吉祥寺駅から徒歩数分にある「井の頭恩賜公園」のボート乗り場を舞台にしたお話です。写真に写っているとおり実際に王子様が存在していて、眉毛のキリリとしたスワンが一羽だけいる。昔、「王子様を見つけると良いことがある」という噂を聞いたことがあったことと、井の頭公園でのボクの個人的な思い出をあわせたのがこのお話。普通の女の子とはちがった「オリジナルな女の子」ならではのエピソードを取り入れた。

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