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「伝わらないこと」こそ、糧にしろ


LITALICOに入ってまだ2ヶ月程度しか経っていない新参者の分際で、アドベントカレンダーなんていう素敵な催しに参加させて頂いたことにドギマギしております。

こんにちは。編集者のウエノです。

とりあえず、日が浅い私は先輩方のように「これがわしの戦歴じゃ」と語れるものがそれほどないので、これまでの職歴を振り返りつつ、文章を紡ぐ人間としてぼんやり考えていることを書こうと思います。


あれ、新聞記者って案外「書けない」ね?


私は、新聞記者をしていました。けっこう長い年月、取材をし、記事を書くという仕事をしていました。


新聞記者というと、スッと話を聞いて、トンと文字にしたため、パーンと特ダネを飛ばす格好良さげな職業に聞こえますが、そうでもありません。非常に悩むことが多いお仕事です。
ではどんなことが悩みのタネか?


まあ舞台裏をさらしてしまえば「文章下手クソで上司に怒られてばっか」とか実際はいろいろあるんですが、

「書きたいことが書けない」

これがあるんですよ。

記者は現場に行くのが宿命。事件現場を歩いてみたり、インタビューしてみたり。記者会見もありますね。そして、そこで記者はいろいろな話を見聞きするのです。

記事に必要なこと、必要でないこと。重要なこと、重要でないもの。楽しいもの、悲しいもの。


で、記者も人間ですから、ときにエモーショナルな話題に出くわすと心を動かされることがあります。


それは例えば、息子を亡くした両親の立ち直りの経緯であったり、震災で結婚指輪を取りに行けなくなった新郎新婦の話であったり、不正に関与した会計担当者の後悔であったり。

ただ、エモーショナルな話題って、必要とされないことが多々あります。ていうか、だいたい新聞には載りません。

ようは個別具体的な人間の生き様の話なので、重要な情報かというと、そうではないねと判断されてしまうからです。
「文字数オーバーしちゃうからいらない」「公共性ないから、今回はなしね」。上司に報告しても、なしのつぶてです。

さて、悩みます。1人の人間として伝えたいと思ったことが、伝えられないわけですから。心を動かされたその事実こそが、「いらないもの」認定されたわけですから。


伝わらないものこそ届けようよ、どこかの誰かへ


この悩みは、LITALICOに入ってからも解消されていません。


編集者として、ライターとして、取材をして、話を聞いて。そして伝えたいと思ったことを、文字数や公共性の観点から「伝えられない」判断をすることがあります。
せっかくこんな良い話聞けたのにな、この人の今の気持ちを文字に表現できたらいいコンテンツになりそうなのにな……。

転職しても、悩みや葛藤は続いたままなのでした。

でもね。

ちょっと思ってることがあるんですけど。

こういうコンテンツに載らなかった個別具体的な情報って、文字としては記録に残らないのかもしれないけど、編集者の脳みそのシワとしては残っていくのではないかなと。

そのとき編集者という1人の人間が感じたことは事実なんですから。そして彼らって、文字を紡ぐ職人なわけですから。

コンテンツは、野菜や洋服と一緒で、人間が自分の感覚を信じて精魂込めた作品なわけですよね。

紡ぐ人間の職人技を豊かにするものとして、シワは確かに蓄積し、存在していくのだと。信じていたりするのです。

それを、他のだれでもない私自身が忘れないでいること。そうすれば、伝えられなかった幾千無数の物語たちが、紡ぎ手の腕に宿って、新たに現れた「伝えたいこと」たちの血肉になるのではないかな。

表現の豊かさにつながるというか…ね。はい。そんな感じだといいなと思って、今日も筆を執って仕事してます。


うーん、書いてみると恥ずかしい。

読んで頂きありがとうございました。


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