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こどもの福祉を学ぶ『児童養護施設という私のおうち』
ここのところnoteをきっかけに読んだ回が続いていますが、今回のもまさにそれ。膨大な蔵書を抱えている本屋さんや図書館にただプラっと行くだけではずっと気付かなかったかも知れない本にも、思いがけず繋がるのが面白い。
『児童養護施設という私のおうち -- 知ることからはじめる子どものためのフェアスタート』- 著者:田中れいかさん
「児童養護施設」のワードから、どんなことが連想されるでしょうか。いつかドラマで観たような、時々メディアで報道されるような、あんなこんなイメージ?
私自身、薄ぼんやりしたイメージしかこれまで持ち合わせていなかったのと、何だか読みやすそうなこの装丁(と、爽やかな笑顔!)に惹かれて入手してみました。
読んでみると、主な流れは自伝的なノンフィクションでした。著者の田中れいかさんご自身が、ご家庭の事情で幼少期から高校卒業までを児童養護施設で過ごし、そこから自立して現在の活動に繋がるまでを記してあります。田中さんはモデルのお仕事を経て、今はご自身の経歴や経験を活かし、児童養護施設を中心とした児童福祉関連のことを啓発したりサポートしたり、という活動を続けていらっしゃるそうです。
でも、この本は単純な自伝ではなく、田中さんの経験と成長過程に合わせて、様々な情報が痒いところに手が届くよう組み込まれていました。児童養護施設とは?という超基礎的な内容から、具体的な統計や根拠となる法制度、利用する子どもたちの様々な背景や声、そして職員の方々を始め施設に関わる大人たちのお仕事や心情などが、分かりやすくまとめられています。こういった客観的な情報もたくさん詰め込まれている内容で、非常にためになりました。
田中さんも本書内で何回も言われていますが、施設に入る子どもたちの事情や背景は個人個人で本当に様々。ドラマや報道でこういった施設のことを取り上げる際は、まだまだ深刻な問題がセンセーショナルに取り沙汰される傾向が強いと思います。けれどもこの本では、子どもたちが実際どんな環境でどう生活しているか、経験者の田中さんを中心としたインタビューや情報で具体例を知ることができ、私の持っていた拙いイメージもだいぶ変わりました。
勉強や進路含め生活全般の何をどこまで支援してもらえるかは、地域や個々の施設によっても細かいところでカラーやバリエーションがあるみたいです。田中さんの経験では、施設は季節ごとのイベントや泊まり行事など楽しいこともたくさんあるし、大きい子が小さい子の面倒を当たり前のように見たりと、明るくて賑やかで大きな家族みたいだったとのこと。就学支援も積極的なようでした。
また、こういった施設に入るのは決して特殊な子どもたちではないんだよ、という強いメッセージも感じました。何らかの理由で養育者が子どもを育てられない事情は様々(身体的・精神的疾患、死亡、離別、虐待、経済的理由などなど)ですが、どんな家庭にだっていつ何時そういった問題が起こるかは分かりません。
児童養育に限らず、障害、高齢化、ケガや病気など様々な事由で、人は生きている限りいつどんなタイミングで福祉が必要になるか分かりませんよね。ノーマライゼーションとか心のバリアフリーとかいうワードがトレンドになってから久しいけれど、日本のどこに住んでいても、どんな状況下でも、質がしっかり担保された福祉が安心して受けられる社会になってほしいな、と、この本を読んで改めて思いました。
こんなささやかなnote記事でも、もしかしたら少しでも何かのお役に立てるかも知れないので、本書で紹介されていた田中さんが何らかの形で関わる活動のURLも貼ってみますね。
たすけあい - 田中さんご本人が発信する非営利メディア。YouTubeもあります。社会的養護の理解を広げていくための情報サイトです。
ゆめさぽ - 田中さんが代表理事を務める一般社団法人。進学の際の受験費用を助成する取り組みなど、様々なサポートをしています。
プラネットカナール - 田中さんが広報や動画制作などに関わるNPO団体。不要になったけれどまだ使える家電を、施設から自立して新生活をスタートさせる施設出身者に繋げるプロジェクトなどを行っています。