言ってみたい『本日は、お日柄もよく』
こちらもnoteで初めて知って読んでみた本です。
これまで出席させて頂いた結婚式の数々でも、「本日はお日柄もよく」ってセリフは、聞いたことがありそうで意外と無いかも。
『本日は、お日柄もよく』- 著者:原田マハさん
なんかおめでたいお話かな?と思ったら、やっぱり!冒頭からして結婚式のシーン。おお、きっとほのぼの系ですね、と思ったらどうも毛色が違ってくる。それだけじゃなさそうだ。
総じて、スピーチライターというあまり聞きなれない職業がメインで出てくるお話でした。つまり、スピーチのプロ、人の心を動かす言葉を操るプロ、なわけです。そのお仕事をされる方々が扱うスピーチの規模は、まさに千差万別。結婚式のスピーチから、町内会の会合でのスピーチ、企業の重要イベントのスピーチ、政治家の演説、はたまたアメリカなら大統領選でも大活躍らしい。
いわゆるごく普通のOLである主人公と、このスピーチライターというお仕事の劇的な出会いとその後の変遷は、なかなか動きのある展開でした。
スピーチとは何か、と考える機会に
言葉の使い方、話の持っていき方、ちょっとした話し方テクニック、そういったある意味ノウハウが登場人物たちから伝授されていって、読者としても何かと勉強になりました。
ただ、小説なのでノウハウ本とは違い、言葉の力の偉大さ、相反してその限界や無力さ、それでも実は常に存在する言葉の根底から漲り続けるエネルギー、、、そういったことも様々なエピソードと共に描写されています。
人の心を動かすスピーチ、感動を伴うスピーチをする。そんな大それた役目とは少なくともこれまでの人生では無縁だった私(友人からは大勢の前で話すのなんて余裕でしょと思われがちだけど、実は超苦手意識あり…!)からすると、スピーチのプロというのは一体どんな内容を話すのか。そこは特に興味深く読みました。
伝説のスピーチライターによる渾身のスピーチ場面。確かに、上手い。こりゃ一本取られました、みたいになる。小説なのに目の前で繰り広げられているかのように、読んでいる私もついうるっと来ちゃいそうでした。
ちょっと(だいぶ?)ネガティブな感想はこちら
さて、このお話にネガティブ要素を求めない人、聞きたくも無い人は、ここから先はどうかどうか、読まないでくださいね。本筋でもないし。いや本筋からめっちゃ離れますよ!予めごめんなさいですよ!そして今回ちょっとネタバレもあります🙏🏻
この物語、あれよあれよという間に、とある選挙戦の場面が事細かに続いていくことに。この動向って、、実際にあったあの頃やあの人やあの感じのオマージュ、というかもはやマニフェストなんてまんま使ってるよね?と、当時を知る人には誰にでも分かる描写が続きました。
主人公たちは当然のごとく、当選や政権奪取に向けてスリリングな展開!みたいになっているんだけれど。私はどうも感情移入しきれませんでした。特に支持する政党も無い私は、この物語にも出てくるようないわゆる大衆のマジョリティ(無党派層)のようですが。
たぶんね、そこそこの年数を生きてきた中で、残念ながら日本の政治というものへの諦めやら不信感やらっていうのが、骨の髄まで染み付いちゃってるんでしょうね。
実際の政治家って、どれだけ素晴らしいことを言ってても、どーせ当選したら公約なんてほとんど忘れて私利私欲に走るんでしょ?とか。素晴らしいスピーチや公約がもし本心だったとしても、権威的な既得権益死守系のおっさんたち(語弊はあるかもだけど、結局高齢男性陣が牛耳ってるじゃない日本の政治って)にウザがられて総出で潰されそうになるんでしょ?とか。
どうにもこうにも、そういう日頃のネガティブな感情が渦巻いて、冷めた距離感で読んでしまうのです。
いや、私は一応選挙は必ず行くし、白票にもしないし。その時その時で、一応考えてそれなりにベターであろうと思える選択はしているつもりなんだけど。関心が無いわけではないんです。むしろもっともっと、皆が生きやすい世の中に変わってほしいという期待も願いもあるんだけど。
けどけどけど。
今の日本だとそんなのあまりにも現実味が無いように思えてしまって、なんか考えるのも疲れちゃうのよね。。。実在の政治家も、大半がこのお話に出てくる人たち(のうち味方側、クリーンなほう)みたいだったらいいんだけれど。
ええと。ネガティブついでに何だけれど、登場人物の女性たちは男性のサポート役ばかりなのも、読んでいてちょっとモヤモヤしてしまいました。
期待の立候補者も、政党の党首陣も、無茶苦茶仕事のできる敏腕社員も、大手企業の気のいい社長も、世の中や会社を劇的に動かす立場の人たちは、みんな当たり前のように男性のみ。
それどころか、候補者の妻は身重で無理をしてでも懸命に夫を支えるのが美談のように描かれるし、下世話なレポーターの不躾な取材に晒される。主人公の友人女子たちは、まるで人生とはハイスペ男子と結婚することとしか頭にないような浅〜い描写。主人公の祖母は孫息子同様の弟子を可愛がり、実の孫娘のこととなると謙遜を通り越して卑下するような物言いばかり。
こういうの、現代の日本に沿った配役となるといちばん自然なんでしょうかね。作者に悪気があるとは全く思いません。(むしろ、こんな偉そうなこと書いててごめんなさい!)けど、こういう設定こそが「自然」「当然」と認識できてしまう点で、また日本社会にそこはかとない絶望感を感じてしまうんです。明治大正時代の本ならまだしも、2023年の本でも、こういう設定になるのかぁ、と。それも、ベストセラーになる本で。
つい最近ですら、国際的な女性活躍会議に日本だけ男性閣僚が出席しちゃうというギャグみたいな現実。いっそギャグなら良かったな(笑えないけど)。
私にとって、日本の政治のイメージは、グレーとか黒ばかり。これがもし鮮やかな色合いになったなと思える日がいつか来るならば、スピーチライターのアプローチもきっとまた違ったものになるでしょう。
その時のスピーチの極意、読んでみたいな。
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