夢をつかむ! 063_20241113
冷静と情熱の間には確執が生まれる
『冷静と情熱のあいだ』という小説がある。
二人の男女が主人公で、江國香織が女性側の視点から辻仁成が男性側の視点から描いた物語だ。
私はこの物語が大好きで、小説も読んだし、映画も見た。
映画は何度も繰り返し見た。主人公の竹野内豊が最高にいい。
舞台はイタリアのフィレンツェ。
あまりにも好きすぎて、フィレンツェにまで行ったぐらいだ。
同じ景色が見たくて、ヴェッキオ橋も見たし、ウフィツィ美術館にも行ったし、ドーモ(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)にも登ってみた。
町並みが夕暮れ色で統一感があり、とにかく綺麗な町だ。
さてそんな大好きな「冷静と情熱のあいだ」ではあるが、最近、我が夫婦に起こったのは、壮大なラブロマンスではなく、ちょっとしたコンフリクト(対立)だった。
常に冷静な夫と感情的な私の間には、双方の理解のズレから大きな対立が起こった。
ばあちゃんの事故の件だ。
私は97歳のばあちゃんが一瞬のうちに寝たきりにならざるを得なかった状況を作った事故の相手に怒りを覚えた。
でもそれは事故を起こしたからではない。
事故は誰でも起こり得る。
それは自分にだって当てはまる。
故意でなければ、許すことも必要だ。
ただ、私はよくよく自分の気持ちと向き合ってみた。
私より夫の方が辛いのではないか。
ばあちゃんがもし死んでしまっていたら、こんな風に落ち着いていられるだろうか。相手を責めないでいられただろうか。
感情がある程度落ち着いていることに、私は自分が冷たい人間のような気がしていた。
実際、おそらく夫の方がいろいろと動揺もし、感情が疲れただろうと思う。
ところがだ、私は待てど暮らせど事故の相手が現れないことに段々腹がたってきた。
「おかしいでしょ。悪かったらごめんなさい、と謝るよね、普通💢」
夫の言い分は違う。
「交通事故は保険会社が間に入ってやりとりする。交通事故で0対100はない。謝ったらダメなんだよ」
「いいんや。私は保険の話をしてるんじゃないわけ。事実、自分が起こした事故で怪我人を出したじゃない。悪いことをしたら謝る、これ、人として基本的なことだから💢」
私は夫という人間が分からなくなってきた。
「あんた、もしあんたが誰かを引いてしまったり、車をぶつけて怪我人を出しても、それは保険会社がすることですから、謝らんってか💢」
この押し問答は延々と続き、私は夫という人間に絶望感さえ覚えた。
「私、今日初めてあんたと結婚して、失敗だったと思ったわ。こんな冷たい人だと思わんかった。謝らん人間は軽蔑する。もう知らん。私はもう知らん。これは大事な価値観の問題だよ。その価値観が違うって、夫婦としてもうやっていけんかもしれん。」
だいたい、何でこんな喧嘩になっとるんか、わからんくなってきた・・・
ばあちゃんが事故したことで、私と夫が「見解の相違」で別れるようなことになったら、それこそ「我が家の大惨事」である。
ただでさえ、ばあちゃんのことでダメージを受けている夫に対して、私が「離婚」だと激しく非難することは正しいのだろうか。
だんだん夫も可哀そうになってきたが、私は私の信念を曲げたくはないし、ばあちゃんの身になって考えれば相手からの直接の謝罪がないことに悔しくて悔しくて。
見舞いに行くたびに、ばあちゃんは「まだ事故の相手が謝りにこん。悔しい」と訴えていた。
97歳でこんなひどい目に遭い、やるせなかったんだろうと思う。
それにしても体はボロボロだが、頭はしっかりしている。そういうとこがばあちゃんのすごいところだ。
結局、私は相手への怒りを夫にぶつけるしかなかったのかもしれない。
3日、口を利かなかった。
夫は、3日後から私にとても気を遣うようになった。
ますます夫がかわいそうになってきた。
5日目には仲直りをした。
夫は感傷的ではあったが、感情的にはならず、常に冷静を貫いた。たいした人だ。
私は感情に負けた。むだに夫を傷つけた。一番、傷ついている人を傷つけた。
その上、ばあちゃんの見舞いに行くとばあちゃんが不憫でならなかった。
とにかく辛い1ヵ月半だった。
幸い、ばあちゃんは回復し、昨日退院して施設に移った。
この間、一番尽力したのは孫の夫である。よく頑張ったと思う。
もとらない妻である私も多少は頑張った。決して夫の支えにはならなかったが、義祖母にはできる限り尽くしたつもりである。
一つの事故が一人の人生を変えただけでなく、二人も三人もの人生を変えてしまう(可能性もあった)ということだ。
皆さん、とにかく車の運転には十分に気をつけましょう。
<1年前の”種まき日記”>
1ヵ月に1回帰省できることを目指して、頑張って稼ごうと思っていたのに、1年以上帰省できていない現状。何とも情けない。親不孝。
両親が帰っていくとき、空港でぎゅーっと胸が締めつけられるような思いをしたのを今も覚えている。「こっちの人間・・・」あれは辛かったな。
<2年前の”つれづれ日記”>
noteで仲良くさせていただいていた作家の高見さんの小説『愛』の感想文。
すでにnoteを退会されてしまって、近況を存じ上げない。お体は大丈夫かな?お元気でお過ごしであることを祈っています。