読書会で読んだもの 振り返りと次回開催について
8月25日に第4回クラフトビール文献読書会を開催しました。3部制とし、2時間の枠を3つ設け議論したというのは前回までと同様です。ご参加くださいました皆様、ありがとうございました。深くお礼申し上げます。
そこでの議論について少しご紹介しておきましょう。
第1部はビブリオバトルっぽいことをしました。書評合戦というか、読んで面白いと思った本を持ち寄ってその素晴らしさをプレゼンして頂きました。偶然にも第2部、第3部にも関連する本が紹介され、この日一日が非常にエキサイティングなものになったと思います。
ちなみに私がご紹介したのは山本高之氏の「ベルギービール解体新書」と「クリティカル・ワード 文学理論 読み方を学び文学と出会いなおす」の2冊です。山本氏はこの本の中でビアスタイルを脱構築するとしています。ベルギービールというテクストの読解における定説の相対化を試みていて、それに成功していると思います。これを踏まえて考えるに、ビールがテクストであるならば脱構築以外のポストモダニズム的な手法も援用可能なはずであり、ポストコロニアル、ジェンダー、エスニシティ、インターテクスチュアリティなど様々な切り口が考えられるでしょう。そこで文学理論の本を接続させました。これは第2部への、私なりの接続でもあります。
第2部ではBeer Studiesという研究者グループの文章を2つ取り上げ、拙訳を参加者の皆さんと読み合わせました。
The reversal of historical perspectives about beer
The craft brewery revolution began in Europe
このグループは文化人類学的なアプローチでビールを始めとする発酵飲料を研究の対象としていて、そのスタンスは明快且つ一貫しています。このグループは多文化主義的視点の下、全て等価なものとしてフラットに扱っています。発酵飲料という広い視野で捉えた時、現代のように原料に麦やホップを使うことは当然のことではありません。条件に照らして効率やコストを考慮し、合理的且つ意図的に選択された結果であって、それ以上でもそれ以下でもないのです。現代的手法が完全に内面化されていて、それ以外の世界各地に存在する発酵飲料に思いを馳せることもなかなか無いでしょう。麦やホップの代わりに蜂蜜や果物、米やとうもろこし等を用いる文化も実際にありました(もしくはかつて存在した)。これを当たり前だと考える方もいらっしゃると思いますが、この視点は案外意識しないと出てこないものです。どうしても直線的な進歩主義的歴史観の方が直感的に理解しやすいことは否めないわけで、この文章によってそれに気が付かせてもらえたと思います。
もう一つの文章はクラフトビールの起源に関するものです。クラフトビールというカルチャーがアメリカ発祥であるとよく言われます。語弊を恐れずに言うならば、それは『彼らの基準による歴史的整理においては』事実です。あらゆる物事は他の何かに影響を受けて生じ、それ単体で無から生まれることはありません。クラフトビールの始まりをどこに見い出すのかは非常に難しい問題です。始点と終点を定めること、時間を区切って切り取ることはある種の歴史観、イデオロギーを示すので、その点に対して意識的であることは非常に大事だと私は思います。
こう思うと、クラフトビールは対置するものを変えながら常に脱構築的であるのかもしれない。
さて、続く第3部は「クラフトブルワリーとシーンの課題」がテーマでした。指定図書はcraftdrinks.jpにて御本人に許可を得て翻訳した、De Dochter van de Korenaar(ドクトルヴァンドゥコールナール醸造所)のRonald Mengerink氏が12月2日にfacebookに投稿した文章です。ここには現代クラフトビールが国を問わず問題になっている事柄が多数挙げられていて、非常に示唆的な内容です。ここ日本でも同様のことが予見され、マイクロブルワリー全てに共通する課題になるであろうと思われます。これを元に議論することは発表から5年経った今でも意義深いと考えました。一度限りの限定品を求める消費者とその意向に沿って供給・提供するブルワリーの構造について議論が出来たことは意義深かったと思います。
さて、次回のご案内です。来月も読書会を開催予定で、これまで通り無料です。どなたもご参加頂けます。第6回は9月23日に行います。以下ご確認くださいませ。
3部制で各回参加自由です
12時〜、14時〜、16時〜の3部制で、それぞれ内容が異なります。第6回も試験的にこういう形で行うこととします。
第1部は「ビブリオバトルっぽい」の会です
前回同様、本を紹介し合うビブリオバトルっぽいことをしようと思います。
第1部に参加される方はクラフトビールを考える上で役に立った本を1冊以上持参し、その本がどういう風に役立ったかをプレゼンしてください。「クラフトビールを考えるのに役立った本」であって、クラフトビールそのものに関する本でなくても構いません。小説、評論、デザイン集などジャンルは問いませんので推しの一冊を紹介してください。
なお、ビブリオバトル公式ルールではこのようになっていますが、この会では特にチャンプ本は決めません。また、ホワイトボードも使用可、作成した資料の配布も可とします。大事なのは伝えること、伝わることなので口頭での説明だけに制限しないこととします。
第2部は「事前に読まずにその場で読んで議論をする」会です
主催者が用意した短めの文章をその場で読み、発表・議論をします。クラフトビール文献読書会とは(詳細版)で示した通り、うまく考えをまとめられなかったら一旦パスしてしても構いません。他の方の意見を聞いてから後で必ず発表してください。
今回は国産原料に関する論文を読もうと思います。農産物である麦やホップは人の手で作られるものですが、自給率は低い。その理由やボトルネックとなっている事柄が何かを考えてみます。また、一人のビールファンとして海外からの輸入品と比較して国産原料に対して何を期待する/しないのかについてもご意見頂けたらと思います。
第3部は「事前に読んで発表し、議論をする」会です
事前に指定された文章を読み、そこから読み取れたこと、読んで考えたことを発表して頂きます。その後、挙がった論点について更に議論して参ります。第6回読書会は「ビールにおける共創」をテーマとし、課題図書としてJstageに上がっている「企業の共創の進化 ― HOPPIN’ GARAGE の挑戦 ―」を扱います。共創というとなんだか難しそうですが、取り急ぎ広く「コラボ」と捉えて頂いても問題ないです。
上掲の論文ではアブストラクトで下記のように示されますが、これを意識して読んで頂けたらと思います。
ということで、第2部では上記課題図書を読んだ上で、①共創のメリットないし必要性は何か、また逆に②共創しないことよって生じると考えられるデメリットは何かを発表してください。これに加えて、③共創によって生まれるビール(広くコラボレーションビールと考えても結構です)のこれからについて意見を発表して下さい。正解があるわけではないので、ご自身の認識と思考のプロセスをお伝え頂けたらと思います。
ということで、こんな感じで第6回を行います。初めての試みもあり、ちょっとドキドキしておりますが…お越しくださいませ。お申し込みはクラフトビール文献読書会参加申し込みフォームからどうぞ。会のルールや申込み方法はnoteにまとめてあるのでそちらをご確認ください。皆様のご参加、心よりお待ち申し上げております。
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