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きまぐれナポリタン

みなさん、ナポリタンってお好きですか?


私はかなり好きです。



茹ですぎたスパゲッティの水を切って、フライパンに入れ、いろんな具を入れてトマト・ケチャップで炒める。しかも運ばれてきた時にはすでに冷え始めていて湯気も立たぬ。これをあなたはスパゲッティと呼ぶ勇気があるのか。ある、というなら私はもうあなたとは口をききたくない。


敬愛する伊丹十三御大の『女たちよ!』冒頭にて、熱いdisを浴びせられているナポリタン。いえ、御大のおっしゃることはごもっともなのです。畏れ多くもこの名著を生涯のバイブルとして心に掲げる民としては、御大のお気持ち、ようくようくお察し申し上げます。茹ですぎてる時点でもうダメだし、ましてや食卓に運ばれた時には冷え切っているなんて言語道断であります。ただ……ただですね。御大の御前にて、この卑しき食いしんぼうが言葉を発することをお許しいただけるのならば、そのような誉れ高き栄誉をお与えくださるのならば、どうか、どうか、一言だけ申し上げたい。「あつあつアルデンテのナポリタンにはお慈悲を!」と。


真っ赤なソースに染まったパスタ、合間に見え隠れする玉ねぎ、ウィンナー、ピーマン。少し焦げたような香ばしさも入り混じる、甘やかなトマト・ケチャップの香り。日本人による、日本人のための洋食メニューは、欧州帰りの洒脱な伯父さまにしてみれば、確かに眉をひそめざるを得なかったのだろう。けれど私はあの一皿からほとばしる昭和感が好きだし、時々むしょうに食べたくなる味なのだ。材料も、たいてい冷蔵庫に入っているものばかりだし、思いついたときにぱっと作れるお手軽さがいいんだよなー。具材を工夫すれば一皿で野菜も取れるし、食べごたえもあるし。


ところでナポリタンの定義ってなんでしょうね?


個人的には、「玉ねぎと肉ものと青いものが入ってて」「味つけにトマト・ケチャップを使った」「スパゲッティ」がナポリタンである、という認識なのだけれど。この辺は人それぞれ……いや、ご家庭それぞれと言うべきか。肉ものはウィンナー一神教の方もいれば、青いものはピーマン以外認めない!って方もいらっしゃいましょう。玉ねぎなんか、クタ派とシャキ派で争い続けてかれこれ数世紀ですものね。いったいどれだけの人々が涙し、どれだけのトマト・ケチャップが流れたことか……。

私は、私同様にいい加減かつ大ざっぱな母上から生まれ育ってきたゆえ、肉系はウィンナーだろうとベーコンだろうとツナ缶だろうと、入っていればなんでもよろしい。むしろ肉種よりも肉量が気になる。玉ねぎはぜひとも入っていてほしいけれど、クタかシャキかはその日の気分次第。青いものは、ピーマン、ほうれん草、小松菜、チンゲン菜等々、まあとにかく青くて葉っぱ的であればよろしい。気が向いたらきのこなんか入れることもあるし、にんじんを使うことだってある。

その日の冷蔵庫の中身と気分によって具材も味つけも変わる……言うなれば、私が作るのってきまぐれナポリタンだわな、ってことを言いたかったんであります。ようやくタイトルに繋がったよ、やれやれ。


ということで今夜の晩ごはん、きまぐれナポリタン。玉ねぎは薄めのくし切り、ウィンナー(弟一家からの牧場みやげ)は少し厚めの斜め切りにする。ピーマン……がなかったので、今回は青いもんとしてニラを登板させることにした。ざく切りにしてマウンドに送る。葉っぱ的要素にいささか不安があるけれど、まあなんとかなるだろ。まいたけは石づきを取ってバラバラにほぐしておく。

鍋にパスタ用のお湯を沸かしつつ、フライパンにオリーブ油を入れて弱火にかけ、おろしにんにく(チューブのもの)をゆっくり炒めて香りを引き出す。ここにウィンナーを入れて両面をこんがりと焼きつけたら、続いて玉ねぎを投入。今日はクタ派の気分だったので、甘みを誘い出すような心持ちでもって、弱火でじっくり火を通していく。しんなりしてきたらまいたけも追加。火加減を気持ち強めて(中弱火くらい)、まいたけからジルが出てくるまでひたすら炒める。

そうこうしているうちに鍋の湯が沸いてくるので、塩を適当にぶっこんでからパスタを茹で始める。フライパンの中にまいたけジルがほどよく出たところで、トマト・ケチャップ、トマトペースト、おたふくソース、めんつゆ、黒こしょうを投入。ここで重要なのは、トマト・ケチャップをかなり思いきってぶっこみ、中強火くらいの火加減でガンガンあおりながら、具材と混ぜ合わていくこと。若干焦げ付きが心配なくらいの状態で煮詰めていくと、トマト・ケチャップの酸味がいい感じに抜けてきて、おたふくソースとも馴染んでまろやかになる(ような気がする)。とはいえ、本当に焦がしては元も子もないので、水分があらかた減って煮詰まってきたら火を止めておく。

なお、味つけは具材同様、その時冷蔵庫にあるものをきまぐれにぶっこんでいくスタンス。コンソメ顆粒使うこともあるし、めんつゆがなければほんだし+しょうゆでもいい。みりんやはちみつを使うこともある。

パスタはアルデンテの3歩手前(重要)くらいで火を止めて、すぐさまフライパンに少量の茹でジルと共に移して強火にかける。ここからスピード勝負!全体をざっと混ぜ合わせつつニラを投入。あとはジルを飛ばすようにして炒めつつ、パスタの硬度がいい塩梅になる瞬間を注意深く見守る(=こまめに味見する)。ナポリタンはちょっと火を通しすぎてモチモチしてるのがイイ!って方もいらっしゃいましょうが、個人的にはなんとしてもアルデンテにこだわりたい。火の通りすぎたパスタとブロッコリーほど、私を深遠なる絶望と悲哀の闇へと叩き落とす光景はないもの……。

パスタがアルデンテになったらただちに火を止めて、お皿にホイ。仕上げに粉チーズを思うさま振ってできあがり。


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具が多すぎて乗りきらず、盛りつけ途中で皿を変えるハメになった(ナポリタンあるある……じゃないですか?私だけ??)


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うーん、懐かしい匂いだ。古き良き昭和の香りだ。これはトマト・ケチャップ使わないと嗅げない匂いなんだよなあ(スンスンスンスン)

おっといけない。冷めないうちにいただこう。


トマト・ケチャップの酸味に、おたふくソースのこっくりした甘みが入り交じった、みんな大好き甘辛味。そこに洗練はない。がんばっておしゃれしてみたけど、どうにも隠しきれない野暮ったさが漂う味。しかしながら、これを野暮ったいと揶揄する方がむしろ野暮というもの。べったりと濃厚、かつ、どこか郷愁を誘うこの甘辛味こそ、日本人による日本人のための洋食の味!どちゃくそめちゃんこおーいしーい!!ガンガン煮詰めた甲斐があって、トマト・ケチャップの酸味はほどよく抜けており、おたふくソースと完璧なフュージョンを達成している。今回はトマトペーストも入れたから、トマト味もがつっと濃厚!パスタへの火の通り加減も、我ながら完璧なアルデンテ。中心部にかすかに芯を残した歯ごたえに、こってり濃厚なソースがめちゃくちゃ合う。くったくたになるまで加熱された玉ねぎはどこまでも甘やかだし、とろとろになったその身をしどけなくパスタに寄り添わせている様もうつくしい。モキュっとした歯ごたえの残っているまいたけが好対照だ。肌をこんがりと焼かれたウィンナーは、濃厚な甘辛ソースにくるまれてもなお、自身の存在感を充分に発揮している。噛み締めるとかぐわしい肉ジルが溢れだして、そいつがソースと絡み合って……控えめに言って鼻血出そうなくらいおいしい!抜かりなくどっさり入れといて良かったー。

びっくりしたのが、今回完全にきまぐれでぶっこんだニラであります。日本人的洋食とはいえ、パスタにニラってどうなの……?と思いつつ、他に青いもんがなかったから無理矢理ブルペンから引きずり出したんですけどね。あのね、合います。むしろ大正解だった。加熱によってあの独特のクセはマイルドになっていて、でも完全消失はしてないからほんのり残ってるわけよ、ニラ臭さが。これがトマト・ケチャップベースのソースに、とんでもない奥行きをもたらしてますわ……。ピーマンみたいな苦味もないし、ほうれん草なんかと比べるとちょっとクセが強すぎる、なのに、なのに、すんげーうまいッッッ!私の中の全煉獄さんの瞳孔が開いております!うまいッッッ!!え~、ニラってトマト味もイケちゃうのねえ、って新たな学びを得たわ。今度マーボー系にトマト入れてみようかなあ。

パスタは50gに抑えたものの、具材を欲張りすぎてなかなかテンコモリヤだったナポリタン。うめーうめー言ってるうちに、気づいたらお皿が空っぽになっておりました。はー……おいしかったあ。大満足!ごちそうさまでした。


御大のお叱りを受けそうだけれど、ナポリタンの醍醐味ってやっぱ、フォークにがんがん巻き付けてずぞぞぞーってすすり込むことだと思うんですよね。ソースがもったり系だから、どうしても一回に巻き付いてくる量が多くなるしね……。だがそれがいいのよな。大口開けてズルズルするのも楽しいし、こっくりこってり味なのにガンガン食べてももたれないつーか、どこか抜け感あるっていうか。いい意味で隙のある味なんですよね、ナポリタンて。日本人的洋食って、みんなどこかそういう気配を持っている気がする。レストランで背筋伸ばして、ちょっと気取ってフォークとナイフでいただいてるんだけど、ナフキンにトマトの染みが飛んじゃってもアチャーって笑えるような抜け感て言うのかな。うまく言えなくて悔しいけども。あと食べ終わると口の周りベタベタになってて、それをぬぐうとティッシュが赤くなるのもなんか良い。


THE・昭和の味ですけどもね、これは平成っ子や令和っ子にも伝えていきたいな。

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