下呂一人旅(4)
前回
やっと1日目が終わった。
2日目朝:下呂温泉→厳立峡
前日に行けなかった巌立峡へ向かう。
反省を生かして時刻表を念入りに調べておいた。
なんといっても下呂から厳立峡の最寄り駅である飛騨小坂までの電車は一日に三本しかない。
バスも日に4本。
巌立峡を散策し、その日のうちに下呂まで戻ってこれるという条件を課した時点で、行程は一意に定まった。
その行程では下呂駅を9時に出発する必要がある。
モーニングを食べてみたかったが、どの店も8時半開店である。
30分しかないうえ、9時に間に合わなかった場合はもう巌立峡をあきらめるしかないため、泣く泣く朝食抜きで下呂駅へ向かった。
今日は昨日と違って肌寒く、駅に着いたくらいで雪がちらつき始めた。
時間になり高山行きの列車に乗り込んだ。
自分以外にも意外と多くの人が乗っていた。
他にも巌立峡へいく人はいるのだろうか。
これだけ人がいたら一人くらいはいるだろうなと思った。
雪の降る中、列車は飛騨川沿いを進む。
本を読もうか迷ったが景色を見ていることにした。
僕は実家が田舎のため、田舎風景に感動することも別にないが、
雪は珍しい。
現在の都会暮らしでは感じる機会が少ない、田舎のなつかしさと雪の降る景色を楽しんでいるとあっという間に目的地に着いた。
2日目午前:飛騨小坂→巌立峡
僕は駅について早々絶望に打ちひしがれた。
まず飛騨小坂駅で降りたのは僕一人だった。
行程は調べてあるが、他に誰もいないとなると、そもそもバスが本当に来るのか、厳立峡にはいることができるのかと不安が募る。
しかもパッと見た感じ周りには普通の民家しかない。
バスまで少し時間があるし、この辺りでモーニングを食べれないかと考えていたが、本当に店があるのか?
一応、グーグルマップで調べるとかろうじて3軒くらいの店が見つかった。
ただそのうち一つは駅からすぐ見えたが、完全に店内真っ暗、営業してるそぶりは見えない。
他の2件も回ったが、同じく真っ暗、徒労に終わった。
この際、コンビニでも良いかと思ったがそれすらない。
都会に浸りすぎた…
厳立峡に飲食店があるようには思えないし、朝飯も昼飯も抜きか…
とりあえず適当に歩きながらグーグルマップをもう一回見て、店を探す。
少し離れた場所にモーニングを食べれそうな場所を見つけた。
駅からその店まで2キロ。バスが来るまで約一時間。
これだったらまだ下呂でタイムアタックしたほうがましだな…
と思った矢先、地図上である文字列が目に入った。
ローソン
きた!
店までの距離は約2.5キロくらい。往復5キロ。
1キロ5分ペースで走れば、多く見積もっても買い物合わせて往復30分。
行ける!
僕は絶望のさなか現れた青いオアシスに向かい一目散に駆け出した。
オアシスで朝飯のパンと昼飯(予定)のおにぎりを手にした僕は、体力にも時間にもかなりの余裕を残し、駅近くのバス停に戻ってきていた。
あとは本当にバスが来るかどうかだ。
もし来ない場合は手にした食料を道端で食べながら、時間をつぶすというという謎の行動を謎の駅でしに来ただけになってしまう。
相変わらず他にバスを待っている人はいないし、不安で仕方なかったが、幸い数分遅れでバスが現れた。
結局乗客も僕一人だった。
バスは来たが、今度ははたして巌立峡が存在するのかが気がかりになってきた。
2日目昼:巌立峡散策
バスに乗ってから15分程度で巌立峡の入り口に着いた。
雪が一層激しくなる中、僕は巌立峡入口の進入禁止の看板の前で立ち尽くしていた。
人がいなかったのはそういうことか..
帰りのバスが来るのは4時間後。
今日、いったい何回絶望すればいいんだ…
ただよく見ると薄く積もった雪の上にまだ真新しい足跡が残っている。
そうか、通行禁止は車両だけか、徒歩ならいけるかもしれない。
勇気を出して看板の先へ一歩踏み出した。
巌立峡への道の両側には剥き出しの岩壁が聳え立っている。
岩肌は柱がいくつも連なったかのような表層をしていて、今までに見たことのない光景だった。さらに寒さのせいか岩肌からはいくつもの氷柱が伸びていた。
道中の景色に巌立峡への期待はさらに高まった。
15分程度歩くと道が開け、壮麗な光景が目の前に広がった。
ここが一番有名な場所らしい
手前には川が流れており、橋を渡った先に水力発電所があった。
雪が一層激しくなる。
僕は雪が降ると決まっていきものがかりの「雪やまぬ夜二人」という曲が頭の中で流れ出す。
周りには誰もいないので、その曲を歌いながら橋を渡った。
近辺を一通り探索してみて、さらに先にあるスポットへの道が、冬季には封鎖されていることがわかった。
だから観光客が少なかったのだろう。
その時点で時刻は12時くらい。
帰りのバスまではまだ2時間以上あるが、これ以上の探索はできない。
とりあえず入り口まで戻ることにした。
2日目午後: ひめしゃがの湯
来た道をバス停まで戻ってきた。
2時間程度時間を潰す必要がある。というか寒さで指先や足先がもう限界である。
そこでバスで来る途中見かけて気になっていたひめしゃがの湯という場所に行くことにした。
巌立峡入り口からは歩いて5分もかからなかった。
日帰りの入浴施設のようで、僕は迅速に湯舟に向かうまでの行程をこなした。お湯につかった瞬間からみるみる手足が回復していった。
湯質は炭酸泉で、黄土色に濁っていて温泉の中は全く見えない。
体を芯から温める効果があるそうなので、ここでドーピングしておいて帰り道を乗り切ろうと考えた。
また内風呂だけでなく露天風呂もあっため、入ってみた。
雪の降りしきる中に入る露天風呂は最高である。
雪を楽しむためには体の冷えを犠牲にする必要があるが、温泉に入りながら見る雪だけは例外である。
これこそが日本であると感じた。
前日に引き続き温泉舐めててすみませんと思った。
また雪やまぬ夜二人を頭の中で歌いながら露天風呂を楽しんだ後、温泉からあがると、今が真冬であることを完全に忘れ去るくらい体が温まっていた。ドラクエでいうフバーハがかかったような感覚で、吹雪だろうが輝く息だろうが余裕で耐えれる気がした。
こうやってすぐ調子に乗るのが良くないよなとすぐ後に後悔することになる。
2日目午後:ひめしゃがの湯→飛騨小坂駅
温泉から出た後、ひめしゃがの湯にあった食事施設で昼食を食べた。(おにぎりはまた食べる別のタイミングがあるだろう)
それでもまだ帰りのバスの時間まで1時間程度あった。
ひめしゃがの湯から飛騨小坂駅までは8キロ程度。
バスだと十数分で駅まで着き、そこから何もない飛騨小坂駅で電車を30分以上待たねばならない。
その時、僕の頭にある考えがよぎった。
8キロぐらいなら歩いても1時間半くらいで行ける。
それならば駅での待ち時間は0。
フバーハもかかっている。
迷っている間にタイムオーバーになってしまう。
僕は歩いて駅まで行くことを決めた。
グーグルマップで経路と所要時間を調べる。
予想通り電車のくる数分前に到着時間が表示された。
行きのバスで通った道を歩いて駅まで向かう。
途中何度も寄り道したい衝動にかられた。
川沿いで見つけた飛び石、どこへ続いているかわからない分かれ道、
もし電車に間に合わなかった場合、下呂まで歩いて帰る羽目になるため泣く泣くすべて無視した。
飛騨小坂駅から下呂は10キロじゃすまない。
さすがにフバーハも切れて足も指先も死ぬだろう。しかもグーグルマップに表示されたルート通り歩き、少し早めに歩いているにもかかわらず段々と表示される到着時間がどんどん遅くなっていく。
もはや景色すら楽しんでいる余裕はない。朝、ローソンを目指した時と同様僕は走り出していた。
その甲斐もあり、なんとか電車の着く五分前程度に駅にたどり着いた。
少しひやひやしたが、結果的には計画通り。
…いや今度からはもう少し余裕ある感じで生きたい。
相変わらず駅で電車を待つのは僕以外には子連れの親が電車を見に来ているだけだった。
しかも電車は時間になっても来る気配もなく不安と絶望をまた募らせた後、五分遅れでやってきた。
心臓に悪いし、せっかく間に合うように走ってきた意味もない。
都会に慣れすぎてせっかちになっているな。
2日目夕方:下呂→犬山城
いろいろあったが無事下呂に帰ってきた。
ここでミスに気付いた。
僕は下呂ー飛騨小坂間の往復切符を買っていたため、一旦下呂で降りたが、もう下呂ですることはない。
にもかかわらず次の電車は1時間後である。
そのまま下呂で降りずに帰っておけばよかった。
仕方なく朝買ったおにぎりを頬張りつつ駅で1時間本を読んで時間をつぶした。
帰るルートだが、今回の旅の目的の一つにドラクエウォークのお土産集めがある。
行きは岐阜駅を通ってお土産を集めたが、帰りは別ルートを通り、別のお土産を回収したい。
岐阜県内の他のスポットは山奥すぎて無理だったので、愛知と岐阜の境目あたりにある犬山城によって帰ることにした。
電車の中では冷えた手足を温めつつ、ひたすら本を読んでいた。
2日目夜:犬山城
犬山城に着くころにはすっかり日も暮れており、先程おにぎりを食べたといっても、一日を通して碌な食事をしていなかったので、空腹感に苛まれる。
とりあえず歩いて犬山城を目指す。
数年前に訪れた時には犬山城のそばを流れる木曽川の景色に感動したが、夜だったためそれも良く見えない。
一瞬、犬山城内に入らないとお土産が入手できない可能性が頭をよぎったが、幸いにも近くに行っただけでゲットすることができた。
あとは飯を食べてこの旅も終わりだな。
何だかんだの出費を繰り返し、所持金はあと500円程度。
せっかくなのでこれを使い切って終わりにしたかったが、500円ではあまり高いところにいけない。
結局、吉野家に行き、せめてもの抵抗として定食を頼んだ。
でもこの旅を通して食べたものの中で、この定食が一番うまかったかもしれない。(コンビニ飯とかラーメンとかばっかりだっただろ)
何とか所持金全部使いきって終了。
こんだけ無計画でもなんとかなるものだな。
自分の散歩好きと温泉の良さを再確認することができた旅だった。