能登半島地震で落下傘が使えなかったワケ《自衛隊ばなし》
☂️自衛隊と落下傘
先に結論を述べます
「自衛隊は被災地支援に落下傘使用を想定していない」
のです。
自衛隊の物量傘は市街地への投下することを目的に作られていないという事です。
☂️最強の部隊「第1空挺団」
落下傘といえば千葉県習志野の
「第1空挺団」が有名です。
彼らは陸自最強の集団です。
彼らの任務は面の制圧です。
日本国内のある地域が敵に占領された場面などで
相手の鼻先へ大量の精強部隊を投入し奪還することです。
空自の落下傘は搭乗員の生存が主眼です
射出座席が撃墜寸前の航空機から飛び出すアレです。
空母「いぶき」などの映画で見た方もおられるでしょう。
☂️海自と落下傘
海自での落下傘(物量傘)の使用目的は
「食料品や消耗品の海面投下」です
長期に隠密行動するとある部隊・・・
潜水艦ですが・・・そこへこっそりと物資を補給する目的です
それなら被災地支援に利用可能ではないかとおっしゃる方も・・・
でも陸地と水面では衝撃が違います
あなたが【5メートルの高さから「飛び降りろ」と】脅され
【水面か砂地】のどちらかと選択を迫られたら
どちらを選びますか?
当然水面ですよね しかし水面もかなりの衝撃が・・・・
☂️物量傘
私は潜水艦ではないとある艦艇で
物量傘を使用した洋上での
【食糧補給】に従事した経験が2度あります。
名前はあかせませんが
潜水艦ではない長期の隠密行動の船です。
その船は・・・母港や付近の港へ戻り食料を搭載せずに
長期間航海します。
物資の補給が常に悩みのタネです。
もしも物量傘が利用できれば能率は画期的に向上します
☂️海のコンビニ&ガソリンスタンド【補給艦】
海自には補給艦という「燃料・食料・弾薬・消耗品」などを
艦艇へ補給する船があります。
まるで洋上のコンビニです。
湾岸派遣では
「無料のガソリンスタンド」
とも揶揄されました。
小生が勤務した艦艇は7隻です。
そのうちもっとも長く(5年間)勤務したのが補給艦です。
☂️「四分隊」
小生は「四分隊」と海自で呼ばれる
「装備や備品の調達・契約や経理、総務、調理、医療」
に関わる分野の人間です。
☂️補給艦最大の弱点
補給艦の弱点は簡単に言うと
「補給の仕事をしている時が一番あぶない」ことです。
補給が目的の船なのにひどいパラドックスです。
艦艇が二隻以上集まって物資のやりとりをするのですから
敵方にとっては
「やっつける絶好の機会」です。
宮島茂樹さんが「トイレで便器に越しかけて・・・の
最中が一番ねらわれる」
とたとえ話をしていました。
そこで海自は自分がもっている装備で敵から狙われずに
こっそり食料品を補給できないのか?と思いを巡らせ・・・
たどり着いたのが物量傘です。
☂️落下傘を洋上で回収・・・手間のわりには・・・
隠密長期行動するとある船は
「まあまあ大きい船」で
強力な船外機を装備した
ゴムボートを搭載しています。
海自のとある航空機(固定翼)から投下された
複数の物量傘は発煙灯で示された位置へちゃんと落下し
搭載艇で回収してクレーンで艦内へ揚収したのです・・・・が
「手間のかかる作業」です。
そして「莫大な費用がかかります」
とある航空機の搭乗員十数名の時間をつかい
とある海面まで往復する燃料代
とある航空機の運航に携わる管制官や地上要員・・・
物量傘で投下した物資数万円に
黒い猫や飛脚、ポス熊に頼んだら
数百倍の運賃を請求されるレベルです。
☂️自衛隊はコスト意識が不足?
自衛隊というお役所もどきは
コスト意識がないと揶揄されます
小生のような
「民間の皆さんと接して物品や食料を調達する隊員」
はコスト意識が非常に高いです その理由は
「金がかかる訓練や業務にやかましく口出しするとある役所」と
「使い方にやたらと注文をつけ点検するとある役所」が
目を光らせているからです。
とはいえ国民の血税を有効活用するという意味で
二つの役所を責めるつもりは毛頭ありません。
(本当はすこしだけ言い分があります)
🌂せっかく運んでもらったのに
数百名の人員を投入し
遠路はるばる洋上の船にたどり着いた食品は
「豆腐はバラバラ⇒麻婆豆腐で利用」
「ブドウは房からハズレ、ミカンやモモはグチャグチャ⇒ジュースとして飲用」
「こんにゃくは包丁で切る手間が省ける⇒作業効率アップ」
と皮肉を言いたくなる惨状です。
☂️費用便益分析
労苦の割には・・・費用便益分析
(ひようべんえきぶんせきcost–benefit analysis)では最低水準です
小生の知らない上層部ではもっと
巧緻な分析をしているでしょう。
そんな非効率で効果が薄い方策より
有効な手段で実施するのが被災地支援の王道です。
とある番組の出演者さんや
ヤトウ議員さん
ご理解いただけましたでしょうか
自衛隊や政府を批判するのが目的ではなく
発言の趣旨は被災地を想ってのことでしょう
当然ご理解いただけると確信しております。
🌂3月11日「そして今日も被災地でがんばっています」
今日は3月11日です
私が災害派遣に従事したのは全部で2回です
自衛隊では限られた予算の範囲で
想定可能な状況を訓練しています
どの選択肢が一番素早く効率的か
「そして今日も被災地でがんばっています」
一部の方々とはいえ
「ご理解いただけないのであれば説明を尽くす必要があります」
しかし現職の自衛隊員は発言自体が禁じられ
当然反論する機会もありません
それゆえOBで比較的自由に発信できる小生が
「物量傘(落下傘)が自然災害ではあまり利用されない理由」
を説明さていただきました。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。