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Dancer-Joe
2024年4月16日 17:15
「ちょっと走ろうか」「いいけど、どこに?」「星を見に行こう」 そう言って八雲は車を走らせた。茉由は黙って助手席に乗っている。車は北に向かって走っていた。郊外の住宅地を抜け、県立図書館の横を通り、尚も八雲は北に向かって走り続ける。「どこまで行くの?」「南川ダム」 問いかける茉由に、八雲は目的地だけ言う。その「南川ダム」には一時間もかからずに到着した。八雲は資料館の駐車場に車を
2024年4月16日 17:19
【第八章『八雲』-2】 東京から帰った八雲は、茉由と待ち合わせて南川ダムに行った。そこで八雲は自身の過去を振り返っていた。 八雲と小百合、二人は似たような空気を纏っていたのだろう。一緒に暮らすまで多くの時間は必要なかった。やがて二人は入籍し、昭夫を出産して小百合は母に、八雲は父になった。 家族ができて、孤独から抜け出したように見えた二人だった。事実二人は昭夫を中心に幸福な日々を過ごして
2024年4月16日 17:20
【第八章『八雲』-3】 南川ダムで八雲と茉由は話をしていた。自分の気持ちを八雲に伝えた茉由だったが、八雲のイスラエル行きの決心は変わらない。「さぁ、もう帰ろう」 助手席に茉由を乗せ、八雲は南川ダムを後にした。 自宅まで茉由を送る。駐車場に車を停め八雲が外に出ると、店から女性が現れ、ゆっくり八雲の方に近づいてきた。「送ってくれたのね、ありがとう」 そう言って女性は助手席のドア
2024年3月20日 17:41
【第七章『佳奈』-1】 隆夫が目覚めた翌日、茉由は隆夫の病室を訪ねた。朝食を食べていた隆夫の痛々しい姿を見て、茉由の頬に涙が流れた。その流れる涙を拭くこともせずに、茉由はただ隆夫に頭を下げていた。「隆夫…… 本当にゴメンね、私のためにこんなになって……」「なに泣いてる、こんなのかすり傷だ。心配するな、すぐ退院できる」「だって……」「大丈夫だからもう泣くな。お袋が帰ってきたら、オ
2024年3月21日 17:34
【第七章『佳奈』-2】 隆夫から頼まれた本を探すため、茉由は病院からの帰りに本屋に立ち寄る。そこで偶然、美容師の佳奈に会った。 数年前、初めてヘアドネーションのことを知った茉由は、協力するべきか迷っていた。そんな茉由に佳奈はこう言ったのだ。「迷うわよね。でもね、ちょっとだけイメージしてみて。あなたが勇気を振り絞って寄付してくれるこの髪は、きっとそれを待ちわびている少女の一生分の笑顔にな
2024年3月22日 17:43
【第七章『佳奈』-3】 佳奈の店でヘアドネーションに協力して髪を切った茉由は、初めてボーイッシュなベリーショートになった。細部を仕上げながら、佳奈が聞く。「で、今は男いないの?」「うん……」「怪しいな~ いるんでしょう」「ちゃんとお付き合いしてる人はいないわ」「じゃ、ちゃんとではない人はいるんだ」「だから……」「話しなさい。昨夜、本屋で推理小説なんか探してた理由もね
2024年3月23日 13:57
【第七章『佳奈』-4】 佳奈とのランチの後、茉由は隆夫の病院に行った。髪型が変わった茉由に隆夫は驚く。そんな隆夫の病室に八雲がやってきた。ついさっきまで佳奈と八雲の話をしていた茉由は、八雲を目の前にして動きがぎこちなくなり、次の言葉が出ない。「あ、あ、あの、私、お茶買ってきます」 耐えきれず、茉由は逃げ出すように病室を出た。「どうしたんだ、アイツ?」「だから、私は『おじゃま虫だ
2024年3月24日 16:57
【第七章『佳奈』-5】 佳奈が昇の店を訪ねてきた。来訪者が佳奈とわかると、茉由はドアまで走り、すぐ鍵を開けた。「茉由さん。よかった、いたのね」と言った佳奈が、驚いた表情で茉由を見つめる。茉由の瞳には大粒の涙が溜まり、いまにも流れ出しそうになっていた。「ど! どうしたのよ、いったい」 佳奈がそう言ったと同時に、「わぁ〜」と茉由が佳奈にしがみつき大声で泣き出した。「まさか!」「
2024年3月25日 14:26
【第七章『佳奈』-6】 茉由と佳奈は一緒に店に帰った。微笑んで二人を迎えた昇は、「どうです、ご一緒に」と佳奈を誘う。「本気なの、佳奈さん」 そう言う茉由の耳元で、佳奈が囁くように言う。「あなたは彼に電話してきなさい。遅くなったら失礼よ」「本当にもう、知らないからね」 そう言い残して、茉由は自分の部屋に行く。心配そうに茉由を見つめる昇を、佳奈は微笑ましいと思いながら見つめた。