【ファジサポ日誌】41.蘇生~第6節vsジェフ千葉~
日々サッカーを見続けていますと、サッカーにおいて「修正」とは本当に難しいことなのだと感じずにはいられません。
なぜなら、サッカーは対戦相手がその都度変わりますし、同一相手との対戦もリーグ戦では年2回しかありません。
相手が変わることで、修正を活かしたいシチュエーションが次の試合では再現すらされないという事もよくあるからです。
それだけならまだマシですが、また別の課題が見つかり課題山積となることもあります。
ファジアーノ岡山は第3節ドローに終わった水戸戦での課題を、次節金沢戦では見事に修正しました。わずか1週間で立て直したその修正能力の高さは、岡山の強みであると筆者はレビューで触れました。
一方で、岡山のビルドアップに対して前線から効果的なプレッシャーをかける甲府に屈した第5節でしたが、1週間後の今節の相手はやはり前線からのプレッシングが目立つ千葉とあり、今回も主にビルドアップ面における岡山の修正は一定の成果を挙げるものと筆者は期待していました。
今週の「政田INSIDETRAINING」にも、木山監督が練習の冒頭で「今出来ていることの継続」と「今出来ていないことの早急な改善」を選手たちに求める姿が映っていました(10~20秒付近)。
1.試合結果&スタートメンバー
しかしながら、修正の成果は残念ながら十分には出ませんでした。
甲府と千葉は前線から強度の高いプレスを実行するという点では共通していますが、全体的なボールの運び方や志向するサッカーは異なっており、甲府戦を踏まえた対策が即千葉に通用するというものでもありませんでした。
非常に筆者の見方は甘かったと感じております。
一方で、千葉に圧倒的に支配されたゲーム展開の中、結果はドローで勝点1を獲得しました。
前節の甲府戦もそうでしたが、困難な試合展開に抗おうとするチームの底力も改めて確認出来ました。
さて、スタートメンバーを見てみましょう。
岡山のメンバーのポイントは3点ありました。
① 前節で失点に絡んでしまった選手の処遇
② U-20日本代表遠征から復帰の(22)佐野航大、(48)坂本一彩の起用法
③ 欠場の(18)櫻川ソロモンの穴埋め
①については継続起用ということになりました。筆者はこのタイミングで(1)堀田大暉や(41)田部井涼など、現レギュラー陣と遜色のない実力を持つ選手のスタメン起用に期待しましたが、ミスを冒した選手に挽回のチャンスを与える事には選手の自信回復や成長を促すという意義がありますし、チームとしてもう一回課題にチャレンジして、自信を取り戻すという意義もあります。
(5)柳育崇も含めて、この試合での好プレーに期待しました。
②については(22)佐野のポジションは開幕戦と同様に慣れ親しんだ左SH、前節途中出場の(48)坂本は大方の予想どおり2トップの一角でスタメン起用となりました。
③が諸案あったと思います。(44)仙波をトップ下に置き(8)ムークを2トップの一角に据えるスタイルの継続も考えられましたが、(18)櫻川の代わりに、コンディションアップが伝えられていた(99)ルカオを入れてきました。ここに(99)ルカオを入れたことで、この試合で岡山がやりたかったことがある程度見えた気がしました。
一方の千葉は4-2-3-1を基本陣形として示しましたが、前節大分戦と比べますとLSB(67)日高大が、序盤から高い位置を取っていたと思います。状況によって最終ラインは(36)松田陸、(6)新井一耀、(13)鈴木大輔の3バックにもなっていました。これも今季の千葉が継続している形です。
更に毎試合メンバーが微妙に変わってくる点も今季の千葉の大きな特徴です。ダブルボランチの一角は前節の(18)熊谷アンドリューから(5)小林祐介に代えてきました。この(5)小林の存在も岡山としては非常に厄介であったと思います。
今季2トップの一角で出場を続けていました(9)呉屋大翔はベンチスタートとなりました(負傷を抱えていたとの情報もあります)。代わりに(8)風間宏矢が入りました。彼の存在もまた厄介でした。
この試合の後半で千葉の運動量が落ちた事から、今の千葉のサッカーには豊富な運動量が要求されることがわかります。小林慶行監督はベストな選手の組み合わせを模索しているとコメントしているようですが、コンディション維持の目的から千葉の選手起用にはターンオーバーの要素もあるのかもしれません。
2.レビュー
最近、FOOTBALLlabさんに、もっとちゃんとした15分ごとのデータがある事に気づいたのですが、「一目で見ていただく」という目的もありますので、もうしばらくこの自作の図を使ってみたいと思います。
もう…ホント色分けどおりの試合ですよ。
この試合で前節甲府戦を踏まえた岡山の修正ポイントは「相手に高い位置で奪われないビルドアップ」にあったと思います。
しかし、岡山の第一選択は、積極的なビルドアップの修正というよりは、岡山が以前から標榜している「相手コートでの戦い」であったと思います。
その後、自陣からのビルドアップにもチャレンジしますが、そのビルドアップが上手くいかないのみならず、ビルドアップの前段階として千葉からボールを十分に奪えませんでした。
その要因として、千葉のピッチを広く使ったパスサッカーの存在があります。
これらの点を中心にレビューしてみます。
(1)自陣内からのビルドアップを避けた序盤
2分、GK(21)山田大樹は岡山最終ラインをセンターライン付近まで上げさせ、相手陣内でコンパクトな陣形を敷くよう指示し、前線の(99)ルカオを狙いキック、8分、そして12分にもビルドアップではなく(99)ルカオを狙ったキックを選択します。
岡山としては2試合連続で早い時間帯での失点は避けたいとの意識が強く出ていたといえます。当然、ビルドアップをすれば、甲府戦同様に自陣内でプレッシャーを受けることになります。失点のリスクを最小限に抑えたいとのねらいが見えました。
そしてこの序盤、千葉ボールに切り替わると、自陣内で4-4-2のコンパクトなボックスを形成し集中した守りを見せます。ボールを奪うと、素早く(48)坂本に預け、(8)ステファン・ムーク、(22)佐野、(99)ルカオなどが自陣から飛び出し、カウンターを仕掛ける。そんなシーンもみられました。
おそらく(99)ルカオ、(48)坂本にしっかりボールが収まっていれば、岡山はこうした攻撃を続けていたのではないかと筆者は推測します。
しかし、2人とも十分にボールを収められてはいませんでした。
(99)ルカオは全く収められない訳ではないのですが、体が大きい分、最初のタッチも大きくなってしまうのか、背後の千葉の選手にすぐにボールを奪われてしまうシーンが散見されました。
また、タメをつくるというよりは(99)ルカオ自身がターンして背後のDFの裏に抜けようとしているプレーも多かったと思います。
これまでの他クラブでのプレーシーンを観ましても、本来はポストプレーヤーではないのだと思います。当然、それは現場もわかっていると思いますが、実際にボールが収まるかどうか、様子をみていたような気もしました。
また(48)坂本を使ったカウンターについても、磐田戦の3点目でみられたようなキレのある連携まではみられませんでした。(48)坂本も、一緒に遠征していた(22)佐野も磐田戦ほどのキレは無かったように見えました。何となく体が重いような印象です。疲れが残っていたのかもしれません。
10分ぐらいまでの序盤は、千葉にフィニッシュを許しながらも岡山がマイボールにする時間帯もありましたが、千葉は徐々に各選手が幅をとり、ピッチを広く使っていきます。
(2)まるでスペイン流の千葉
ここで千葉のピッチを広く使った攻撃をみてみます。
16分、岡山(14)田中雄大が千葉ボックス内へクロスを供給しますが、千葉が引っかけ千葉ボールとなり、そこを起点に攻撃を展開、最後は(16)田中和樹のシュートに至ったシーンです。
この前のシーンでも千葉が上手いビルドアップを見せていたのですが、この時間帯は(23)ヨルディ・バイスが比較的前に出てきており、千葉のパスをセンターライン付近でインターセプト、(14)田中雄大のクロスに繋げました。
それにしても千葉の戻りが速いですね。小林監督はサッカーの4局面を非常に意識したコメントを残しますが、このあたりはユン監督体制からの積み上げもありそうです。
この場面、ボールを持った小林の体勢が右後ろ向きでしたので、(14)田中がこのままプレスすれば、岡山のチャンスに繋がっていた可能性があったと思います。
しかし、なぜか(4)田口泰士が(5)小林の進行方向にいるんですね。
なぜそこにいるのか…というポジショニングなのです。
事無き得た千葉のボールは左サイドでもらいにきた(67)日高から(10)見木友哉へと徐々に横に展開されます。
岡山はここが勝負と再度前でボールを奪還しようとしますが、プレスは全て交わされてしまいました。結果、がら空きになった岡山左サイドに展開され、フィニッシュまで許してしまいました。
この場面、映像を見た限りでは、岡山のプレスが交わされた最大の理由は千葉のボールホルダーとの間に距離があったからだと思うのですが、その距離が生じた要因は(4)田口が自陣奥でボールを受けることで「奥行き」を作り、マイボールと岡山の選手間に距離を作っていることにあると筆者は考えます。
おそらくこの場面、(16)河野諒祐や(23)バイスはもう少し自分たちに近い所にボールが来るという距離感なのだと思いますが、(4)田口が自陣奥でパスを受けたことで(67)日高がボールを貰いに行っています。この貰いに行く動きによって(67)日高と(16)河野の間に距離が生じ、その結果(16)河野のプレスが間に合っていないのです。
この試合で(4)田口は、千葉ボールの逃げ道をよく作っていたと思います。それは今の場面に限らず、サイドに張ったり、岡山のライン間であったりと非常に神出鬼没でした。
そうなりますと(4)田口が本来いるべきボランチの所にスペースが出来るのではと思いますが、そこを(5)小林が埋めているのです。
この2人、ダブルボランチというよりは、アンカーが2人いるようなイメージを筆者は感じました。
前節の大分戦では(4)田口と(18)熊谷のバランスがそこまで良いようには見えなかったのですが、ついに千葉はベストな中盤の構成を見つけたのかもしれません。
この場面は狭い局面から広い局面への移行なのですが、千葉はこの試合で全体的に選手間の距離を広げた大きな陣形を作っていました。大きな陣形を作ることにより、岡山の選手との距離を広げ、岡山のプレスを無効化することに成功していました。岡山の選手がいくら走っても千葉からボールを奪えなかったのはこのためです。
千葉のこの戦術を可能にしていたのが、速くて強いパス回しです。スリッピーなグラウンドコンディションを寧ろ逆手にとって、長い距離のパス交換を正確に行っていました。味方選手との距離も長くなる分、正確なパスを受けて出すのは難しくなるようにも思えますが、相手の選手との距離も長くなるため、プレッシャーを受けにくい分、正確なボール処理を行えるという利点もあるようです。よく考えられているなと思いました。
もう一点、千葉の攻撃で追記します。
面白かったのがLSB(67)日高の動きでした。特に序盤によくみられていましたが、岡山陣内の深い位置でボールを持った際に、パスを出すにしても、ドリブルするにしても、岡山ゴールに向かって斜めに入ってくるんですね。対峙した(16)河野はまず縦を切りますから、非常に効果的であったと思います。千葉全体で斜めの動きが多かった訳ではないのですが、このサッカーにダイアゴナルランなどの動きが加われば、このチームはバルサみたいになるのではないか?とお世辞ではなく思いました。
一方で、岡山はどのようなビルドアップを行っていたのか?振り返ります。
(3)出口が見えない~岡山のビルドアップ~
この試合で、おそらく初めて岡山が後方からのビルドアップに取り組んだ場面でした。前述しましたように、岡山の第一選択は(99)ルカオへのフィードであったと思います。
しかし、この時間までは収まりがあまりよくないので、ビルドアップに着手したのではないかと推測します。
甲府戦の序盤と異なるのは(43)鈴木喜丈が一列下りてきたことです。
しかしながら、常にボールホルダーに千葉の(41)小森飛絢や(8)風間がついてきます。ボールの受け手になる(6)輪笠祐士もピッチ中央付近を左右に動きますが、なかなか良い体の向きでボールを受けられません。
全くビルドアップができない状態でした。
しかし、図示しましたように最終ラインの前方にスペースはできます。
この日はボールを下がって受ける意識も高い(44)仙波大志がベンチスタートとなった影響もありましたが、やはり岡山の中盤にはもう一枚最終ラインからのパスの受け手がほしいところです。
このシーン以降も、岡山は最終ラインからのビルドアップにチャレンジしますが、千葉の守備のねらいは徐々に(6)輪笠や一列上がった(43)鈴木喜丈へ移っていきます。その分(5)柳や(23)バイスはボールを持たされるのですが、結局はなかなか収まらない(99)ルカオへのフィードか、相手を背後に背負った(16)河野へのパスに限定され、あっさり千葉にボールを奪われるという悪循環に陥ることとなったのです。
(4)起死回生~もうひとつの仕掛け~
一気に時間は62分に飛びます。
この試合はここまで観ていて辛かったというのが本音です。
獲れないし、運べないし、先制されるしでしたが、この千葉の先制点後、木山監督は一気に3枚代えを断行します。
ちょうどこの交代シーンの直前で千葉の(16)田中が足を吊らせて(20)高木俊幸に交代しました。千葉にも疲労の色が見え始めた時間帯でした。
先制点を奪われてからこの3枚代えに至るまでが非常に澱みがありませんでした。この交代後のフォーメーションは予め準備されていたオプションであったのかもしれません。
古い話で恐縮ですが、3枚代えで流れを変えるって、いつぞやの山雅戦を思い出します。
5-4-1に代えてきましたね。
しかし、びっくりしました。追いかける立場ではありますが、この交代直後からまるで別のチームのようにコンパクトにアグレッシブに戦い始めた岡山でした。
(6)輪笠と(41)田部井が縦関係、横関係で片方が千葉を引きつけ、片方がパスを受ける、そして互いにパス交換を行う。あとリターンパスが増え、運動量が落ちた千葉を揺さぶっていたと思います。
更に驚きましたのが、(5)柳や(23)バイスが積極的に前へ上がっていたことです。これはおそらく左サイドに(2)高木友也が入ったことで(43)鈴木が最終ライン中央をしっかりカバー出来た影響が彼らの安心感に繋がったからだと思います。71分には更に(16)河野から(19)木村太哉に交代。前への圧力を高めます。
同点ゴールはセットプレーからの流れの強みを十分に活かしたものでした。千葉ゴールに向かって右方向に(5)柳や(99)ルカオなど岡山攻撃陣が残ったことにより、ここへのクロスボールを警戒した千葉守備陣を引きつけます。一方、こぼれ球を拾った(2)高木は左サイドに向かってドリブル。
サイドに千葉の選手を引きつけたことにより、その中間、ちょうど(43)鈴木の前方にぽっかりとスペースが出来ました。
また(41)田部井が(19)木村と(43)鈴木の間をリンクしたことで、(19)木村が切り返すことなく千葉の2人を剥がせたことも大きかったです。
3.スタメン変更は必至か?
追いつかれるドローよりは、追いつくドローの方が流れはよく、岡山としては命拾いをした一戦であったといえます。
しかし、この1週間、様々な準備を行ったにも関わらず、今季一番のデキの千葉が相手であったとはいえ、途中までは試合にならないぐらい苦戦したという点は優勝を目指す立場としては重く捉えたいところです。
次節のいわき、その次の藤枝と昇格組との対戦が続きますが、両チームともそれぞれの強みを出したサッカーを展開、善戦が続いています。
岡山としては、前半からこの試合の選手交代以降とまではいかなくても、主導権を握ったサッカーをしたいところです。
この先善戦するための方法、答えはこの試合で出たのではないかと思います。次節は(18)櫻川ソロモンが帰ってきます。今の彼の好調ぶりであれば、彼に預ければ何とかなるのかもしれませんが、やはり勝ち切るためには試合の主導権を握りたいものです。
そのためにも、
①(41)田部井のスタメン起用。(6)輪笠とダブルボランチ形成
②3バックもしくは5バックに変更
この2点の修正は必要と筆者は考えます。
現場はどのように捉えて次節を戦うのか?引き続き注目します。
今の岡山は100%理想を追い求めたサッカーはなかなか作りにくいのですが、その代わり全ての要素を80点ぐらいのレベルでこなせる総合力の高いチームであると思います。
そのため、試合展開や選手起用に矛盾が生じ、なかなかモヤモヤする面もあるのですが、その現実と上手く折り合いをつけることで勝点を稼いできたチームでもあります。
確か、昨季も序盤で(15)本山遥アンカーの4-3-3を諦め、ダブルボランチを導入しました。理想のサッカーを追いかけられない辛さはありますが、それは優勝を目指すチームの宿命なのかもしれません。
今回もお読みいただきありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。
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