【ファジサポ日誌】29.この敗北を「岡山スタイル」構築の礎に~J1参入プレーオフ1回戦vsモンテディオ山形~
言葉では強気を貫き、チームの勝利を信じてきましたが、心のどこかに潜む敗北への恐怖、不安が消え去らなかった…。多くのファジサポの本音なのではないでしょうか?
こんにちは。
いやそれでもあえて「突然」と申しましょう。突然のラストゲームとなってしまったプレーオフ1回戦でした。
勝負事なので負けることもあるのは理解しているつもりですが、今シーズン3度戦い3度とも勝利した山形に対して、この大事な一戦で完敗を喫した。
J1に昇格する千載一遇のチャンスを逃したショックは大きく、日曜の夜は人知れず涙に暮れました。
敗軍のサポ、兵を語ります。
PO1回戦 山形戦 試合結果&スタートメンバー
通用しなかった対策
苦戦したサイドアタック
岡山スタイルの確立を
まずは、いつもどおり試合結果とメンバーをおさらいしましょう。
1.PO1回戦 山形戦 試合結果&スタートメンバー
お互いベストメンバーであったと思います。
岡山については、最近各媒体で弱点と指摘されていました「ネガティブトランジション」対策として(26)本山を中盤に起用する待望論も試合前日まではよく見かけました。
彼の対人能力という面では同意できる点もありましたが、テスト的要素も強かったリーグ最終戦で2失点に絡むミスを見せられてしまいますと、やはりこの一発勝負の舞台で、更には先発では使いにくかったというのが現場の本音なのではないかと思います。また(26)本山を先発で起用した場合、(34)輪笠との役割分担が曖昧になる可能性もあったと考えます。
山形は(10)山田康が先発。今シーズン岡山戦では2回目の登場となります。
最終節の徳島戦では前から積極的なプレスを仕掛け、徳島のパスミスを誘発、チームの勝利、逆転プレーオフ進出に貢献しました。この試合で貴重な先制点を挙げた(29)ディサロと共に、岡山最終ラインに対して積極的なプレスをかけてくるものと予想されました。
岡山も「ネガティブトランジション」の弱点は十分意識しており、(10)山田康への対応も含めて、この試合でもその対策は練っていたようですが、残念ながら試合序盤に再び弱点をさらけ出すことになってしまったのです。
「トランジション」とはサッカーの局面の移行を意味します。
「ポジティブトランジション」は守備から攻撃への切り替え、「ネガティブトランジション」は攻撃から守備への切り替えを指します。
今まで私の記事では使ってこなかった用語ですので、ここで意味を整理しました。
2.通用しなかった対策
前半5分、山形先制の場面を振り返ります。
この前、前半3分にも(29)ディサロは惜しいシュートを放っていましたが枠を外れ、岡山(35)堀田のGKを起点に岡山が山形陣内に攻め込んでいたシーンでした。
(34)輪笠のヘディングでのパスは前線の(38)永井には通らず、こぼれ球が山形RSB(3)半田へ渡ります。
ここで攻守が切り替わる、岡山にとって局面は「ネガティブトランジション」に移行します。
(3)半田に対する(22)佐野のプレスは間に合わず、センターサークル付近の(25)國分へパスが渡ります。
岡山側にはこの(25)國分にプレッシャーをかけられる選手がいなかったため(34)輪笠が横にスライドしながら対応。ボールは(25)國分から(3)半田へいったん戻され、岡山の中盤での守備が一見機能したかのように見えましたが、当初(34)輪笠が見ていた(10)山田康がフリーとなりセンターサークル付近に進出。(3)半田から斜めのパスが(10)山田康へ通り、岡山中盤での守備ラインは突破されてしまいました。
この(10)山田康に対して岡山の両CB(5)柳と(23)バイスが詰めますが、この2人の間にパスを通され、裏に抜けた(29)ディサロに渡りGKと1対1に。
(29)ディサロのシュートに対して(35)堀田は好反応を見せ一度はセーブも、こぼれ球は無情にも再び(29)ディサロの前へ。山形の先制ゴールが生まれます。
実はこの失点シーンについては監督、選手が詳細にコメントを残していますので紹介します。
木山監督、(34)輪笠、(5)柳のコメントから分かることがいくつかあります。まず端的には岡山は山形の(10)山田康を経由する攻撃を警戒し対策を練っていたということです。
しかし、山形の普段着の攻撃は、輪笠が語ったように「横の動かし」や柳が語ったように「消えていたパスコースにボールが入る」ことにより、岡山の対策を上回ってしまったのです。
(34)輪笠が述べる「横に動かされる」はおそらく人が動かされるの意味であると私は感じました。まさにこのシーンは(34)輪笠が(25)國分に引っ張り出され(10)山田康をフリーにしてしまいました。
しかし、コメントどおり(5)柳のカバーを想定しての動きであったとも捉えられます。しかし、(5)柳、(23)バイスの2人は、この(10)山田康にボールが入ってくることをイメージできていなかったのかもしれません。
図では分かりにくいですが、映像を見ますと山形のパスコースは非常に狭いエリアを通しています。一見パスコースが消えているように見えても、山形の各選手の技術であれば通せるコースであったのです。
また、山形(3)半田のパスコースを空けるために岡山(27)河井の動きを山形(15)藤田が止めている点も見逃せません。
(5)柳、(23)バイスの両CBは共に危機察知能力が高く、かつ主体的、能動的なCBです。「自分がピンチの芽を摘み取る」という高い共通意識がお互いに飛び出すという事態に発展し、失点に繋がってしまったと考えます。
リーグ戦を3位で通過した岡山にとって、90分終了時点でタイスコアであれば1回戦を突破できるため、本来であれば全然焦るシチュエーションではないのですが、リーグ戦終盤に何度も見られた相手ボールにプレッシャーがかからず一気に失点するというシーンの再現は、少なからず選手、サポーターにショックを与えたものでありました。
皆さんご存知のことかと思いますが、過去8度実施されたJ1参入(昇格)プレーオフでJ2・3位のクラブがJ1昇格を果たしたケースはたった2回しかありません。
3位クラブは自動昇格を目指しながらも、その目標に届かずチームとして勢いを失ってしまう点が有力な要因とされていますが、このパターンに岡山が当てはまること、今季3勝(公式記録は2勝)している山形相手とはいえ楽なゲームは一つもなかったこと、その山形が今回初めてベストメンバーで勢いを持って岡山戦に臨んできたこと、そして岡山が勢いを持ってリーグ戦を終えられなかったこと、実に様々な不安が、皮肉にも昇格気運が高まる街のうねりと比例するように大きくなっていたのです。
そんな不安が現実のものとして現れてしまった失点であったといえます。
3.苦戦したサイドアタック
それでも前半から後半15分過ぎまでの岡山はよく抵抗していたと思います。
(38)永井、(15)デュークが前線からのプレスを果敢に断行。(27)河井がこの前線をしっかり支え、(14)田中はボール奪取に数度成功、ビルドアップ時には最終ラインに(34)輪笠が下りてきてしっかりボールをキープします。そうして苦労して獲得したマイボールを右の(16)河野、左の(22)佐野、(41)徳元に預け、岡山得意のサイドアタックに移行、押し込んでセットプレーを獲得する。
そこにはいつもどおりのファジアーノ岡山の姿があり、これならば、追いつけるのではないかとサポーター目線で期待する一方、私には好調期の岡山と比べると物足りなさも感じていました。
その理由については写真を何枚かご覧いただこうと思います。
前半は岡山左サイド、後半は右サイドの様子です。
私が物足りなさを感じていたのは、岡山のサイドアタックの質です。
具体的には一番良い頃と比べると、サイドの崩しに時間がかかっているのです。
サイドの崩しに時間がかかると、敵に守備陣形を整える時間も与えることになりますので、仮にサイドを突破してクロスを上げたり、シュートを打っても得点の可能性は低くなります。
これらの写真からは(22)佐野が山形の複数の選手に厳しいマークを受けていること、そして(16)河野も含めて切り返しが多いことが窺えます。
当たり前ですが、サイドで数的不利になると突破能力に秀でている選手でもチャンスに繋がる可能性は低くなりますし、切り返しが多くなるとその分、突破に時間がかかります。
こうした傾向はシーズン終盤、最終戦の東京V戦でもみられていました。
前半9分のシーン、最初の写真の場面に至るシーンを図示してみました。
岡山が山形陣内右サイドでボールを奪い、いったん下げて(23)バイスから(22)佐野へロングフィードが出されます。
岡山としてはピッチを広く使い(22)佐野の突破に期待する意図がありますが、この(22)佐野に対して山形(15)藤田が素早く寄せ、(3)半田と共に2対1で厳しくマークしました。
非常に(15)藤田の対応が早いシーンなのですが、こうした早い対応を可能にしているのが、山形の攻守におけるコンパクトな陣形です。
陣形がコンパクトであると、味方選手間の距離も短いものになります。
つまり長い距離を走らず、短い時間で相手のボールホルダーに対して数的優位をつくることが可能となるのです。
山形は自陣から攻撃を開始するところで岡山にボールを奪われましたが、陣形をコンパクトに保っていたため、ネガティブトランジションにも十分な対応がとれていたのです。
一方、岡山は図からもわかりますように陣形全体が間延び気味で(22)佐野へのサポートにいける選手がいない状況でした。
こうなると(22)佐野は数的不利な状況の中、何度も切り返しを行うことになるのです。
このようなサイド攻撃の停滞は岡山の攻撃全体の迫力を欠く大きな要因になっていたと思います。
今シーズン好調期にはこうした場面でセットプレーを取る、(41)徳元のロングスローに繋げる、また個の力で突破することで得点に繋げていた岡山でしたが、セットプレーが勢いを失い、(22)佐野らの疲労が顕著と思える今、山形ゴールを割る可能性が以前よりも低くなっていたことは否めなかったと思います。
3.ロアッソ熊本との違い
後半13分、ゴール前の混戦から(15)デューク渾身のシュートがディフレクションがありながらも、山形(1)後藤の正面でセーブされ、流れは再び山形へ。岡山は疲労の影響なのか、バランスを崩して攻めている影響なのか、陣形は更に間延びし、相手ボールホルダーへのプレスも掛からなくなります。山形の2点目、3点目は必然といえました。
もうこの各失点シーンを詳細に振り返る必要は私はないと思っています。
酷な言い方かもしれませんが、3失点目以降の時間は、ただただ岡山が壊れていく姿を目の当たりにしていたという感じでした。
このプレーオフ1回戦、1時間早く4位熊本と5位大分の試合が始まっていました。奇しくも4位熊本もホームで開始早々に失点します。しかも内容的には大分の圧が勝った失点内容で、それなりにショックはあったものと推察します。しかし、その後を無失点で耐え、後半終了間際に2点を奪い逆転。最後、大分に1点を返されましたが、ホームアドバンテージにより2回戦に進出しました。
J3から復帰1年目、熊本に年間を通した勢いがあったこと、年間を通して得点を奪えていたことは確かですが、この熊本も第41節、最終節と連敗。少なからずプレーオフに向けて不安はあったものと推測します。
では岡山と熊本の明暗の差は何であったのか?
私は困難に直面した時に立ち返る「自分たちのサッカー」が確立されていたかどうかの差が出たと感じています。
熊本は大木体制3年目、一定の自由の下で各選手が能動的に立ち位置を決め、ボールを動かすサッカーを磨いてきました。
昨シーズンのJ3第29節、熊本は宮崎に敗れリーグ3位に転落。J2昇格に黄信号が灯りましたが、ホームのリーグ最終戦で見事に勝利、J3優勝とJ2昇格を決めます。
カテゴリーは異なりますが、自分たちのサッカーで困難な状況を覆した成功体験が今の熊本の強みになっていると私は考えます。
岡山は木山体制1年目、昨年の主力ががごっそり抜けて大幅に入れ替わったメンバーにおいて、「相手コートでの戦い」を標榜し、高い位置からのプレス、即時奪還を目指してきました。その成果はこの試合でもみられましたが、試合全体を見渡した時にまだまだ不足していると言わざるを得ません。
戦術浸透とJ1昇格という結果の二兎を追うため、選手の特性に合わせた現実的な戦術も採り入れました。その一つがセットプレーの強化であったと思います。また、コーチ陣を中心とした鋭いスカウティングで勝利した試合も多かったと思います。
岡山の「個の力」を融合させるマネジメントはシーズン通して見事であったと思いますが、困難な状況に遭った際に立ち返るべき自分たちのサッカーまでは完成できなかった。これが露骨に結果として出たのがこのプレーオフ1回戦であったと思うのです。
4.岡山スタイルの確立を
北川社長のシーズン前の会見や、今シーズンの観客動員数から岡山には来シーズンもJ1昇格を目指して戦える財力は残っているように思えます。
来シーズンの体制がどのようになるのか分からない段階で述べられることは少ないのですが、ファジアーノ岡山の大きな課題は自らのサッカースタイルの確立、長い目で見ればサッカーの中身のブランディングにあると思います。
これは、泥臭くとか一生懸命に走るといった抽象的な概念ではなく、選手が継続的に取り組むサッカーのスタイルを意味します。
つまり山形のポゼッションサッカーに取り組みたくて移籍する選手がいるように、岡山のサッカーに魅力を感じて移籍を決める選手が出てくるようなスタイルです。
あくまでも私のイメージに過ぎませんが、今の京都のようなスタイルが一つの完成形であると思っています。
来シーズンが木山体制2年目という前提に立つのなら、やはり今シーズンのサッカーがベースとなります。
高い位置からのプレッシングは続けていけば良いのですが、今以上にチームの連携でボールを奪う必要があります。
そのためには選手の距離感の改善が必要であり、ハイラインとは言わないまでも、今シーズンよりもコンパクトな陣形を来シーズンは目指す必要があります。
例えば今シーズンは2CBを(23)バイスと(5)柳の2人が務めましたが、2人とも足の遅さが弱点となり、高いラインを敷く障壁となりました。
控えの(4)濱田もこの2人と同タイプ、(3)阿部は機動力はありそうですが、今シーズンのプレーを観る限り、上記3人と比べて実力不足である点は否定できません。
やはり、ここに機動力に長けたCBが一枚ほしいところです。
このプレーオフ1回戦、悔しいですが、岡山が山形から学ぶべきことは非常に多かったのです。
しかし、この敗戦をきっかけに困難な状況でも立ち返ることができる、有望な選手が加入したくなる「岡山スタイル」の完成に取り組んでほしいと思います。
非常に大事なオフシーズンになります。
今稿でシーズンレビューは終了しますが、この先のファジアーノ岡山も追いかけ続けますので、引き続きよろしくお願いいたします!
おわりに
ファジアーノ岡山にとって歴史に残る1年を記録したいと思い、始めたレビューでしたが、皆さまの反応やコメント、先輩レビュアー様のご紹介やRTにより、当初ホーム戦のみと考えていましたレビューをアウェイ戦にも拡大。シーズンを終えることができました。
そして、これは書き甲斐のあるゲームをリーグ戦最終盤まで展開してくれたチームのおかげであります。
この場を借りて御礼を申し上げます。ありがとうございました。
そして来シーズンこそJ1昇格を果たしましょう!
※敬称略
【自己紹介】
今シーズンから未熟な内容ながらもレビューを続けております。
ありがたいことに、最近、コメントや反応をいただくことも多くなって参りましたので、少しばかり自己紹介をさせていただきます。
麓一茂(ふもとかずしげ)
40代。社会保険労務士です。
コミュニケーション能力に長けていないにもかかわらず、人の意図、心情、人と人との関連性、組織の決定などを推測しながら、サッカーを広く浅く観ています。
公私において、全体的にこのレビューのような論調、モノの見方、性格だと思います。
1993年のJリーグ開幕でサッカーの虜になり、北九州に住んでいた影響で、一時期はアビスパやサガンをよく観戦していました。
(ギラヴァンツが産声を上げるずっと前の話です。)
ファジはJFL時代からです。
J2昇格がかかったリーグ終盤、佐川急便戦を落とした時の伊藤琢矢選手の涙は未だに印象に残っています。
ずっと何気なく一喜一憂しながら応援していましたが、2018シーズン後半に「なぜファジは点を取れないのか」考えるようになり、ちょっとずつ戦術畑を耕すようになりました。
ミラーレス一眼片手の乗り鉄です。
金沢アウェイに岡山→大垣→東京→上野→水戸→郡山→会津若松→新津→新潟→直江津→泊→富山→金沢という、周囲から不思議がられるルートで入ります。
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