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【向日葵は枯れていない!】20.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第20節 vsガイナーレ鳥取 ~

J3もいよいよ折り返し。
後半戦の開幕はアウェイの鳥取戦です。
鳥取といえば、約1か月前にホームで対戦を済ませたばかりでしたが、その時とは全く異なる鳥取の姿に北九州は苦戦を強いられました。
今シーズン6度目の「連勝チャレンジ」に黄色信号が灯っていた時間帯もありましたが、チームは今回も後半に修正に成功。鮮やかな逆転勝利を飾りました。

ついに今シーズン初の連勝です!

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

増本監督やLSH(21)牛之濱拓にとっては再びの古巣戦ということで、良い意味で「意識しまくり」の一戦であったといえます。

ナイターゲームとはいえ、気温28℃、湿度81%のコンディションはサッカーをするにはしんどく、北九州には明らかにプレースピード、強度が上がらない選手もいたように見えました。
なかなかチーム全体のパフォーマンスが上がらない状況で先制を許し、後半序盤のPKを失敗するという少々心が折れそうな試合展開になりましたが、やはり監督からも選手からも自分たちのサッカーに対して自信を持っている様子は劣勢の展開においても画面を通しても伝わってきました。

戦術の遂行、表現という部分では物足りなさも残った試合でしたが、やるべき事をやった上でのまさに粘り勝ちであったといえます。

北九州にもかつて大型連勝がありました。
どんなチームでもそうかもしれませんが、連勝中というのは内容が悪い試合も結構拾っているものです。こういう試合を獲れたというのは、北九州の大きな成長を示しているのではないでしょうか。

J3第20節 鳥取-北九州 メンバー

メンバーです。

北九州はいつもの4-2-3-1ですが、不動のCH(34)高吉正真がベンチスタート。CHは(6)藤原健介と(14)井澤春輝のテクニカルなコンビになりました。RSBには(23)坂本翔が先発、OMFには久々に(20)矢田旭が入りました。

そして、鳥取が1か月前とは全く違うのです。
前回対戦時のメンバーを貼ってみます。

J3第15節 北九州-鳥取 メンバー

一部の選手を除き、配置も人も全然違うのです。
鳥取の試合をずっと続けて観ていた訳ではなかったので、特に新鮮でしたが、どうやら前々節のFC大阪戦から少しずつシステムを変え始め、前節奈良戦での3-4-2-1を今節では継続したようです。

2.レビュー

(1)鳥取の変化に翻弄された前半

鳥取のこれまでの流れを十分に把握していない状態で述べる点はお許しいただきたいのですが、この鳥取の変化の背景には、やはり現在の順位の影響はあったと思います。林健太郎監督も理想の追究を諦めた訳ではないと思うのですが、現実的に勝点を積み重ねられるサッカーにシフトする必要があったということかと思います。
この変化が、前半の北九州にとっては非常に相性が悪い形になっていました。

J3第20節 鳥取-北九州 鳥取の攻撃イメージ

北九州のファーストコンセプトは前線4枚からのハイプレスにあると思うのですが、この4枚に対して鳥取のビルドアップは3CBと2CHの5枚が関与、またGK(31)高麗稜太が加わると6枚となり、この時点で既に数的不利となってしまうのです。
もちろん両SBや2CHがプレスに加わる必要があるのですが、北九州の2SBはワイドに開いている鳥取の2WBに留められています。
そして2CHに関しては(6)藤原はそれなりの守備強度がありますが、やはりボールを持ってこそ輝く選手であり、(14)井澤については奪うタイプの選手ではないように思います。
つまり(34)高吉の不在が北九州としては守備面で大きく響いていたといえます。

特に前回対戦では、AN(アンカー)(10)世瀬啓人が北九州のプレッシャーの掛け所のひとつになっていたと思うのですが、これをダブルボランチに変えたことで、CH(34)曽我大地が(10)世瀬をサポート、上手く前を向かせてプレーをさせていたように見えました。

鳥取が自陣から脱出すると、今度は素早くサイドへ送る、またはWBやSHに奥行きをとらすボールを送っていたと思います。
そして手数を掛けずにクロスを北九州2CBの間に送るシーンが目立っていました。これもクロスに定評があるRWB(8)田中恵太ら鳥取の強みを活かす戦術と考えられますが、北九州としては対角線のクロスをどんどん放り込んできた長野戦を思い出させるような攻撃で、北九州としてはかなりのやりづらさがあったのではないかと推測します。

SPORTERIAさんから、鳥取のパスネットワークについてです。
自陣でしっかり保持に成功している様子や素早く前線にボールを送っている様子が伝わってきます。

そして、FootballLABさんから、北九州の失点パターンもみてみます。
最も比率が高いのがクロスからの失点です。
この試合の失点シーンはクロスからではなく、FKからのこぼれ球を蹴り込まれてしまいましたが、それまでの場面で鳥取LST(14)普光院誠らに何度もクロスを触られていたことからも、鳥取に浮き球は分があると思われていたのではないかと推察します。

一方、北九州のビルドアップは(6)藤原が下りてきて2CBとの3枚で開始していましたが、鳥取のプレッシャーを剥がすことが出来ないので、最終的に予め高い位置を取っていたSBが下り、後ろ向きで受ける形になっており、有効に自陣を脱出できていませんでした。この課題は継続しているという印象が残りました。

(2)後半の修正

前半1点ビハインドとなった北九州は後半開始からシステムを変更します。

J3第20節 鳥取-北九州 後半開始時

実はシステムやフォーメーションを読み取るのが苦手ですので、もし違っていましたら遠慮なくご指摘いただきたいのですが、ポイントは3バックにして両WBを前に出した点にあると思います。
北九州は前半から保持時にはSBを前に出す訳ですが、これはこれまでの増本監督のコメントからも明らかなようにSBの攻撃参加を重視しているからです。しかし、前半では後方のビルドアップの枚数不足により十分に前線にボールを供給できなかったことから、3バックにすることで後方での保持を安定させようとするねらい、そして比較的鳥取とマッチアップする形にし、選手個々の勝負で優位に立とうとした意図を感じました。

選手にとっても追いかける気迫を全面に出しやすい良い修正であったと思います。この試合で(23)坂本翔を先発起用した理由のひとつは、試合途中からの3バック化を念頭に置いていたからであると推察します。

早速、修正の効果が出たと思います。
CF(10)永井龍の最初のPK獲得のシーンをみてみます。

J3第20節 鳥取-北九州 47分 永井のPKに繋がった北九州の攻撃

鳥取陣内での北九州のFKによる再開でしたが、まずいったん最終ラインに戻して鳥取の陣形を広げた点が良かったと思います。CB(50)杉山耕二からのパスを受けた(23)坂本はプレスに来る(14)普光院をターンで剥がし、そのまま中央へボールを運びます。
何気ないプレーですが、ここで一枚剥がしたことでチーム全体が優位に立ち、そして中央に運びながら前線のスペースを探っているのです。
そして(23)坂本が前を向いた瞬間に(10)永井が裏に抜けようと走り出しており、(23)坂本も(10)永井を狙っているようにみえました。
しかし、ここで後半から中に入った(21)牛之濱が関与、右サイドを疾走する(29)高昇辰に出します。

前半にはみられなかった鮮やかな攻撃でした。
鳥取のプレスを回避するため、しっかり人数をかけ、個の力で剥がし、前線に掛けた人数をしっかり活かす。
いきなり北九州の修正が当たった場面であったといえます。
残念ながら(20)矢田のPKは外れてしまいましたが、悲観的なムードが漂わなかったのは北九州の各選手がこの崩しに手ごたえを掴んだからではないでしょうか。

(3)光る個の力

このPKでおそらく(10)永井は主審の判定傾向を読み取り、8分後再びPKを獲得します。あえて密集に突っ込んでいき、自らもらいにいった感はありましたが、ベテランらしいしたたかな観察眼が光りました。
73分にはGK(27)田中悠也がまたしてもビッグセーブをみせます。鳥取CF(13)高尾瑠のワンタッチシュートは虚をつくものでしたが、(27)田中はタイミングを外されることなく冷静にセーブしました。
これも、様々なシュートを想定し準備が出来ていた(27)田中の個の力といえます。

そして途中出場LWB(22)山脇樺織の決勝ゴールも個の判断力が光ったものでしたが、その背景にはチームコンセプトの忠実な再現があったと思います。

この場面右で(29)高昇辰がターンで剥がした時点で北九州が優位に立った訳ですが、この段階で(29)高昇辰が抜けてくると(22)山脇が感じて走り出している点が素晴らしいと思いました。
不動のLSB(33)乾貴哉が若干精彩を欠いていたこの試合、勝負どころで彼をスパッと代えた増本監督と、その意図をしっかり感じていた(22)山脇のコミュニケーションによるゴールであったと思うのです。

またしても、本職右サイドバックの2人(23)坂本と(22)山脇の両名とも活躍するという、なかなか味な試合になりました。

3.まとめ

以上、鳥取戦を振り返りました。
鳥取の戦法変化に苦しんだ前半を踏まえて、後半システム変更によりマッチアップに挑み、個の力量で勝る場面を積み重ねた逆転劇であったといえたのではないでしょうか。
シーズン序盤と比べますと(23)坂本にしても(22)山脇にしても自信を持って、より主体的にプレーしている様子がよく伝わってきました。
素晴らしいゲームであったと思います。
一方でイーブンの状況からゲームメイクするにあたり、(6)藤原をどのように起用するかという点については課題が残った印象です。彼のプレースタイルを分析しながら、どのポジションで誰と組み合わせるのが一番良いのか。まだまだ検討の余地はありそうです。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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