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【向日葵は枯れていない!】19.ギラヴァンツ北九州マッチレビュー~第19節 vs 福島ユナイテッドFC ~

J3も折り返しの19節、ギラヴァンツ北九州は3連勝中と好調の3位福島ユナイテッドFCと対戦。開幕からここまで着実につけてきた実力を測るには最高の相手であったと思います。

早速振り返ります。

1.試合結果&メンバー

奈良戦に次ぐ今シーズン2度目の逆転勝利を達成。リーグ戦では最近7戦負けなし、ホーム戦3連勝と完全に好調の波に乗ったのではないでしょうか。
リーグ前半戦はこれで、6勝8分5敗と勝ち越しに成功、勝点は26まで上積み、順位は12位と前節から変わらないものの、ついにプレーオフ圏6位とは勝点3差に迫りました。

J3第19節 北九州-福島 メンバー

メンバーです。

スタメンはある程度固定されながらも、メンバー入りに関しては激しい競争が続いている北九州ですが、LSHには(21)牛之濱拓に代わり(15)小林里駆を起用してきました。当週のトレーニングでのアピールが良かったのかもしれませんし、これからずっと暑い中での戦いが続くことを踏まえて、少しでもフレッシュなメンバーを起用していくという意図もあったのかもしれません。

サブには前節同様(6)藤原健介も控えます。

福島に関してもほぼ予想どおりのメンバーです。
GK(1)吉丸絢梓、RIH(17)針谷岳晃は古巣対戦になりました。

2.レビュー

(1)福島優勢の前半

直近の福島の2試合を簡単に観た上での感想です。これらの要素に中盤でのデュエルが今の福島のサッカーの強みといえます。
序盤はこうした福島の強みと北九州の持ち味がしっかりぶつかり合っていたと思います。
北九州は前線の各選手が流動的にポジションを代えながら機能的なプレスを披露。福島陣内に押し込み、複数のセットプレーを獲得します。中盤のデュエルでも福島と互角、いやそれ以上に戦えていました。
惜しむらくはこの押し込んでいた時間帯に先制点を奪えなかったことで、逆に11分福島の鮮やかな崩しから先制を許します。

J3第19節 北九州-福島 11分北九州の失点シーン

O・Gでしたが、今後の北九州の守備の課題になりそうな要素もあったように見えました。

福島が自陣から中央を崩し、右サイドに展開、更にサイドチェンジし左からクロス。これにRWG(7)塩浜遼が頭で合わせたボールはポストに跳ね返りますが、その跳ね返りが北九州RSB(22)山脇樺織の肩に当たりゴールインしてしまいました。

この一連の崩しの間、北九州は一度も福島の攻撃に制限を掛けられませんでした。北九州が福島のボール運びに制限をかける最初のチャンスは、福島AN(アンカー)(41)上畑佑平土から(17)針谷にパスが入ったところです。ここに上手く北九州はOFM(17)岡野凛平と(15)小林で挟んだのですが、ただ挟むだけになっていたように見えました。
続けて(17)針谷からLIH(14)大関友翔にショートパスが入ります。ここにはSH(34)高吉正真がよく戻りますが、(14)大関の素早いターンに交わされてしまいます。
そして右サイドのスペースへ展開、福島LWG(10)森晃大には(22)山脇が詰めますが、寄せきれず楽にサイドチェンジを許してしまいます。
福島RSB(55)柴田徹へのクロスにはLSB(33)乾貴哉が対応しますが、これも寄せきれず楽にクロスを上げさせてしまいました。

4回あった制限のチャンスを全て逃してしまうとやはり失点に繋がってしまいます。

ではポイントはどこにあったのか。福島の良さと北九州の意図について触れてみます。
まず福島中盤のポジショニングが非常に流動的でした。ANの(41)上畑がやり直しのボールを引き取ったタイミングで、両IHが並列にポジションをとるのではなく、既に縦関係になっています。
特に前半は(17)針谷を中心に福島の中盤3人は非常に流動的に細かくポジションを変えており、また両IHはテクニックにも秀でていることから、ボール捌きが非常に速かったように見えました。
これにより北九州は両SHが福島の両IHを十分に消すことが出来ていませんでした。

次にサイドでプレッシャーが掛からなかった件ですが、このシーンに代表されるように北九州の最終ラインは非常に横幅を圧縮しています。
逆の見方をしますと両サイドはガラ空きになっています。
よって福島は、前向きの良い姿勢のままサイドでボールを持つことが出来ます。(22)山脇や(33)乾も中に絞り気味のため、クロスへの対応が遅れていたように見えました。
ここで注目したいのは北九州のSHのポジショニングで、両SH(29)高昇辰も(15)小林も全力でSBをサポートしようとはしていないのですね。どちらかというポジションのキープを重視しているようにみえました。
既に次の攻撃に備えているようにも見えるのです。

これらのことからこの日の北九州は最初から福島にサイドでボールを持たれることを許容していたのではないかと推測します。
サイドでSB、SHで囲い込んで奪うよりは中央に人数をかけてしっかり跳ね返したいという意図があったのかもしれません。その目的には自陣で保持に切り替わった際にSHを高い位置に置いておきたかったからだと思います。

このリーグ前半戦、徐々に複数得点できる試合も増えてきましたが、まだ3点以上奪った試合は1試合もなく、北九州には更なる分厚い攻撃の構築、攻撃チャンスの増加という課題は残っています。そうした課題へのチャレンジがチームでは既に始まっているのかもしれません。

これらの仮定に基づくならこの失点シーンのボールの奪いどころは最初の(15)小林、(17)岡野で挟んだところにあったのかもしれません。
横幅を圧縮し、コンパクトな陣形を組んでいるからこそSHの(15)小林が中央の守備に参加出来ています。

前半全体を通して少々(17)針谷を自由にさせ過ぎた印象も残りました。サイドからのクロスに関しては両SBの頑張りが必要でしたが、全体的に「収支が合わなかった」失点であったと思います。

(2)勝利に繋がった最終ラインの粘り

しかし、最終ラインで跳ね返す、自陣で粘り強く守る覚悟はよく出来ていたと感じる飲水タイム明けからの福島の猛攻に対する北九州の守備でした。
福島の先制試合の勝率は8割、先制点を奪ったことで福島各選手の出足の鋭さは更に増します。

北九州としては連続失点を喫するとなると、ホームゲームとはいえさすがに勝利は大きく遠のきます。この場面も全員が必死に戻っていますが、福島のカウンターはさすがに速いですね。

福島CF(9)澤上竜二からのクロスにCB(13)工藤孝太が反応しますが、こぼれ球が福島(10)森の目の前にこぼれます。絶対絶命のピンチをでしたが、GK(27)田中悠也のビッグセーブで難を逃れます。

実は(27)田中のセーブ率はJ3全体ではまだ低い方で、それに対して北九州の失点が少ないのは組織的に守れていることの証なのですが、最近急激にフィジカルが向上している(27)田中のセーブ率上昇により、リーグ後半戦の北九州は更に失点を減少させる、そして攻撃にリソースを割くことが出来るチームに変貌する可能性も秘めているのです。

前半ATにも(14)大関からのスルーパスに(7)塩浜、(10)森がボックス内で連続してシュートを放ちますがCB(50)杉山耕二のブロックと(27)田中のセーブにより失点を免れます。
よく粘りました。

それにしても、アンカーを置くシステムを用いているチームの多くが各選手のポジショニングに苦労しているのに対して、福島の4-1-2-3の完成度は現段階で非常に高いものといえます。
さすが「フロンターレ仕込み」のサッカーであると思いますし、筆者の感覚では前半戦で対戦したチームの中では最も強かったと思います。
このサッカーを90分続けられるのであれば、J2でも全然通用するレベルにあると感じました。

そうです、90分続けられるのであれば。

(3)藤原投入と逆転

何とか福島の猛攻を凌ぎ、前半を1失点で切り抜けた北九州でしたが、劣勢の打開は必要な状況で筆者は後半開始からのMF(6)藤原健介の投入に期待しましたが、そのとおり出て来てくれました。

北九州デビューとなった前節ではCHの一角で出場しましたが、今節は(15)小林に代わっての投入で、一列前のOMFに入りました。そして(17)岡野がLSHに回ります。より高い位置で、得点に直結するポジションでの起用でしたが、期待どおりいきなり魅せてくれました。

宮崎戦の3枚代え、金沢戦の(23)坂本翔投入による3バック化、そして今節の(6)藤原投入と最近の増本監督の交代采配は高確率で的中しているのですが、その特徴の一つが競争相手と目される選手と共存させることにあります。この後半CH(14)井澤春輝との交代というやり方もあったと思いますが(14)井澤を残したことでこのゴールも生まれました。
(14)井澤にボールが入ったタイミングで福島の選手が奪いに来ます。その背後のスペースにしっかり(6)藤原が入っており、(14)井澤もその動きを感じていました。
(6)藤原のシュートが、今まで北九州の選手が撃たない位置からのものであったという積極性、そして技術的にも既存選手との違いを示したのに対して、(14)井澤の地味ながらも黒衣に徹する仕事ぶりが陽の目を浴びた瞬間でもあったのです。

受ける能力、そしてパスセンスに関しては北九州でも上位に位置する(14)井澤であると思いますが、これまでは縦の楔などゴールに直結する仕事は少々不足していたように思います。
しかし、この後半ではそうした「表」の仕事を(6)藤原に任せ、自身は比較的中盤を広く自由に動く(6)藤原の動きに合わせてスペースを埋める、やり直しを引き取る、こぼれ球を回収するといった「裏」の仕事に良い意味で集中していたといえます。また、そうしたプレーぶりから彼がキャプテンに指名されている理由が筆者には何となくわかったのでありました。

さて、(6)藤原のプレーですが、対面の相手をしっかり剥がせるテクニックが光っていました。そして北九州の両CH脇やサイドにも顔を出すなど、福島に対して数的優位をつくろうとするプレーも印象に残りました。

(6)藤原の登場により北九州の中盤が活性化したこと、そして福島の運動量低下によりオープンな展開になったこともあり、状勢は再び北九州へと傾きます。

ポイントは54分福島のキーマンであった(17)針谷の交代にあったと思います。
やはり前半から福島が魅せていた速いパスワークには、頻繁な動き直しと走力が必要で、90分持続させることは相当に難しいのでしょう。
最近4試合の針谷は70分、55分、61分、そして今回54分と徐々に出場時間が短くなっていたのです。

日が暮れても蒸し暑さが続く厳しいコンディションは変わらず、北九州も続々と交代を進めていきますが、75分CF(10)永井龍に代わって入ったのはMF(30)髙橋隆大でした。(30)髙橋の投入により(29)高昇辰がワントップに入りました。この日の(29)高昇辰は44分のFKをクロスバーに当てる惜しいシュートを放つなど、自ら強い得点意欲を示していました。ワントップになったことで、なお一層自ら決めたいという気持ちが強まったと思います。(6)藤原のボールの質も高かったのですが、このCKを獲ったのも代わったばかりの(30)髙橋のボックス進入からでしたから、またしても増本采配的中といえます。

シーズン後半戦、北九州の攻撃は(6)藤原が中心になると感じさせるゴールでした。(10)永井に代わってCF(9)平山駿ではなく、先に(30)髙橋を入れたというのは、(6)藤原のパスについていけるスピードが必要であったからということかもしれません。

3.まとめ

以上、福島戦をまとめてみましたが、シーズン後半戦に向けて「増本北九州~第二章~」の始まりを感じさせてくれる一戦であったと思います。
今シーズンの前半戦を簡単に振り返りますと、強化予算が限られる中、増本監督を中心とした段階を踏まえたチームづくりが有効に機能していると感じています。筆者がその段階を考えたところ、以下のようになると思います。

① 守備組織を再整備、構築し現実的に勝点を積み上げていく。
② 新加入のベテランを中心にプレーの模範を若手選手に伝えていく。
③ ①②と並行して攻撃戦術を徐々に浸透させていく。
④ ③を進める過程で昨シーズンからの在籍選手を再戦力化していく。
⑤ カップ戦で上位カテゴリーと対戦し自信をつける

そしてこの先は、(29)高昇辰も述べていましたが「昇格を目指した」戦いになっていくのではないでしょうか?
おそらく後半戦は相手のマークもきつくなってくると思いますが、今の北九州にはそんな壁をも乗り越えようとする成長力、上昇曲線を感じます。

リーグ後半戦、どのような北九州の新しい姿を観ることが出来るのか、今から楽しみです。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。


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