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【ファジサポ日誌】37.幸運と不運~第2節vs清水エスパルス

後半31分、PA右に侵入した(30)豊川雄大からのクロスのこぼれ球に反応した(7)伊藤大介が左足を振り抜く…。

2016年7月3日(日)、ファジアーノ岡山が初めて清水エスパルスからリードを奪った瞬間でした。初夏のまだそれほど暑さを感じさせなかった夜のスタジアムに1万人以上の熱気が一気に湧き上がります。

ついにJリーグオリ10の清水に勝利するファジアーノ岡山を見届けられるかもしれない。
そんな淡い期待は後半40分、清水(39)白崎凌兵の同点ゴールにより儚くも散ったのでした。
そして、この同点ゴールをアシストしたのが(17)河井陽介でした。

あれから7年、(27)河井陽介は岡山で2年目のシーズンを迎えています。近年、原靖(清水SD⇒岡山強化部長⇒町田FD)の岡山強化部長就任による清水から岡山への選手の移籍は、清水と岡山の心理的距離を短くしてくれたと筆者は考えています。

清水で4季にわたり活躍したミッチェル・デューク、清水の至宝石毛秀樹、清水アカデミー育ちの守護神梅田透吾、清水の「10番」河井陽介、彼らが岡山で躍動し、岡山への愛着を表現する度に、筆者は彼らを育んだ清水にリスペクトの念を覚えるのでした。

また、清水には元ファジ戦士片山瑛一(柏)や、岡山の練習参加から清水に移籍した乾貴士の存在もあり、昨シーズン筆者は清水のゲームもよく観ていました。

いいサッカーをしていたと思います、でも「あとちょっと」追加点を奪えない、守り切れないの積み重ねで清水はJ2に降格。一方、岡山は「あとちょっと」勝ち切れなかった、我慢できなかったことが響きJ1昇格を逃しました。

そんな「あとちょっと」の無念を、後悔を晴らす場、それが清水にとって、岡山にとっての今季のJ2リーグなのです。

1.結果&システム

あれから7年、あの時より多い15,695人の観客が集まりましたが、今回も対清水エスパルス戦初勝利とはなりませんでした。

岡山が勝利し、もう一度岡山の地にJ1への「うねり」を再興したいところでしたが、清水もそう簡単に負ける訳にはいきません。非常にリアリティを感じさせる結果であったといえます。

満員ということもあり、普段からサッカーを、ファジアーノを観ていないお客さんにとっては、ゴールという分かりやすい盛り上がりの場がなく、少々盛り上がらない試合であったかもしれません。
しかし、筆者にとっては非常に見どころの多い試合でした。今回はその見どころから、特に試合結果に大きく影響したポイントを採り上げてみます。

J2第2節 岡山vs清水 スタートメンバー

まずは基本的な配置です。
岡山は磐田戦で出色のデキであった(22)佐野航大、(48)坂本一彩がU-20日本代表に召集され不在となりました。この2人に代わって誰が起用されるのか注目されました。
佐野不在のの右CHには(19)木村太哉、そして2トップの一角には(9)ハン・イグォンが起用されました。キャンプ中からCH、2トップは様々な組み合わせを試しており、TMでも結果を出してきました。2人とも代表組の「代役」ではなく、それぞれの持ち味発揮が期待されました。

一方、清水は開幕戦(水戸戦)の前半を3バック、後半を4バックで戦いました。失点減を狙った併用とのことでしたが、特に攻撃は後半の方がよく映りました。初戦がスコアレスドローということもあり、スタートからの4バックは得点にフォーカスした布陣といえるでしょう。
注目は何と言っても(29)ディサロ燦シルヴァーノです。
昨年のプレーオフ1回戦で、先制点を決められてしまったあの(29)ディサロです。岡山にとって最も嫌な選手をスタートから起用してきました。

2.レビュー

J2第2節 岡山vs清水 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

さすが、清水は昨シーズンのJ1メンバーが多数残っていることもあり、強度もスピードも一枚上であったと思います
全体的には攻守の時間帯が明確に分かれていたと思いますが、徐々に岡山も清水の強度やスピードに慣れ始め、後半はそれなりに拮抗もしていたと思います。

(1)岡山の幸運~清水の選手起用・配置~

① 予想外であったディサロの使い方

この試合で(29)ディサロに与えられていた任務は、実は岡山を楽にしていたと思いました。

岡山側からみた(29)ディサロの脅威、それはボールの受け方の巧さ、そして裏への抜け出しの巧さです。

                   (※Jリーグ公式Twitterより)

岡山サポとしてはもう思い出したくもないシーンなのですが、岡山の選手間で上手くポジションを取り(23)バイスが捕まえにきたタイミングで裏へ
抜ける。非常に巧みですね。

新シーズンも岡山は(5)柳、(23)バイスのCBで臨んでいることもあり、また清水が開幕戦では前線へのロングボールを多用していた時間帯もあったことから、この試合でも岡山最終ラインの裏を積極的に突いてくるのではないかと予想していました。

しかし、実際にはディサロの使い方がちょっと違っていました。実はこの点はこの試合の大きなポイントであったと思っています。どういうことなのか?少し図示してみます。

第2節 岡山vs清水 清水ディサロの動きのイメージ

特定の時間ではなく、この試合でよくみられたシーンをイメージしてみました。
岡山(9)ハンから清水がボールを回収します。清水(8)松岡が前方を見た瞬間に(29)ディサロが(23)バイスや(8)ムーク、(6)輪笠の中間にポジションを移し、(8)松岡からの縦パスを受けます。
図では白波線の動きなのですが、まずこの動きが非常に俊敏で岡山はなかなか捕まえられなかったですね。

昨シーズン山形在籍中の(29)ディサロは、ここで「味方に当てて」自身は最終ラインの裏へ抜ける動きを見せていたと思います。これが白点線の動きです。しかし現実にはそうしたシーンはあまり見られなかったのです。

ボールを受けた(29)ディサロは、右サイドに張る(45)北川航也の前方や(9)チアゴサンタナ、(10)C.ジュニオの前方スペースへダイレクトパスを出していたのです。
つまりこの日の(29)ディサロは自身が得点を決めるフィニッシャーというよりは、味方の選手にボールを落とすポストプレイヤーとして動いていたのです。

このポストプレーの質も高いものはありましたが、岡山の立場としてはどうだったでしょうか?裏を抜けられて決定機を迎える(29)ディサロの方が怖かったのではないでしょうか?
(29)ディサロがポストプレーに集中してくれた。実は岡山にとって大きな幸運であったと思うのです。

味方のボールを受けるディサロ
スッと岡山の選手がいないスペースに出てくる

② (29)ディサロが裏に抜けなかった理由
もう少し掘り下げてみます。
先ほど、ディサロが裏に抜けるパターンとして一度「味方に当てて」と述べました。要はリターンなのですが、この試合の清水にはこの当てる味方がいなかったように見えました。これが(29)ディサロの裏抜けシーンが見られなかった理由であると思います。
しかし、それは清水の選手が(29)ディサロのリターンを受けられなかったのではなく、戦術的にそのようなスタイルを採っていたからではないかと筆者はみました。

第2節 岡山vs清水 清水ディサロの動きのイメージ その2

もう一度図示しました。
山形時代は(29)ディサロがボールを受けた時に、「ミスターX」と表示しましたが、ボランチの南や藤田、また山田康太(柏)らが(29)ディサロのリターンを受けられる位置まで上がっていたと思います。
しかし、この試合の清水にはその役割をこなせそうな(8)松岡大起や(3)ホナウドのポジションが比較的低めであったのです。

それにも理由があり、(8)松岡や(3)ホナウドは岡山の(9)ハンや(18)櫻川をCBと連携して2対1以上の局面をつくって守っていたのです。特に(9)ハンは抑え込まれるシーンが多かったと思います。

厳しいマークに遭う櫻川
清水のボランチは岡山のターゲット潰しに余念がなかった

岡山前線からボール奪取した(8)松岡や(3)ホナウドは当然CBと近い位置にいますので、清水の攻撃の起点は低い位置となります。前線の(9)チアゴサンタナや(29)ディサロとの間には広い空間ができる訳です。

ここまで考えますと何となく清水のやりたいことが見えてくるのですが、おそらく今の清水では失点減少が最優先事項となっています。
よって守備の局面では数的優位を作りたいのです。

そして低い位置で奪ったボールを、(8)松岡や(3)ホナウドがピッチ中央へ持ち上がることで対戦相手の中盤を食いつかせ、サイドに張る(45)北川や遊軍的に動く(10)C.ジュニオへ出し、前線で数的優位を作る。
そんな意図を感じるのでした。
ゼ・リカルド監督のサッカーはゴールまで何段階ものボール運びの仕組みを作る丁寧なサッカーであると筆者は感じたのです。

しかしながら、清水がボールを運んだ先には岡山の中盤陣が待ち構えていました。鋭いターンでボールを受けにくる(29)ディサロには少々後手を踏んでいたように思いますが、岡山の(6)輪笠祐士、(43)鈴木喜丈(あえて中盤と述べます)らと清水ダブルボランチとの攻防はほぼ互角であったと思います。なかなか清水は計画どおりにボールを運べませんでした。
この点が、この試合を拮抗したものしたと筆者は考えます。

ピッチを縦横無尽に駆け続ける輪笠
新シーズンは攻撃面でも存在感を示す
鈴木と松岡のマッチアップ
この日の鈴木も右に前にと「出張」
それでいて左サイドの攻守にも手を抜かなかった。

(2)岡山の不運~田中の負傷交代~

そんな岡山中盤陣に思わぬアクシデントが発生しました。
36分(14)田中雄大の負傷交代です。
15分、清水(8)松岡のスライディングを右足首に受けてしまいました。その後もプレーを続行しましたが、利き足を痛めたということもあり、らしからぬプレーが続きます。
18分の(8)ムークのシュートのこぼれ球を浮かしてしまったシーンは典型的で、いつもの(14)田中であれば決めていた可能性が高かったシーンといえます。
いわば岡山としては貴重な先制点のチャンスをアクシデントによりふいにしてしまったのです。
その後も、スペースへの動き出しが少しずつ遅れだす(14)田中に木山監督から檄が飛んでいるようにも見えました。
負傷してから交代する36分までの約20分間、交代で入った(2)高木友也の準備が必要であったとはいえ、岡山としては非常にもったいない時間であったといえます。

(3)岡山の幸運 その2~ミドルシュート~

この試合には、もうひとつ岡山の幸運があったと思います。
それは清水が勝負どころでミドルシュートを打っていた点です。

J2第2節 岡山vs清水 41分のシーン

岡山(6)輪笠、(8)ムークの帰陣が遅れたシーンです。ここはよく(16)河野が中に絞っていたと思いましたが、清水(8)松岡の前には十分なシュートコースは無かったように見えました。
左SB(2)山原玲音はこのタイミングでPA内に侵入。岡山(19)木村も見てはいましたが、少々距離もあり、ここで(2)山原にパスを出せば(黒点線)、右利きの(2)山原はおそらく自身が打つ選択肢も持ちながらゴール前に侵入してくると思いました。(8)松岡から(2)山原へのパスコースも空いているように見えたのですが、(8)松岡はシュートを選択、強いシュート(黄点線)は枠を大きく外しました。
このシーンの直後、(2)山原が非常に悔しがっていたのが印象的でしたが、おそらく(8)松岡も(2)山原の動きは見えていたと思うのです。

この試合で全体的に清水は強いシュートを打つ傾向にありました。この(8)松岡のシーンも含めて、おそらく清水は攻撃をシュートで完結させる意識が強かったのだと推測するのです。強いシュートというのがポイントでして、逆に弱いシュートですと相手DF網に引っ掛かりカウンターを受けやすくなるのです。
推測に次ぐ推測ですが、現在の清水はやはり失点減への意識が非常に高いのです。その影響が攻撃でよりセーフティな選択をさせているのだと思いますが、却ってその姿勢が岡山を助けていたという点は見逃せません。

この先、清水が現状のスタイルをどこまで継続するのか、少しリスクを冒せば得点力は上がりそうなだけに今後も注目です。

(4)強度と速さ、そして精度

下の写真は後半の(18)櫻川のシュートチャンスです。
シュートコースが見えていますし、おそらく本人も自信を持って右足を振りにいっていたと思います。しかし、清水(50)鈴木義宜の寄せとシュートブロックに遭ってしまいます。
かつては「大分の愛すべき鉄人」と呼ばれた男は、J1でのプレー経験を経て、かつてよりも強く速い選手になったとの印象を受けました。
このちょっとした強度と速さの差が、すなわちJ1との差なのであろうと感じた場面でした。
前半の18分の(8)ムークの決定機もいいシュートだと思いましたが、日本代表GKからすれば、若干コースが甘いのでしょうね。

櫻川は余裕を持ってシュートモーションに入っているが鈴木の寄せのスピード、強度がシュートをゆるさなかった

3.まとめ

それでもドローに持ち込み、勝ち点1を獲得できたのは、88分(3)ホナウドの強烈な右足シュートを抜群の反射神経と体重移動で弾いた(21)山田大樹のビッグセーブ、そして(9)チアゴサンタナに有効な仕事をさせなかった(5)柳育崇ら守備陣の頑張りによるものでした。
守備に関しては、J1下位のチーム相手でもある程度やれるのではないかとそんな気にさせてくれました。
攻撃についても、あと少しの強度、早さ、精度が備わればJ1に届く、J1までの具体的な距離がみえたような有意義な試合であったと思います。

思えば、今の岡山はJ2では名だたるメンバーかもしれませんが、実はJ1経験者は少ないですし、J1在籍経験があっても十分な活躍実績を残した選手は少ないのです。そんなチームであるからこそ、開幕2戦で勝ち点4を獲得した事実は大きな自信にしてよいと思われます。
得点の面については、(7)チアゴ・アウベス、(38)永井龍の欠場も大きく影響しました。今後、彼らや新戦力(99)ルカオ、そして久々の出場となりました(32)福元友哉、翌日のTMで結果を残しました(30)山田恭也など生え抜き陣の競争によるチーム得点力の向上に期待します。

あと(19)木村太哉や(9)ハン・イグォン、そして(41)田部井諒のことも書きたいのですが、今週の筆者は疲労困憊でございます。
誠に勝手ながらここまでにいたします。
ありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。



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