【ファジサポ日誌】115.2か月の間に~第20節 ロアッソ熊本 vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー ~
91分、岡山CB(5)柳育崇のヘディングシュートがクロスバーの上へと外れた瞬間、「バモ!バモ!」とけたたましい雄叫びが聴こえてきた。
「バモ!」の叫びといえば(5)柳(育)のイメージが強いが、シュートを外してそんな声を上げる訳もなく、少々不思議に思っていたが、どうやら熊本GK(1)田代琉我からのアドレナリン放出の瞬間であったらしい。
おそらくこのシーンの10秒程前、岡山CH(24)藤田息吹の右からのクロスをボックス内でRCB(4)阿部海大が折り返し、RST(27)木村太哉がシュート、これを(1)田代がスーパーセーブ、(5)柳(育)がこぼれ球を押し込もうとしたが、これもあと50cmというところで熊本DFがクリア、熊本が岡山の最終盤の猛攻を凌いだことに対する叫喚であったのだ。
それにしても、近年の熊本戦でここまで岡山が熊本を押し込み続けた試合があっただろうか?その点に関するなぜと、シュート(最終的に)28本、枠内へ16本を飛ばしながらなかなか決め切ることの出来ない不安、そしてメンバーは違えども1-7と大敗を喫した天皇杯からの巻き返し、岡山というチームに対する面白さ、不安、賛辞とが入り交じる90分+αであったといえる。
シーズン後半戦の「開幕」ゲームを振り返ります。
1.試合結果&メンバー
岡山は、書き出しで述べましたシーンの約2分半後、LWB(17)末吉塁の今シーズン初ゴールにして移籍後初ゴールで勝点3を獲得しました。
(17)末吉のゴールは3年ぶりでしたが、その3年前のゴールは千葉所属時代の2021シーズンのアウェイ岡山戦(最終戦)です。やはり左サイドから手痛いボレーを喰らいましたが、今、岡山の一員として値千銀の決勝ゴールを決めている。何ともいえない感慨が体中を走りました。この勝利により岡山は勝点を34に伸ばし、得失点差で5位に上昇しました。プレーオフ圏争いは接戦とはいえ、もしドローで決着していた場合は千葉に抜かれて7位。チームに及ぼす負の心理的影響は多少なりともあったと想像します。
内容はどうであれ大きな1勝であることに変わりはありません。
メンバーです。
岡山は予想どおり天皇杯に出場していなかったメンバー中心の構成となりました。ベンチにはDF(55)藤井葉大が前節に引き続き控えます。これはおそらくLCB(43)鈴木喜丈のスイッチ役と想定されました。そしてサブのGKを(13)金山隼樹に代えてきました。これまで多くのリーグ戦で控えに入ってきた(1)堀田大暉が天皇杯愛媛戦で7失点と精彩を欠いた影響は何らかあったものと考えます。
サブのGKにも突如として出場機会が巡ってくることは当然有り得ます。
ここはベテラン(13)金山の安定感を買ったということでしょう。
このメンバー選考からも、岡山からは大敗からの強い引き締め、立て直しへの意欲が伝わってきました。
熊本は故障明けのGK(1)田代が7試合ぶりに復帰、この試合での主役級の存在感を示すことになります。一方で、前節秋田戦で退場したDF(13)岩下航と累積警告によりMF(21)豊田歩が出場停止。LWBに(10)伊東俊を一列下げて入れ、LSTに大卒ルーキー(19)古長谷千博を抜擢しました。(21)豊田不在のCHには(15)三島頌平が入りました。
2.レビュー
「攻勢・守勢分布図」に表しましても、如何に岡山攻勢の試合であったかという点が伝わってきます。特筆すべきは表内に書き切れないほどの決定機の数です。こうした決定機の多くが熊本陣内ボックス内で発生していたこともあり、この試合の岡山のゴール期待値は3.92まで上昇しました。
普段の岡山の試合では、ほとんど観られない展開、数値かと思います。
この後のレビューではこのあたりの理由をそれなりに解き明かす必要はあるように思いました。
そして後半途中からはさすがに熊本が岡山陣内へと押し込む時間がありましたが、この時間帯で盤石に守り切った点が最終盤の再攻勢に繋がったものと思います。チーム全体を評価すべき点ですが、62分から予定どおり(43)鈴木に代わって出場した(55)藤井の頑張りは大きかったと思います。
(1)なぜ岡山は熊本を押し込めたのか
① 熊本のサッカーの変化
岡山と熊本の前回対戦は4/20の第11節とそれ程間隔は空いてなかったのですが、この時は熊本が圧倒的にボールを支配、岡山が自陣に押し込まれる展開が長く続きました。しかし、岡山がカウンターからの1対1を(19)岩渕弘人が決め切るなど少ないチャンスを活かして2-0で勝利したのです。今回はこの時とは真逆な試合展開になったのですが、その理由のひとつとして指摘できるのが熊本のサッカーの変化です。
それは実は試合前の木山監督のインタビューにもヒントがありました。
最近の熊本は縦に速い攻撃も指向していると述べているのです。
今回もSPORTERIAさんのデータから引用します。
この短期間での熊本の変化を如実に表しているのが、パス本数の変化です。
前回対戦時のように、熊本のビルドアップの起点CB(24)江崎巧朗やRCB(2)黒木晃平のように1試合でのパス数が三桁に到達する選手もいました。これがこれまでの大木体制の熊本に近い形であったと思います。
これが今回の熊本戦ではおよそ半減しています。
パス数の減少割合が一定な点、パス交換の部分的な濃淡の傾向に変化はありませんので、岡山が特定のパスコースを対策的に遮断した訳ではなく、これは熊本の意図的な変化と考えられます。
パスネットワーク図も前回対戦時と比較してみましょう。
全体のパス数の違いや、岡山のプレスとの関係もありますので、一概に比較はできませんが、以前よりも最終ライン間での横パスが減り、若干縦指向が強まっている雰囲気はみてとれる気がします。選手間の距離も開いているようにみえます。やはり、前回対戦時よりも熊本は能動的に縦指向を強めているようにはみえるのです。この岡山戦に至る他の試合のデータもみてみましたが、試合毎のばらつきはありながらも、やはりこうした傾向はみてとれるのかなという印象を持ちました。
熊本の変化の理由は、やはり勝点を十分に上積めていないことにあると思います。ボールサイドに人数を掛けるスタイルはこれまでどおりなのですが、今までは3-3-3の特異なシステムからボールに3人寄せるところが、2人になる場面が増えていたり、システム自体が現在は3-4-2-1と一般的な形に変わりつつあるということから、サッカーの特異性で結果を出すことが難しくなっているのかもしれません。
そこで熊本のポゼッション指数をみてみますと、毎年数値が高い印象がある中、プレーオフに進出した2022シーズンは実はそれほど指数は高くないのです。特に自陣ポゼッション指数は50を下回り、順位は12位です。
つまり、一番良かった頃の熊本は自陣から素早く前線にボールを運べていたといえるのです。ひょっとすると、この試合でもみられました熊本のボール運びの変化は最も良かった頃の大木熊本への回帰をも示唆しているのかもしれません。
余談ですが、筆者は岡山にも「岡山スタイル」と呼べる確固たるサッカースタイルの構築が必要と述べてきましたし、他サポさんの投稿などからも自チームのサッカースタイル確立を夢見る声は結構多いものと認識しています。そんな意味では非常にお手本になる熊本なのですが、やはりその継続の難しさを感じさせます。思い起こせば一昨シーズンは河原創、昨シーズンは平川怜と戦術のキーマンが熊本にもいましたが、悉く引き抜かれてしまいました。戦術の独自性と、毎シーズン安定して戦うための汎用性との両立の難しさを今回のレビューを作成しながら感じています。
② 岡山の熊本対策
さあ、ここから岡山へと話を転換していきます。データ的な話から徐々にメンタル的な話へと移していければと思います。
前述しました木山監督のコメントから、岡山はしっかり熊本をスカウティングして試合に臨んだ様子が伝わってきました。
第2クールの岡山はご存知のように負傷者が続出。メンバーを組むのも精一杯の試合があり、自分たちのサッカーへのフォーカスすら難しかったといえます。そんな中で、この熊本戦はしっかり相手にフォーカス出来ていた様子が窺えた点にまずチーム状況の好転をみてとれました。
まず熊本の縦への起点を潰すことが岡山の第一のねらいでした。
CF(99)ルカオやLST(19)岩渕の熊本(24)江崎や(2)黒木へのプレスは有効で、特に前半の(99)ルカオは(24)江崎にほとんど攻撃の起点としての仕事をさせていなかったと思います。
熊本(24)江崎の攻撃スタッツを前回対戦時と比較しますと、前回はパス成功率92.8%なのに対して今回は76.4%と大きく低下しています。
ここまで述べてきましたようにショートパスが減少している可能性もあるのですが、やはり(99)ルカオの圧に屈したミスパスも散見されました。
岡山が40mラインというかなり高い位置でボールを奪えていたのも、岡山のプレスが熊本最終ラインから第3列へのミスパスを誘発していたことによるものと考えられます。
(99)ルカオら岡山前線のプレスに屈した熊本はロングボールを前線に蹴る訳ですが、ここは(5)柳(育)がほぼ空中戦を制することで岡山が回収に成功していました。この点も岡山が優位に試合を運べた要因のひとつです。
(99)ルカオのデキは出色と呼べるものでした。チーム全体でサイドへ流れるプレーが得意な(99)ルカオを走らせやすいパスを出すようになったという点もありますし、(99)ルカオから出されるマイナスのクロスへの予測、反応もチーム全体で良くなっていると思います。
また、本来苦手なはずであった単純に収める仕事についてもこの試合では冴えを見せていました。
(2)引き締め材料となった天皇杯
前半終了時の筆者の投稿です。
決定機を決め切れないことを除いてはこの試合の岡山は完璧であったと思いますし、隙がありませんでした。
それは、まずチームとしての天皇杯大敗の純粋な悔しさもあったと思います。そしてこの試合に出場した選手たちには、難しい条件で天皇杯を戦ってくれたメンバーたちへの想いもあったのかもしれません。
彼らが故障明け、不慣れなポジションといった難しい条件の中で試合を戦ってくれたこと、要は何とかターンオーバー出来たことでこの熊本戦は各選手フレッシュな状態で臨めたという点は否めないのです。
その天皇杯で途中出場した(5)柳(育)や(19)岩渕からは特に普段の試合以上の気迫が漂ってきました。(5)柳(育)は比較的、気持ちが乗っている時と上手くいっていない時の様子が表に出るタイプだとみていますが、熊本戦の表情は締まっていて本当に良かったと思います。
セットプレー等から何度も強烈なシュートを浴びせていました。熊本(1)田代のビッグセーブ連発は、この(5)柳(育)の気迫が(1)田代の元々持っていた闘志を誘発させたように思います。この2人の間には何やら別空間ともいえる劇場感が漂っていたように見えました。
岡山のこの試合の大きな収穫のひとつは(5)柳(育)が何度もセットプレーから決定機をつくれたことです。久々に「トレイン」もみましたが、これも負傷者が戻ってきたこと、過密日程から解放されたことで、じっくりとセットプレーの準備が出来ていることを指し示しています。
今後の戦いにも期待を持てると思います。
(3)決定機逸を考える
一方で、前半の決定機逸はこの試合に限らずずっと続いている岡山の課題で、即ち前半で得点を奪えないことが苦しい試合運びに繋がっていると思います。しかし、不思議なことに試合時間が進むにつれて不安を憶えているのは筆者のようなサポーターの一部だけで、選手の表情からはそれ程焦燥感はみてとれませんでした。「入らぬなら入るまで撃とう」という、数を撃てばという振る舞いにみえました。
そうしたチームの振る舞いに、ある意味逞しさを感じ、その続ける逞しさが(17)末吉の決勝ゴールを生んだともいえるのですが、やはりどの試合、どの相手でもこれだけシュートは撃てないと思います。
決めるべき時に決める必要はある訳ですが、岡山の決定機逸の原因を考えた際、ボックス内を最後まで崩す攻撃にこだわっている点はポイントと感じます。これは木山ファジのコンセプトが「ニアゾーン」への進入、そして相手コートでのサッカーを指向している事と関係しています。
まず「ニアゾーン」への進入を言い換えると「ボックス内」への進入ということになります。そして相手コートでのサッカーということは、相手を押し込んでいる状態であり、進入したボックス内には相手の選手がたくさんいつ状況が想定されます。
つまり、岡山は相手選手がたくさんいるボックス内を、パスワーク、相手選手を交わすことで崩さなくてはならないのです。
フィニッシュに至るまでに非常に高い技術、アイデアが要求されるているのが、実は今の岡山のサッカーなのです。
では、今の岡山の選手を見渡した時に、以前よりは巧い、テクニカルな選手も増えてきました(岩渕のようなイメージ)が、ライバル他クラブと比べた時に高いテクニカルを売りにする選手がどれぐらいいるでしょうか?
どちらかといえば、強度とスピードを売りにしている選手が多いと思います。つまり、崩しのパターンと選手のタイプにミスマッチが起こっているともいえるのです。だからこそ、テクニカルな(19)岩渕はチームの決定機逸に関して(自分がそこを補う役割だからこそ)強い責任を感じているのであろうと推察するのです。
この仮定に立つと、岡山の決定力改善は非常に解決が難しい課題ともいえるのですが、この点はチームの練習の成果、そして夏のマーケットで補うしかないとも思えます。夏のマーケットに関しては負傷離脱した(9)グレイソンのようなポストプレーも出来るCFタイプが必要と言われてきましたが、現状の岡山の崩しを考えるなら、その特徴ににこだわる必要もなく、まるで「ゴールへ正確なパスを出せる」ようなテクニカルなタイプでも良いような気がします。
筆者は個人的願望として来てほしい選手がいるのですが、この点は答え合わせを待ちたいと思います。
(4)両翼のバランス
この劇的な決勝ゴールのシーンからも感じたのですが、岡山の両翼のバランスが良い意味で変わってきたと感じています。
このシーンに関しては、(43)鈴木に代わって入った(55)藤井の攻め上がりから、中央、右へと展開したことで、熊本の目線を揺さぶり、多少なりともスペースを広げることが出来ていたと思います。
(55)藤井が入っても一定レベルで左からの攻撃を維持出来ている点も良かったのですが、(43)鈴木が交代後に岡山は右の(88)柳貴博からつくるシーンも増えており、これまで「喜丈ロール」により左でつくって右が決めるという形に偏り気味であった岡山の左右バランスが非常に良くなっているとの印象を持ちました。
なかなか他チームをみていましても、この熊本もそうなのですが、左右両翼のバランスを保つことは結構難しく、ボール運びが片翼に偏ることで攻撃の強みを出せる一方、相手守備の的も絞りやすくなるいった点は課題になっているケースが多いように思います。
(43)鈴木の離脱は岡山の第2クール停滞の大きな要因であったことは間違いないのですが、その分、右サイドからの崩しを形に出来た点はまさに怪我の功名であると考えます。
3.まとめ
以上、アウェイ熊本戦のレビューでしたが、まとめというよりは次節群馬戦への展望を述べてみたいと思います。
今回の熊本戦を踏まえますと、一言で述べますなら簡単な戦いにはなりません。最下位の群馬ですが、昨シーズン同様、守備の安定感を光っており、1点差勝負の試合が多いことからも、おそらく今回のように簡単にシュートは撃たせてもらえないと思いますし、甘いコースは(21)櫛引政敏に全てセーブされれるものぐらいに思っておいた方が良いと思います。
ですから、やはり前半で決め切ることが必要になります。
決め切るための決め手までは、現状では思いつかないのですが、ある程度ボックス外からミドルを撃つ必要もあるようには思います。
この点については、まだ良い意味で岡山の色に染まっていない(39)早川隼平に期待したいと思います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。
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