【向日葵は枯れていない!】24.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第24節 vs カターレ富山 ~
ギラヴァンツサマーフェスティバル2024
「小倉織」をイメージしたデザインシャツ配布の集客プロジェクト試合は、目標の満員までには至らなかったものの、12,448人の観衆を集めることに成功しました。ひとつのデュエルごとに大歓声が反響するミクスタは、DAZN越しにもちょっとした欧州のスタジアムを連想させる熱狂空間であるように感じました。今回も日程の都合により見送りましたが、実際に現地で感じてみたかった一戦でした。
シャツをデザインした小倉縞縞様はJ3優勝、J2昇格を果たした2019シーズンを支えてくださったとの情報をみました。中断期間、小倉織Tシャツを着用した選手たちは、毎日のように市内各所でPR活動を続けていました。
Xのフォロワーさんの投稿によりますと、商店街でフライヤーを配っていたある選手は、J3には関心がないと述べるある市民の声に熱心に耳を傾けていたといいます。
そんな選手たち、クラブの努力は実りました。
そして、ミクスタの夏の夜空に打ち上がった花火は単なる夏祭りの風物詩ではありません。J2昇格、J2復帰への「狼煙」であるのです。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
集客強化試合において、今シーズンベストゲームと呼べる内容で勝利出来たことは、今後、昇格戦線を戦っていくことになる北九州にとって、心強い新規サポーター獲得のきっかけにもなっていく筈です。
先制ゴールを決めましたエースCF(10)永井龍はJ2長崎に在籍した2016シーズン以来の二桁得点を達成しました。
課題であった追加点を奪ったことも大きな成果で、リーグ戦2-0のスコアでの勝利は4/10第9節琉球戦以来となりました。
順位はついにプレーオフ圏内の5位に浮上です。
まだまだ、1節ごとの順位の変動は有り得る状況ですが、7位相模原に勝点3差をつけ、自動昇格圏2位沼津には勝点4差に迫っています。
カターレ富山は近年苦手にしていた相手で、北九州は今シーズン前期の対戦でも惜敗を喫していました。しかも中断前は7戦負けなし、6戦連続無失点で一気にプレーオフ圏内へと名乗りを挙げていました。
今シーズンの富山は天皇杯やルヴァン杯でもジャイキリを連発、J1相手に善戦を繰り広げていたことも記憶に新しいです。
慢心はいけませんが、富山の力量を踏まえましても、本当に自信を持って良い勝利です。
メンバーです。
中断前は(6)藤原健介をトップ下でスタート、後半に前線の選手を投入し(6)藤原を一列(CHに)下げるパターンが多かったと思いますが、この試合では(6)藤原がCHでスタート、最初から分厚い攻撃布陣で臨みました。
増本監督の考え方の傾向から推察しましても、多くの観客の目の前で先手を奪いたいという気持ちが出ていたメンバー構成といえます。
また、富山のビルドアップに対して高い位置で奪い、一気にゴールを陥れるというねらいもあったものと思われます。
LSBには久しぶりに(33)乾貴哉が先発復帰しました。
そして、期待の新戦力がベンチ入りを果たします。
8/12、J1北海道コンサドーレ札幌より、FW(16)大森真吾が加入、早速この試合からベンチ入りしました。
中断前琉球戦のレビューでも、筆者は若手ストライカー獲得の必要性について述べました。
育成型期限付移籍とはいえ、地元小倉南FC出身の有望選手を獲得出来た点は、今後の盛り上がりという点からもプラスに働きそうですし、合流から間もないとはいえ、いきなりのベンチ入りに自ずと期待は高まります。
昨シーズンのJ1初得点(40m超えロングシュート)も記憶に新しい選手です。
2.レビュー
(1)ビルドアップを封鎖せよ
それではゲームです。
お互いに最終ラインの裏を狙いながら序盤は進みます。
4分過ぎから、富山は徐々に最終ラインからビルドアップを開始します。
中断明けということで富山のビルドアップの傾向を注意深く見ていましたが、データが示すとおりの傾向であったといえます。
富山のビルドアップ傾向を如実に示すのが、GK(1)田川のポジションです。前節(第23節)のヒートマップをみましてもGKにしては非常に高い位置でビルドアップの起点になっていることがわかります。
彼が高い位置でビルドアップに関与することで、富山の陣形全体が高い位置をキープ出来ているともいえます。
さすが、横浜F・マリノスの保有選手です
北九州としては、この(1)田川を中心とした富山2CBからのビルドアップの起点を下げさせることが戦術的に大きなテーマになっていたといえます。
24分の(10)永井の先制ゴール後、富山は反撃を試みようと積極的に最終ラインから前進を試みます。この28分48秒からの場面ですが、富山のビルドアップに対する北九州の考え方がよく見えてきた場面でした。
前に示しました富山の前節のデータからは見えないのですが、富山の過去のパス交換データをみていますと、左サイドでのパス交換が多くなっており、かつ右サイドからのクロスによるボックス内への供給が多くなっています。
こうしたデータから、最終ライン⇒左⇒右⇒ボックスという富山のボールの動かし方が見えてくるのですが、北九州の守備は富山に左でつくらせずに、浅い位置から右に展開させてボールを奪うことがよく出来ています。
まず(10)永井は富山CH(24)河井陽介を直線的に消すのではなく、(1)田川の右を切りながら(24)河井を消しています。
こうすることで(1)田川はLCB(4)神山京右へパスを誘導されます。
右利きの(4)神山は(1)田川に正対してボールを受け、かつRSH(29)高昇辰のプレッシャーを受けますので、この時点で(4)神山から富山左サイドへの展開の可能性は非常に低くなっています。
北九州としては、(10)永井のプレッシャーの掛け方一つで富山の強みのひとつを消すことに成功しているのです。
更に注目していただきたいのが、(29)高昇辰とLSH(21)牛之濱拓の立ち位置です。
ハイプレスからサイドへの誘導というとSHとSBで相手のサイドの選手を挟み込むイメージもありますが、この2人のSHは富山のSBは最初から捨てていて、富山最終ラインから縦へのパスコース切りを優先させているのです。
ただこの形で守っていても、最初から富山の左サイドは無効化できるので、注意すべきは右サイドのみとなります。
実際に(4)神山はRSB(23)西矢慎平へ浮き球のフィードを送ります。正確なフィードでしたが、浮き球で送る分、時間が掛かるため(21)牛之濱は(23)西矢に間に合うのです。
ここで刈り取り役として機能していたのが(33)乾で、この場面は2対2を制した北九州が再びマイボールに出来ました。
この北九州の守備は、(1)田川から直接フィードされる場面でも機能しており、何度か(1)田川のフィードがタッチラインを割るシーンも散見されました。
筆者個人として、非常に好きな守り方でしたので、少々詳しく採り上げました。
それでも、富山も何度かは右の高いエリアへの展開に成功しており、成功した際は36分からのように連続したチャンスを創り出せるのですが、ボックス内へのクロスに対しては(13)工藤孝汰、(50)杉山耕二、終盤は(4)長谷川光基も加えた北九州CB陣が堅く跳ね返していました。
37分富山LSH(27)吉平翼のシュートに体を投げ出した(6)藤原の守備も光っていました。
先制点後のこの場面で失点を許さなかった点も大きな勝因のひとつであったと感じています。
(2)藤原健介の実力をみた
順番が前後してしまいましたが、北九州の先制点の場面を振り返ります。
いかがでしょうか?
筆者は今シーズンここまでのベストゴールに近いのではないかと感じました。
注目したのは、北九州のビルドアップです。
この試合で北九州と富山の差となったのは「縦に差す力」であったと思います。
今シーズンの北九州の課題の一つが最終ラインからのビルドアップにあるのですが、(6)藤原の能力で一気に打開してしまいました。
(6)藤原が最終ラインまで下りて、ビルドアップを開始します。
富山は既に陣形が整いつつあり、CH(34)高吉聖真へのパスコースは富山(9)碓井、OMF(33)高橋馨希に消されています。
しかし、ここで安易にCBに横パスを出したりしないのが(6)藤原の能力といえます。手を挙げている(29)高昇辰へ矢のような縦パスを差し込むのです。(29)高昇辰はワンタッチで(22)山脇へ。
ここで(22)山脇が一気に前進するのではなく、溜めたことで(6)藤原の攻撃関与を可能にしました。
富山はしっかり守備ブロックを形成しているのですが、(6)藤原と(22)山脇のパス交換に緩急があったことから、富山の対応がワンテンポずつ遅れているように見えるのです。
(6)藤原のクロス、(10)永井の動き出しの質の良さは言うまでもなくです。
遅攻で仕留めたいい得点でした。北九州の新味が出たといえます。
そして、この得点の起点となった北九州の保持は(10)永井が右サイドで味方をサポートしたことによるものであった点も見逃せません。
増本監督も普段から味方を助けることの重要さを説いていますが、まさに体現出来ていたプレーでした。
追加点も貼っておきます。
(29)高昇辰との2トップの関係性が良かったと思います。
それにしてもシュートするタイミングでバウンドの変化に冷静に対応しており、その動きがGKのタイミングもずらしていますね。体幹が強いのでしょうね。
(3)価値ある後半の戦い
(10)永井が退いた後半に追加点を奪えたというのは北九州にとって非常に価値があることといえます。2トップの関係性で奪った1点と述べましたが、CHに(14)井澤春輝を入れて(6)藤原を前線に上げた変更がハマったといえます。
反撃したい富山の動きを止める策として、積極的な4-4-2の守備ブロックは非常に有効でした。
J2やJ3の試合を観ていますと、守備ブロックがただ構えるだけになってしまっている場面も結構見かけるのですが、この試合後半の北九州の守備ブロックは「ボールを奪う」ためのブロックになっていたと思いました。
富山も積極的に北九州のライン間に差し込み、で交代出場のMF(29)布施谷明らが受けようとしていましたが、こうした動きに対して前後からしっかり挟み込み、ボールを奪うことが出来ていました。
そして64分自陣でボールを奪い、鋭いルーレットを交えながら前進した(14)井澤の動きに代表されるように、奪ってからの攻撃の鋭さも全く失われていませんでした。そんな北九州優勢の流れの69分に、期待の(16)大森が登場します。
プレーシーンを初めてじっくり見ましたが、スピードと重戦車のような推進力が目立ちました。73分、同じく交代出場のMF(8)若谷拓海からのクロスをニアで合わせたシーンは得点の匂いがプンプンと漂っており、今後コンビネーションが熟成されれば一気に得点量産の期待も持たせる動きであったといえます。
3.まとめ
以上、ギラフェス富山戦を簡単に振り返りました。
サポーターの期待に応える試合が出来たという点が最も大きな収穫であったと思います。筆者なりに長年Jリーグを観てきたつもりですが、お世辞抜きにこうした試合が出来るチームは昇格争いが出来ると思います。
更に今後の展望を考えた時に、北九州の強みになりそうなのが、解像度が高い対戦相手の分析力ではないかと筆者は考えます。
あくまでも筆者の想像の域を越えませんが、見直せば見直すほど、対戦相手の詳細な分析跡がみえてくるのです。昨シーズンJ3を戦った増本監督の経験値が活かされていることは間違いないと思いますが、優秀なアナリストの影を筆者は感じています。
(10)永井不在の戦いにおいても目処が立った点も大きな収穫でした。
この秋の更に大きな収穫がより一層楽しみになっています。
今回もお読みいただきありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?