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【ファジサポ日誌】51.献身~第16節V・ファーレン長崎vsファジアーノ岡山

※写真は熊本戦より
「司祭のいない迫害の時代に、信者の指導者が信仰を伝えるために献身し、信者発見後は、司祭・信者が一体となって働いた使徒職活動を記念すると共に、この教会の保護者だった聖女クララのご伝達を祈るために、このサン・クララ記念碑が建てられた。」(カトリック浦上教会より)

キリシタン禁止令下のカトリック信徒の「献身」について述べられた一文である。

この夜、敬虔な信仰の地という一面を持つ長崎(諫早)で多くのファジ戦士たちはチームに「献身」する姿を見せてくれた。誰もがチームのために、勝利のために懸命に働いていた。残念ながら勝利は掴めなかったが、この「献身」が報われる日は近いうちに必ず来る。熱く穏やかにその日を待ちたい。

1.試合結果&スタートメンバー

J2第16節 長崎vs岡山 スタートメンバー

それでは本題に入りましょう。まずはメンバーです。
連戦中のミッドウィークの一戦、お互いにメンバーを代えてきました。
長崎のポイントは(9)ファンマ・デルガドの復帰です。前節は明らかにお休みといえる欠場でした。(5)柳育崇、(23)ヨルディ・バイスが待つ岡山最終ラインに良い状態でぶつけてきたといえるでしょう。
岡山は大宮戦で負傷したボランチ(6)輪笠祐士の穴をいかに埋めるのかが注目されました。当初は(15)本山遥の先発起用も想定されていたようですが、この試合ではRSB(16)河野諒祐も欠場。(15)本山がRSBに入り、ボランチは(27)河井陽介、(44)仙波大志のコンビで組みました。一方、LSBに(43)鈴木喜丈が戻り、大宮戦でLSBを務めた(2)高木友也が一列前へ。2トップは(8)ステファン・ムーク、(99)ルカオという初の組み合わせで臨みます。好材料はGK(1)堀田大暉の復帰です。コンディション不良は一時的なものであったようです。

2.レビュー

J2第16節 長崎vs岡山 時間帯別攻勢守勢分布図(筆者の見解)

何となく「似た者同士」の戦いと感じた方もいらっしゃったかもしれません。お互いビルドアップに取り組んでいますが、ビルドアップで崩し切ることにそこまではこだわってなく、最終ラインの強さをベースに個の力でボールを運ぶ、決定機をつくる。細部の違いはあるのでしょうが、この2チームの試合運びには共通点があり、お互い後半にペースダウンしたことから非常に拮抗した試合になったと思います。岡山サポとしては当然勝ち切ってほしかったのですが、客観視した場合、スコアレスドローという結果は非常に妥当とも思えました。

(1)前線の献身と岡山サイドの誤算

前半は何と言っても岡山の2トップ(99)ルカオと(8)ムークの献身ぶりが目立ちました。
大きなポイントは、長崎のビルドアップ時に(8)ムークが長崎のボランチ(6)鍬先祐弥を消していたことです。この(8)ムークの働きと(99)ルカオが見せた相手最終ラインへの強烈なプレスにより、長崎ボールをサイドに誘導することに成功していました。これにより(9)ファンマに縦に良いボールを入れさせませんでした。(5)柳が力強く(9)ファンマに対応できた一因でもあります。
(99)ルカオは前線を広範に走り回りながら、長崎GK、DFにプレッシャーを掛け続け、単独でボールを取り切りかけた場面もありました。これまでも期待していた選手でしたが、相手の追い込み方の巧さ、走力、スタミナという新たな一面も見せてくれました。この(99)ルカオの動きに連動していたのが(8)ムークで、1.5列目のような位置で相手ボランチを消しながら、(99)ルカオのプレスに連動して最前線にも顔を出していました。
まさに1人2役、中盤からの崩しに参加する点を含めますと3役ともいえる活躍ぶりでした。

序盤から長崎ボールをサイドに誘導できていた岡山でしたが、では長崎を苦しめていたかというと、そこまでではなかったのではないか?とも思います。これがサッカーの面白いところです。
特に前半は岡山の両サイドを崩されるシーンが多かったと思います。DAZN解説の前田悠佑さんの指摘どおりノープレッシャーでクロスを入れさせるシーンが散見されました。

これは長崎の両SBに攻撃能力が高く、1対1でテクニックを発揮する(8)増山朝陽や(23)米田隼也が配置されていたことで、単純に個の力でボールを前線に運ぶことができる。そして、岡山が比較的前でボールを奪いにいっていたことも影響していたと思います。
この点については19分~20分にかけて長崎(6)鍬先のミドルシュートに対して(1)堀田が好セーブで逃れた場面がありましたが、これは(15)本山がハーフウェイライン付近までボールを奪いに進出したことにより、岡山側右サイドにできた大きなスペースを使われたことによるものでした。
一方で左サイドは(43)鈴木と(2)高木の関係性が攻守共に十分に整理出来ていなかったという印象を持ちました。この2人の連携不足を長崎に突かれていたという印象です。(43)鈴木も大宮戦はコンディション不良による欠場との事でしたし(2)高木もスタメンでLSHに入るのは初めてであったと記憶していますので、この点は今後の連携強化に期待します。

(2)理想を追い求める

岡山は長崎をサイドに誘導しながらも、長崎にそのサイドを攻撃の起点として使われていましたが、30分過ぎ(1)堀田のビルドアップから(15)本山をWBに上げた3-4-2-1のような陣形に変更。ここから10分ほどは高い位置でボールを奪いフィニッシュに繋げる、岡山が標榜している「相手コート」での戦いを体現している時間帯でした。

J2第16節 長崎vs岡山 30分過ぎ 岡山の陣形変更

長崎も、前述していますサイドの崩しから何度か決定機を迎えていた、岡山も(14)田中雄大を中心に惜しいシュートを放っていたことから、どちらかに得点が生まれそうな時間帯であったと思います。更に連戦の最中であり、後半のペースダウンも想定された状況を踏まえますと、岡山はこの時間帯に勝負に出ていたのではないかと推測します。
また(15)本山、(2)高木を両サイドに張らすことでサイドの守備にも手当てを施したということかもしれません。それでも右サイドは破られていましたが…。
37分左サイドで(8)ムークが関与しながら左から崩し、中央に空いたスペースからの(14)田中のミドル、40分(15)本山が1レーン内に切り込みながらパス交換、左足のからのクロスを(99)ルカオが触れていればというシーン、このいずれかを決めていれば…という試合であったと思います。

この10分間は非常にベンチ側からの強いメッセージが発信されていたと思います。良い攻撃ができながら、一方で守備の穴も目立っていた前半の展開を踏まえながらも、守備の穴を埋めることを第一にというよりは、あえて先に得点取り切ることで優位に立とうとしていました。
毎試合「相手コート」での戦いを口にする木山監督ですが、この試合の勝負所というのみならず岡山のサッカーを確立するという大局的な戦いという面でも勝負に出ているなと感じました。

(3)両ボランチの献身

最近数試合同様に継続できていたのは、両ボランチのボール受けと繋ぎ、持ち運びです。(44)仙波大志がより深い位置に積極的に下りて受けるようになりましたし、この試合では(27)河井陽介が最終ラインから積極的に受けることで(44)仙波を前に出し、彼の攻撃センスを活かしていたと思います。精度は不十分でしたが(44)仙波がミドルシュートを放つ、フィニッシュに関与できたのは、この(27)河井の働きによるところが大きかったのです。

後半、この2人はサイドの守備にも積極的に関与、特に(27)河井からはプレーのひとつひとつに鬼気迫るような気迫を感じました。
この試合の評価について(27)河井は良い内容のゲームができながら勝ち切れなかった甘さについて厳しく言及しています(※ファジゲートより)。
彼もまた、今を勝負所と捉えている一人なのです。

この試合では数々の岡山の選手の献身ぶりを見ることができました。
39分相手スローインを遅らせた(1)堀田のプレー、リスクはありましたがイエローで済むという冷静な判断の下、自らが泥を被りました。
そして、試合終盤、負傷により一度はピッチ外に出ながらも、再びピッチに戻り前線でパスコースを消し続けた(15)本山の献身。
こうしたプレーがなければ、この試合を落としていた可能性もあったと思います。

そして、この試合の結果に及ぼした影響として長崎のゲーム運びについても触れなければなりません。そこまで激しいプレッシャーをかけてこなかったことで岡山がパスを繋げた、ボールを前線に運べたという側面はあります。
長崎は、最終ラインの強度と前線の決定力、そして個人の技術力の高さによりここまで結果を残してきていますので、負傷や体力の消耗、失点に繋がるようなリスクは冒してきませんでした。

カリーレ監督の試合運びをみていますと、清水を解任されましたゼ・リカルド元監督と何となく似ていると感じます。ブラジル人監督は個の力で攻撃が出来る、得点を奪えるのであれば、案外、リスクは冒してこないのかな?とそんな印象を持っています。非常にゲームマネジメントが理詰めなのですね。一方でリスクを冒さないことによる勝ち点の収支計算が上手くいかなかった、これが序盤戦の清水であったのかなと、他クラブのことなので見当違いかもしれませんが、この試合をみていての雑感です。

まとめ

ドローは残念ですし、勝ち切れないという事は力不足であるとも思います。
しかし、継続的に岡山のサッカーを見続けている者の一人として、この試合のポジティブな面については触れるべきである。今回のレビューはこのような論調で書いてみました。

それでは得点を奪い切るためにどうすれば良いのか?
最後に少し触れてみたいと思います。
① クロスに対してファーサイドに飛び込む選手がほしい
(2)高木をはじめ良質なクロスを上げれていたと思うのですが、出し手と受け手の意図が合ってないようにみえたのが少々残念でした。特にファーサイドに誰もいないというシーンが多かったので、この点を改善してほしいです。更にはクロスを待ち構えている選手が多いので、もっと後方から走り込む選手がいても良いと思います。その為にはクロスを上げるタイミングを早めなくてはいけませんので、これには攻撃全体のスピードアップが必要です。

② アタッキングサードでもうひと崩しがほしい
シュートを撃つ意識が高まったことにより、ミドルシュートが増えた点はよいのですが、相手GKの正面に行くということはシュートコースを消されているからだとも思います。
そこでボックス前からのもうひと崩し、相手に奪われればカウンターを被るリスクはありますが、ボックス内に積極的に入っていく(8)ムークにパスを出して最終局面を崩していく必要もあると思います。こうした攻撃を織り交ぜることでミドルシュートもより生きてくると思います。

さて、今夜は群馬戦ですが、長崎戦同様に良い流れが継続できるかというとそう話は簡単ではないのだろうと思います。その理由のひとつは2トップの組み合わせです。(18)櫻川ソロモンと(7)チアゴ・アウベスの組み合わせになりますと、この試合での(99)ルカオと(8)ムークのようなプレスは期待できないと思います。そうなった時にボールの奪い所をどこに設定するのか?まずこれが今夜の見どころのひとつです。

そして相手の弱点を厳しく突いてくる大槻サッカーということを考えますと、今夜も右サイドは狙われると思います。
(15)本山や(16)河野のコンディションも心配なのですが、仮に3バックで対応するのであれば、この試合で途中出場しました(30)山田恭也の先発起用も一手なのかなと思います。

とにかく今夜、ファジアーノに関わる多くの人々の献身が報われることを祈り、私もスタジアムへと向かいます。いいゲームにしましょう!

お読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。

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