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【向日葵は枯れていない!】21.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第21節 vsテゲバジャーロ宮崎 ~
連勝チャレンジ成功の後は、一気に3連勝に成功。
決してこの宮崎戦の試合運びは上手くいっているとは言い難いものでしたが、そんな試合で勝点3を上積める。それも強いチームの条件のひとつであると思います。そんな自信を深めたうえで、ギラヴァンツには地道に試合内容の改善に取り組んでほしいです。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
前半から両チーム共に決定機を迎えましたが、なかなかゴールをこじ開けられない中、74分のCKをCF(10)永井龍がニアで合わせて、北九州が待望の先制。その後、宮崎の猛攻に遭いますが、北九州の最後をやらさない守備の堅さ、そして宮崎の決定力不足にも助けられ、そのまま勝利を手中にしました。
北九州の3連勝は5年ぶり。その5年前の3連勝を少し調べてみました。
2020年、9月9日~19日、J2第18節~第20節、愛媛、新潟、山形に対しての3連勝です。小林監督時代、町野やディサロが活躍したシーズンですね。
近年、なかなか出来なかったことが出来るようになった手応えは順位にもしっかり反映されており、ついに一桁8位に浮上。プレーオフ圏とは勝点1差、自動昇格圏とは勝点4差に迫ってきました。
次節はアウェイで苦戦した松本をホームに迎えます。その松本はエース浅川隼人に2発が生まれFC大阪に快勝。次の試合が北九州が更に上位を狙う上で、試金石の一戦になるのかもしれません。
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メンバーです。
北九州は不動のLSB(33)乾貴哉がメンバーから外れました。
確かなことは不明ですが、前節鳥取戦で精彩を欠いていたことから、今節は休養となった可能性はありそうです。代わって久々に(24)前田紘基が入ります。
注目のCHの組み合わせは(6)藤原健介と(34)高吉正真でした。
守備で強みを発揮する(34)高吉と攻撃のタクトを振る(6)藤原の組み合わせが筆者としては最もしっくりくると考えていましたので、このボランチコンビの効果という点にも着目しました。
2.レビュー
(1)ビルドアップ時のボランチの関与について
早速、この試合の北九州の注目点のひとつでもありました(34)高吉と(6)藤原のダブルボランチコンビについて、これまでの北九州の課題であったビルドアップにどのような効果をもたらしたのか、そして残った課題について触れてみたいと思います。
まずは8分24秒からの場面です。
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まず注目したのは北九州保持時のダブルボランチの関係性で、この試合では主に最終ラインまで下りてくるのは(6)藤原の方が回数が多かったと思います。
北九州の両CB(50)杉山耕二と(13)工藤孝汰はGK(27)田中悠也がボールを持ったことで左右に開き気味のポジションを取ります。
ここで宮崎の2トップは(27)田中と(50)杉山にプレッシャーをかけています。具体的には(50)杉山から(27)田中に戻したところで、宮崎CF(11)橋本啓吾が(27)田中にプレッシャーをかけます。
北九州はこの局面に(6)藤原が下りることで、3対2の数的優位をつくれています。
(6)藤原には宮崎CF(13)北村知也が牽制をかけていますが、(6)藤原の技術であればこれぐらいの距離感、プレッシャーであれば十分パスを受けられることを示した場面でした。
(27)田中→(6)藤原→(50)杉山とパスがスムーズに繋がり、(11)橋本を剥がし、前向きに持った(50)杉山の選択肢にはRSB(23)坂本翔とRSH(29)高昇辰の2人がいます。(23)坂本が受ける動きを宮崎LSH(44)井上伶に見せて引きつけたことで、(29)高昇辰へ縦の鋭いフィードが入りました。
(29)高昇辰の至近距離にポジションを取っていたOMF(17)岡野凛平へ渡れば一気に北九州のチャンスでしたが、後方からの寄せが厳しかった分、(29)高昇辰は自陣へと戻します。しかし、そこにも縦関係になったボランチの(34)高吉が控えており、(34)高吉から左に展開、宮崎陣内への進入に成功します。
残念ながらこの流れから決定機は生まれませんでしたが、(27)田中がボールを持ってから約1分近く北九州はボールを保持出来ていました。
正直なところ、宮崎のプレスに連動性を感じさせる部分が少なかったという背景はありますが、北九州の(17)岡野や(34)高吉のポジショニングをみていましても、(6)藤原の関与から両CBが前を向きフィードする形はチームとしてかなり準備している印象を持ちました。
続いて(34)高吉がボールを受けに下りた場面もみてみます。
22分21秒からの場面です。
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この場面も(27)田中からまず(50)杉山へ渡ります。
今度は先ほどと逆で(34)高吉が下りて(6)藤原が前目に位置します。
先ほどの(6)藤原は、(27)田中に戻されたボールではありましたが、宮崎(13)北村から右へ離れるように動き直してボールを受けたのですが、この場面の高吉は(13)北村についていくように動いている(北村の逆をつけていない)ので、ボールの受け手になれていないのです。
(27)田中に戻そうにも(11)橋本が狙っていることから、(50)杉山の選択肢は右サイドの(23)坂本一択となるのですが、こうなると宮崎のSHも早めに(23)坂本に寄せることができます。その先の(29)高昇辰にもCH(5)坂井駿也がスライドしているので、(29)高昇辰は(23)坂本に最終ラインに戻すよう指示を出します。
戻されたボールを受けた(50)杉山が困ってしまいました。
(6)藤原が合図を送っているように見えるのですが、実は(6)藤原へのパスコース上に(34)高吉と(13)北村がセットでいて、パスを出せなくなっている、当然(34)高吉にも出せない、そこで(50)杉山自ら持ち上がろうとしたところを横から忍び寄っていた(11)橋本に奪われてしまいました。
これまでの試合でも(34)高吉が受け手として下りる場面はあったのですが、(6)藤原と比べるとその動きに課題があるように感じました。
まず相手から離れようとしない理由についてですが、ひとつは対人に自信がある分、相手を背負ってボールを受けたいという心理が働くのではないかと考えてみました。しかし、これはおそらくパスの出し手としては非常につけにくい状況といえます。そして、もうひとつハードマーカーの本能として相手の動きに反応してしまうという推論も立ててみましたが、果たして真相はどうなのでしょうか?
しかし、この点は理由はいずれにしましても、「BOXtоBOX」を目指す(34)高吉としては今後改善してほしい課題といえます。
と述べますのも、(34)高吉が後方でボールを受けられるようになれば、(6)藤原をより高い位置に出すことが出来ます。そうすれば33分のように、(6)藤原が自陣センターサークル付近から一気に上がっていた右の(23)坂本へパスを出したシーンのようなチャンスメイクも増え、チームの攻撃力もアップするからです。
総合的に(34)高吉と(6)藤原の縦の関係性については、一見攻撃センスが高い(6)藤原が前方に位置した方が良いようにも思えるのですが、現状では技術が高い(6)藤原が後方に位置した方がしっかりと確実にボールを受けられるといえます。
仮に受けてから、ショートパスを出せる場所がなくても、前線に可能性のあるフィードを蹴られるという点でも、現状では藤原が下りる効果はかなりあるのではないかとこの試合を通じて考えました。
このような課題を抱えながらも、宮崎と比較しますと、北九州の方が保持時の前進方法に明確性があり、徐々にゲームは北九州ペースへと傾いていきます。度々、宮崎陣内へ進入、セットプレーも獲得する北九州ですが、この試合では今ひとつアタッキングサード内でのパス交換で精度を欠きました。
それでも31分、自陣左サイド中央寄りでボールを奪った(24)前田が(10)永井につけ、パスを受けた(17)岡野が自ら中央突破、シュートに至った攻撃からCKを迎えた場面など、チーム全体の攻撃意識は確実に高まっているといえます。
(2)ベテラン永井の駆け引き力
なかなか得点が生まれない展開が続きましたが、お互いに攻撃の要所でのプレー精度が上がらないことが原因になっていたとようにみえました。
よって、北九州としても大胆なシステム変更を行う必要性も感じられず、前節決勝点をマークした(22)山脇樺織も(23)坂本との交代で本職の右サイドバックに入りました。
しかし、こういう試合ではやはりセットプレーがモノを言いますし、セットプレーで獲れるチームは強いといえます。
🟡Today's Highlight 🔴#永井龍 選手、
— ギラヴァンツ北九州 オフィシャル (@Giravanz_staff) July 14, 2024
3連勝を手繰り寄せるシーズン8得点目‼️🎉
難しい体勢でしたがストライカー魂の決勝弾となりました🎇#藤原健介 選手も加入後2アシスト目と大活躍⚽️⚽️‼️#ギラヴァンツ北九州#giravanz#北九州 pic.twitter.com/TCtq5gN1UQ
ゾーンで守る宮崎に対して、前半から(10)永井はニア側離れた位置にいたと思いますが、この場面は勝負どころということで「駆け引き」を入れてきました。(6)藤原のキックに対して、いったんニアに走り込むフリをして宮崎(44)井上を吊り出し、空いたスペースに飛び込む綺麗なゴールでした。そのスペースへ寸分の狂いもなく蹴った(6)藤原のキックも見事でした。前半のCKから(10)永井がニアで合わせる形を何本か見せていたことが伏線となったゴールといえます。
ゲーム中に(6)藤原と(10)永井の間で修正もあったのかもしれません。今の(10)永井の好調はチャンスを単体ではなく、試合全体の流れ、いわば「線」で捉えているところにあると思います。
そして、この流れの中からの読みをおそらくチームメートに伝えられているのではないでしょうか。北九州の今の強み、それは選手間のコミュニケーション力にもあるのかもしれません。
(3)課題を残したリード後の試合運び
この74分での先制というのが、その後の試合運びの選択においては非常に微妙なもので、クロージングするには早すぎる時間ともいえました。
出来れば宮崎陣内でもサッカーをしながら時間を使っていきたいところでしたが、ここから北九州は防戦の展開を迎えます。
要因の一つに選手交代があったのかもしれません。
先制直後の76分、ゴールを決めた(10)永井に代わりMF(14)井澤春輝、LSH(21)牛之濱拓に代わり、МF(30)髙橋隆大が投入されます。
(29)高昇辰がトップに入り、(6)藤原が前に上がります。(17)岡野がRSHに回り、LSHに(30)髙橋、ボランチに(14)井澤が入りました。この形自体はこれまでもやっていますし、即ち采配ミスということではないと考えていますが、同点に追いつきたい宮崎に押し込まれ、何とか蹴り出しても前で収まらなかった点が、非常に北九州の終盤の戦いを苦しいものにしました。(29)高昇辰もトップを張れる能力はある選手ではあると思っていますが、降雨の中の蒸し暑いコンディションを踏まえますと、1トップにはフレッシュな選手が必要であったと思うのです。
この試合ではCF(9)平山駿が控えていましたが、(10)永井の交代要員として現状ファーストチョイスになっていない点が、北九州の台所事情の苦しさをも表しています。
今後J2昇格戦線に絡んでいくには、(9)平山の更なる成長に期待しながらも新たなCFの補強も必要と考えますが、それこそ台所事情の兼ね合いもありますので、何とも言えないところです。
とにかく(9)平山には、最初の交代要員になれるよう練習からのアピールに期待したいです。
3.まとめ
以上、宮崎戦を今回はテーマを絞り込んで振り返ってきましたが、セットプレーの守備に関しては、これまで何度か失点していましたGKとDFの狭いスペースも狙われていましたが、この試合ではしっかり跳ね返すことが出来ていました。この点は補足しておきたいと思います。
私は今シーズンから北九州をじっくり見させてもらっていますが、皆さまはこれまでの継続した流れでご覧になってらっしゃるので、今シーズンの北九州のサッカーに関しても非常に慎重な目線で、かつ背伸びし過ぎずにという姿勢で観てこられた方が多いように感じています。
しかし、この試合では苦しみながらも宮崎とのサッカーの完成度の違いも客観的に感じる部分はあり、今シーズンのサッカーにある程度の自信は持って良いのではないかと筆者は感じています。
この先は上を目指した戦いへのストレスも募ることになりそうですが、その喜びを噛みしめながら引き続き応援させていただきたいと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。