【ファジサポ日誌】38.パズルの組み方~第3節vs水戸ホーリーホック
カバー写真は2019年水戸遠征(最終戦)の際のK‘sデンキスタジアムです。残念ながら岡山は0ー1で敗れてしまいました。勝利した水戸もプレーオフ進出をぎりぎりで逃し、スタジアムは涙雨に包まれたのでした。
今シーズンは開幕後3戦目での水戸アウェイとなりましたが、目に見えて芝の状態がよくなかったですね。
こうした環境面も含めまして、その時の状況に柔軟に合わせていくことがサッカーには求められます。
この試合での岡山はそうした柔軟性に欠けた試合運びをしてしまった、逆に水戸は柔軟なサッカーが出来ていたというのが、この試合全体の感想です。
1.試合結果&スタートメンバー
フクアリ程ではありませんが、アウェイ水戸も鬼門になってしまいましたね。次のホームでは勝ち点3を取らなければなりません。
机上の計算ですが、自動昇格、優勝に必要な勝ち点80台に乗せるには各対戦相手から平均勝ち点4が必要となります(4×21=84)。
年間ダブル敗戦は許されないという点では、このドローも意義を持ちますが、前半戦でドローが増えれば増えるほど後半戦はきつくなります。
やはりこの試合は勝っておきたかったです。
続いてメンバーです。
岡山は(9)ハン・イグォンと(18)櫻川ソロモンの2トップとの紹介でしたが、(9)ハンは前後左右に動き回っていましたので、純粋な2トップではありません。
そして前節で負傷交代した(14)田中雄大に変わり右CHに入ったのは初スタメンとなる(41)田部井涼でした。レフティの(41)田部井を右に入れる布陣に注目が集まりました。
2.レビュー
全体的には水戸の時間が長かったですし、後半は特に水戸の攻勢が目立ちました。一方で後半途中岡山が盛り返しかけた時間帯があり、今後に繋がる内容と思いましたので後ほど採り上げます。「ポイント」と書かれている時間帯です。
(1)田中雄大の欠場~田部井涼の起用~
① 特性の違い
この論点を考える上で大事なことは、両選手の優劣ではありません。
(14)田中と(41)田部井では同じ中盤の選手でも全く特性が異なるからです。
まず利き足が異なります。
そして、プレースタイルを筆者なりに一言で表すなら(14)田中は「自分で動く」選手、(41)田部井は「人を使う」選手といえます。
(14)田中が攻守にピッチを広く使うのに対して、(41)田部井は狭い局面でボールを受け、決定的なパスを出すことによりその能力を発揮します。
選手の個性を最大限に発揮させる木山サッカーにおいて、この日右CHに左利きの(41)田部井を起用した意図はキープ力やパス能力を活かして、中央付近で味方と密集をつくり、相手を引きつけることにあったのではないかと当初筆者はみていました。
そうすることで、ゴール前でのFKのチャンスも増え、(41)田部井の左足のキックが活きる。そんな展開を想像していました。
しかし、現実にはそうしたシーンはあまり見られず、(41)田部井を起用した意図が実際にはどこにあったのか正直なところ分からず、また選手間で共有できていたのかが気になりました。
② 守備面のリスク
この試合に関しては①の論点よりも、寧ろ(41)田部井の守備面でのリスクが試合に大きく影響したと考えています。
48分、水戸の同点ゴールのワンシーン前、水戸(9)安藤瑞季のシュートに至ったシーンをみます。
水戸(3)大崎航詩のスローインに対して(41)田部井の反応が若干遅れます。受け手の(9)安藤には(6)輪笠がチェックに行きます。
ここで(41)田部井には(水戸ゴール方向)左側から安藤に回り、安藤を挟む、または左足で(14)小原基樹へのパスコースを消すなどの選択があったかと思いますが、安藤の右側から追ってしまったため、(6)輪笠と重なってしまいました。
この対応により(16)河野諒祐は、(9)安藤の縦突破と(14)小原へのパスの両方に備える必要が生じ、結果的に(14)小原への対応が遅れることになります。カバーに入った(5)柳育崇も間に合わず、最終的にはPA内に侵入した(9)安藤のフィニッシュを許してしまいました。
(41)田部井がサイドでのプレーに慣れていないと感じさせる場面でした。実は前半の21分にも、これは右利きでないがために水戸の左サイドへ展開するパスコースを(積極的に)消せに行けなかったのかな?と感じさせるシーンがありました。
50分水戸の同点ゴールは(16)河野のミスではありますが、これも岡山右サイドを崩されての失点です。水戸の左サイドは(3)大崎を中心に強みではありますが、その後も岡山は(16)河野と(41)田部井の右サイドを崩され続けます。
推測に過ぎませんが、水戸は試合中のスカウティングにより後半、岡山の右サイドを徹底して攻めていたのかもしれません。
失点に繋がったミスをしてしまった(16)河野ですが、17分にはゴール前で水戸の決定機を阻止しましたし、何と言っても先制点に繋がったクロスは見事でした。次の試合で頑張ってほしいです!
(2)可変の目的とは?~岡山の先制点
ここまでの話の流れでは、後半水戸に崩され続けていた右サイドに岡山はいかなる手当てをしたのか?という話なのですが…。先に良かった点に触れたいと思います。41分、岡山先制点のシーンです。
第3節にして、岡山サポにはお馴染みとなった感があります(43)鈴木喜丈のポジションを移動した場面でした。
筆者は可変システムを採用する意義は、通常の配置よりも攻守においてパワーを増やせることだと考えています。そういう意味でも鈴木の動きはとても効果的でした。
いつのまにかピッチ右にいる訳ですが、基本的に中盤まで上がった時はダブルボランチのように(6)輪笠の動きに連動して動いています。
このシーンでは(6)輪笠が左から右に動きましたので(43)鈴木もそれに合わせて動いています。
(43)鈴木がパスを出すシーンの前に(16)河野がいったんドリブルで縦に仕掛けて(6)輪笠に戻しています。この戻しに反応した水戸の中盤の選手の動きの逆を突くようなダイレクトパスでしたね。
受け手の(9)ハンもしっかり止めることが出来ましたが、水戸の(3)大崎は(41)田部井が視野に入っていたので、(9)ハンにプレッシャーをかけられず、(16)河野をケアすることも出来ず、中途半端なポジションを取ってしまいました。
この(41)田部井を余らせたことが(43)鈴木の可変の効果ともいえます。
そしてこのシーンはゴール前でも数的優位を作れていた点が良かったです。
ここは(8)「ムークの献身」が活きました。この試合では比較的、守備的な働きが多かったのですが、仮に自身のゴールにならなくてもおとりになってくれる積極性に感謝です。
水戸(5)楠本卓海に完全に勝った(18)櫻川の打点の高さにもびっくりしましたが、何と言っても(19)木村太哉にアノ山形戦以来のゴールが生まれたことが嬉しいです。清水戦では鋭くゴールに迫ったものの、ゴール前での選択に課題を残していましたので、この結果を自信にしてほしいものです。
(3)選手交代で立て直す
さて、水戸に右サイドを中心に攻略されていた岡山でしたが、徐々に陣形が広がり始めます。
昨季もそうでしたが、(5)柳、(23)ヨルディ・バイスの2CBは押し込まれると後ろで受ける意識が強くなります。よって最終ラインは徐々に後方へ下がるのですが、前線の(9)ハンと(18)櫻川は前で起点を作る意識が強いのか最終ラインとの間に広いスペースが出来てしまいました。
このスペースを埋めるのに(6)輪笠や(8)ムークは奔走、勝ち越し点を与えるのは時間の問題かと思われました。
昨季からの課題なのですが、岡山は想定外の失点をすると各選手の意識がばらばらになってしまう傾向があります。
「ばらばら」というのは諦めるとか投げやりとかいう意味ではなく、「俺が何とかしよう」と各選手が思い思いのプレーに走ってしまうという事です。プレーオフの山形戦が典型的な例です。
この状況に木山監督は選手交代で手当てを施します。
64分に(16)河野に代え(15)本山遥、(41)田部井に代え(2)高木友也を投入。(2)高木を左CHに入れ、左の(19)木村を右に回します。
右サイドに劣勢を跳ね返すパワーを加え、更に70分に(8)ムークに代え(44)仙波大志を投入します。
この仙波の働きが素晴らしかったと思います。
72分に水戸陣内左で(44)仙波がボールを保持しますが、ここで時間を作っている間に最終ラインを上げることに成功します。再び息を吹き返した岡山は78分に左で作って右に展開、精度は欠きましたが(19)木村のクロスに繋げます。
この試合では頼みのセットプレーもなかなか獲得できず、劣勢を盛り返す方法を見い出せなかった岡山でしたが、この場面では守備の穴を埋めて、時間をつくるという論理的な修正ができたのではないでしょうか?
しかし、上記の「攻勢・守勢分布図」でお示ししました55分~70分の守勢に立たされた時間帯の対処としては、もっと全体が引いてコンパクトなブロックを作っても良かったのではないかとも思うのです。
なぜなら(9)ハンがいますので、彼に預ければドリブルで相手陣内へ飛び出してくれますし、相手を引きつけながら時間もつくってくれます。
今の岡山のサッカーは嵌った時は、ものすごく強いし面白いのですが、意外にも状況に応じて柔軟に戦うことが苦手なのかなと筆者は感じています。
一方の水戸はとても柔軟に戦っていたと思います。ボールをしっかり握ってくる一方で、66分のように岡山最終ラインが中に絞っているとみるや、右サイドにロングボールを送り込み、交代したばかりの(38)唐山翔自をスペースに走らせ、フィニッシュに繋げる。
相手の陣形と味方のフレッシュな選手を活かすアイデア、非常に柔軟性があったと思います。あとはラストパスとフィニッシュの精度なのでしょうね。
3.ファジアーノ岡山という難解なパズル
今季の岡山の選手は、それぞれがストロングポイントを持っており、木山監督も選手の特性が最大限に生きる戦術、戦法を模索してきました。
まだ3節を終えたばかりですが(43)鈴木の起用法はまさにその代表例になりそうな雰囲気があります。
一方でとても属人的な戦法ともいえます。
ストロングポイントの裏側で明確な弱点を抱えている選手も多いのです。この試合では右SBとしての(16)河野の守備や(41)田部井の守備のスピードや強度といえます。
だからこそ、選手の「組み合わせ」が非常に難しいのです。
DAZN解説の佐藤勇人さんも「組み合わせ」について言及していました。
今回のレビューは(41)田部井の話が多くなってしまいましたが、この試合を観る限りは、彼は中央で使うべきなのかなと思いました。
サイドに関してはSBとCHの組み合わせで攻守のバランスは考慮しないといけません。
右であれば(16)河野のキックの精度は捨て難いですから、仮に(14)田中の復帰に時間が掛かるのでしたら(19)木村との組み合わせがベストだと思います。
Twitterのつぶやきに(15)本山を右SB、(16)河野を右CHという案もあり、筆者は面白いと思ったのですが、おそらくキャンプでは試していない…。
トップ下は頭から(44)仙波を起用するのでしたら(8)ムークの献身をどうカバーするのか…。
両CBにアクシデントがあった場合、カバーは(4)濱田水輝の一択なのか?
(43)鈴木をCBに入れた時に可変はどうなるのか?
(43)鈴木を最初からボランチで使う手はないのか?
考え始めましたらキリがない…。
なかなか難解なパズルなのです。
まとめのようになってしまいましたが、第3節を終えた段階で3連勝は大分のみ。逆に3連敗も金沢のみと、毎年言っているような気がしますが、「例年以上の混戦J2です」。
優勝を期待する以上、サポーターの目も厳しくなりそうですが、今のうちに課題を潰してほしいです。
次はホーム、勝ちましょう。決して気負うなよ!ファジアーノ岡山!
お読みいただきありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。
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