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【ファジサポ日誌】118.揚力~第23節 ファジアーノ岡山 vs ベガルタ仙台 マッチレビュー~
待望の晴天下、いや晴天を越えて炎天下でのホームゲーム。
まるで梅雨が明けたかのような真夏の陽射しが降り注ぐ。
それでもこの日を待ち焦がれたようにCスタには15,269人、収容率にして99%の観衆が集まった。
特製Tシャツが配布され、ゲストのハラミちゃんのピアノに酔いしれる。
しかし、それだけが観衆を集めた要因でもないと思った。
試合前のスタジアムの様子をみていると、サポーターから誘われて来場という様子の方も窺える。
今シーズンのここまでの成績が誘いやすさに繋がっていることは間違いないと思うが、それだけではなく、ファジが長年をかけて築き上げてきた「お誘い文化」の効果がここにある。
そして子どもが楽しんでいる様子が目立った。
筆者には子どもがいないので、明確なことは分かりかねるが、岡山県には全体的に子どもが楽しめる施設やイベントが他府県と比べて質量共に十分ではないように感じる。
ファジのホームゲームは子どもの遊び場としても貴重な場であることを感じる。
更に余談だが、夏祭りにしても「うらじゃ」は立派な岡山名物として定着しているが、やはり大人が楽しむイベントとの印象も個人的には持っている。
筆者が子どもの頃味わった懐かしい夏祭りの風情、空気が、このスタジアムには残っている。おそらく木村オーナーが目指されていた「お祭り」は確実にこのスタジアムの一部になっている。
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そして7月6日は6年前に西日本豪雨が発生した日である。その1年後の2019シーズンの7月6日、ホーム鹿児島戦は中野誠也のボールへの執念から生まれたPKと、上田康太の劇的FK弾によりファジは勝利を収めた。
あの日を忘れないためにも勝利をという真剣な渇望もこの試合にはあったと思う。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
岡山は過去の満員(完売)ゲームでは、あまり好結果を残せていないのですが、今節はプレーオフ圏内を争う仙台を相手に内容的にもほぼ完勝を収めることが出来ました。
選手たちのプレーからは、前節清水戦で表現できなかった相手コートでの戦いを徹底しようとする強い意思を感じられました。
この点は、前節試合後の木山監督のコメントからも読み取れるように、選手個々がもっと強くなるよう真摯に練習に取り組んだ証ではなかったかと推察します。
僅か1週間で再び結果を残してくれたことは一サポーターとして誇りに感じます。
この結果により順位は4位に上昇。前節の戦いぶりと比較しましても、上位3チーム(長崎、横浜FC、清水)との実力差は勝点どおり(9差)認めざるを得ないものの、プレーオフ圏内を争うチームの中では、現状では上位の実力は持っていると証明できた戦いであったと思います。
一方で、このゲームには前述しましたように清水戦での敗戦を糧にした岡山の勢いと、戦術的試行の要素もみてとれた仙台との差の部分も筆者は感じており、完勝に酔いしれそうな雰囲気をあえて引き締めてみる視点も必要と思いました。
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続きましてメンバーです。
前節に続きLWB(17)末吉塁、そして今節は不動のCH(24)藤田息吹も欠場しました。試合前の木山監督のインタビューによりますと、2人ともコンディション不良とのことです。
夏のウィンドウが開く時季ということもあり、他チーム移籍への不安などもなくはないのですが、この2人に関しては、2人ともスタジアムに姿を現していたことや木山監督との関係性を踏まえましても、今夏での移籍はないのではないかと筆者は予想しています。
岡山としては今シーズンここまでの立役者といえる2人が同時に欠場する事態となり、チーム力が問われる一戦となりました。
(17)末吉不在のLWBには(42)高橋諒が復帰、今シーズン初スタメンを飾ります。そして、CHには順当に(6)輪笠祐士が入りました。
CBも前節の(5)柳育崇に代わり、(18)田上大地が5試合ぶりにスタメン復帰を果たしました。
仙台は最近6戦負けなしと好調でしたが、メンバーに若干の変更が加えられました。LSBに(20)知念哲矢、そしてCHの一角に(17)工藤蒼生が入ります。(20)知念は本来CBの選手です。その起用の意図にも注目していました。
2.レビュー
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岡山としては、20分少々でCF(99)ルカオが負傷退場した点は痛かったものの、交代出場の(39)早川隼平ら3トップのファーストディフェンスが嵌り、試合全体を優勢に運びます。2戦連続で前半に得点を奪えた点はチームとしての前進といえ、後半は余裕を持ちながら追加点をねらい、そのとおりゴールを奪うことが出来ました。終盤も岡山が攻撃の手を緩めないことで仙台に反撃らしい反撃を許しませんでした。
(1)両チームのねらい
お互いに蹴り合いながら、慎重に出方をみる序盤でした。そんな中で中盤のセカンドボール争いで岡山が優位に立ち始めた8分過ぎに、この試合の最初のポイントがあったように見えました。8分16秒からの場面です。
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(99)ルカオがファールを受け、岡山が自陣からFKで再開、仙台陣内に押し込むシーンです、
LWB(42)高橋がLST(19)岩渕弘人とのパス交換で左サイドを突破しようと試みましたが、仙台がサイドで奪います。
奪ったボールを引き取ったCH(6)松井蓮之は左サイド前方に張っているRSH(27)オナイウ情慈にグラウンダーのパスを通して(青実線)、(27)オナイウがドリブルで前進を試みる(青波線)ものの、自陣内で岡山LCB(43)鈴木喜丈に奪われて、最終的に(42)高橋のシュートに至ったシーンです。
前回の仙台の対戦のイメージであれば、この場面で仙台は岡山の裏(青点線)、もしくは岡山のLCBの横のスペースに向けて浮き球を蹴り、そこに(27)オナイウを走らせていたと思います。(6)松井の技術であればそうしたボールを蹴ることも可能であったと考えます。
それを敢えて自陣から繋いでいたのが、現在の仙台の試みであり、それがまだ上手くいかない分、岡山が仙台陣内でのボールの再奪取に成功していたという側面はあったと考えます。
仙台は前回対戦段階から、スペース、裏を狙ったロングボールに味方を走らすだけではなく、夏場対策として後方からのビルドアップも模索していると中継内でも伝えられていました。それが今回の対戦では明確化されていたように筆者にはみえました。
仙台がこうした場面で繋ぐことを選択していた理由には、岡山のLSBに(43)鈴木が復帰していたことも影響していたと思います。前回対戦時に岡山はこのポジションに(5)柳(育)を起用しており、彼の難点である後方へのスピード不足を突こうというねらいもあったかと思います。
仙台のビルドアップの未完成ぶりが岡山が仙台陣内でサッカーを続けられた大きな要因のひとつとして述べていますが、大前提として岡山の前線からのプレスが素晴らしかった点は見逃せません。
これは先にも述べましたように、間違いなくチームの清水戦からの反省、反抗心によるものと考えますが、24分に(99)ルカオが負傷退場、交代でRSHに(39)早川隼平が入り、(19)岩渕をCFに回す3トップになって、岡山のハイプレスはそれまで以上に鋭さを増すようになりました。
(19)岩渕がCFに入った直後に、仙台CB(5)菅田真啓のボールコントロールが乱れたところへチャージしたプレーは、まさに宣戦布告そのもので、岡山サポとしては倒れている(19)岩渕にヒヤリとしたものの、同時にこのプレーは仙台守備陣に強いプレッシャーをかける効果があったのかもしれません。
先に(99)ルカオについて触れますが、負傷の程度は検査をしないとわからないと木山監督も試合後に述べていましたが、さすっている部分から右膝の可能性もあるようにも思え、一定期間の離脱は覚悟しておいた方がよいようにも思えます。
FW(9)グレイソン離脱後の頑張りは目を見張るものがあり、左右(特に右)に流れる(9)グレイソンとは異なるプレー特性を全面に出しながら、岡山3トップの強度、スピードを維持した点は特筆に値すると思います。
この試合に関してはピッチ上の全員が圧倒的フィジカルを誇る(99)ルカオがいなくなったことで、今までよりも攻撃に主体性を出していたように見えましたが、彼も欠かせない戦力です。早期復帰を願うばかりです。
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久々の登場となった分、イージーなミスも散見されたが、
全体的には攻守に精度が高いプレーを見せた。
さて、岡山3トップのプレスは闇雲ではなく一定のねらいを持って実行されていたように見えました。
仙台は保持時に(6)松井が下りて3バック化し、両SBが高い位置をとっていたのですが、まずこの有力な配球元である(6)松井に強いプレッシャーを与え続けることを優先しているようにみえました。そして(6)松井から両CBに戻され、CB間でボール回しが始まると、3トップのうちの1人が一列上がりプレスするという関係性です。
(6)松井は間違いなく技術の高い選手なのですが、この岡山前線3枚、そしてそれを突破しても待ち構えている岡山の両CHのプレスに前半から苦労している様子が伝わってきました。何とか岡山のプレスを剥がしてもパスがズレてしまいます。そこを岡山にカットされ、再び岡山の展開になるという展開が繰り返し続いていた時間帯もあったと思います。
(6)松井が昨シーズン町田に在籍していたことを踏まえると、前方スペースへの配球は慣れているのかもしれませんが、ビルドアップのパスに関しては、もう少し慣れる期間が必要なのかもしれません。
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岡山は終始彼を自由にさせなかった。
仙台の中盤以下がビルドアップを模索している一方で、前半の仙台の前線(2トップ、2SH)は岡山最終ラインに合わせて、前線に張っている場面が目立っていたように感じました。
本来であればCF(7)中島元彦やCF(11)郷家友太が図の赤いスペースへ下りて受ける動きをしそうなのですが、前半に関してはその動きは、(7)中島のフィニッシュに至ったAT以外ではそれ程目立たなかったように見えました。
一方で、岡山のラインブレイクを常に狙っている雰囲気はあり、岡山の非保持時最終ライン5枚に対して少しでも多い人数(4枚)で対抗しようとする意図はあったと思います。
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(18)田上が高いラインをキープしていることがわかる。
この仮説が正しければ、仙台はもう少し最終ラインを上げ、縦にコンパクトな陣形を設定したかったのかもしれませんが、岡山の前線3枚プラスCH2枚の積極的かつ連動したプレスにより、ラインを想定以上に下げられてしまい、最終ラインと前線が分断されてしまったという事なのかもしれません。
一方で岡山は、スタメン復帰したCB(18)田上が自陣深くでボールを持つとボランチとのパス交換や自らの持ち運びを交えながら高いラインを設定、簡単に後方へ戻すのではなく、サイドなり中央なりにパスを差すことが出来ていました。この強気なラインコントロールにより、岡山の陣形はコンパクトになり、2サイドCBも前に出ていくプレスの連動性を生み出し、3トップのプレスバックをも引き出していたといえます。
千葉戦での退場以降、天皇杯愛媛戦も含めて精彩を欠くプレーが続いていた(18)田上でしたが、2点目のゴールを正当なフィジカルコンタクトによって奪った点も含めて、満点のパフォーマンスを魅せてくれました。
心身共に休養(スタメンで出ないという意味で)の効果は十分であったといえます。彼の場合は今後も(5)柳(育)と併用しながら、良いコンディションを維持し続けることが活躍の条件となりそうです。
(2)生命線の両翼
さて、仙台LSBにCBタイプの(20)知念を起用した理由について考えてみたいのですが、まず岡山RWB(88)柳貴博のフィジカルに対抗したいという意図はあったと思います。
また(20)知念は琉球在籍時代から、そのビルドアップ能力に定評がありました。やはり仙台がこの試合で後方からのビルドアップを模索したことによる起用であったと考えられます。
その知念は、岡山が非保持時に(88)柳(貴)が最終ラインに戻っても、自身はそこまで高い位置を取ろうとはしていなかったように思えます。
おそらく後方でフリーになることで、ボールの逃し先になり、得意のフィードで前線に繋げるねらいがあったように見えました。
実際に何度か対角線のフィードにトライしていましたが、精度を欠いてしまい、攻撃面での効果性は薄かったと思います。
(88)柳(貴)にとっても(20)知念があまり高い位置を取らなかったことは好都合で、彼が高い位置を取らなかったことで最終ラインからプレスする際にLSH(14)相良竜之介にプレスの的を絞れた点は、岡山の守備全体においても大きな影響を与えていたと考えます。これが例えばこれまでの清水戦ではRSB、RSHのいずれにいくのか?という点で迷いが生じていましたから大きな違いといえるのです。
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スピードとフィジカルの両方で優位に立つ。
また(88)柳(貴)の最終ラインと前線高めのポジションの往来もスムーズでしたが、これは岡山がゲームメイクを主に左で行えたことが大きかったといえます。つまり、自ら持ち運ぶ必要がないので、ポジション移動や攻撃局面での決定的な仕事に集中できるのです。
この試合で(19)岩渕の先制点のシーンも含めて(88)柳(貴)に多くの決定機が訪れた理由であるといえます。清水戦ではセットプレー絡みから決定機を2度とも外してしまった(88)柳(貴)でしたが、その得点嗅覚は今研ぎ澄まされている状態ともいえます。
左でつくって、右で決定機を迎える。岡山好調時の形が戻ってきているといえます。
もちろん、それには左でつくることが重要であり、この試合では右足を使える(42)高橋を起用できた点が大きかったと思います。
前節はレフティの(55)藤井葉大を起用しましたが、その経験の差を除いても、サイドの局面を突破する際にワンレーン内を使いながらパス交換、突破するには、ウィングが右利きの方がよく、それが今シーズン右利きの(17)末吉を左で起用している理由のひとつと考えています。
左サイドで右利きのウィングを使う意義を踏まえますと、いわきから(23)嵯峨理久が加入した効果は大きいものと思われ、これまで述べてきた流れから、筆者は左サイドでの起用も有り得るのではないかと予想しています。
仙台が左の(20)知念を下げ気味、前半はその分RSB(2)髙田涼太に高い位置でポイントをつくらせようとしていた分、(42)高橋、(43)鈴木のコンビネーション、そして(99)ルカオ交代以降に右に回ったRST(10)田中雄大の連携により左サイドを制圧した点はまさに直接的な勝因であったといえます。
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左に移ってからは仙台右サイドの起点を悉く潰していた。
(3)選手交代からみえたもの
前半先行された仙台は、後半開始から(27)オナイウに代えてCF(98)エロン、そして(22)小出に代えてRSB(25)真瀬拓海を投入してきます。前半と戦い方は変えず、前線と右サイドに強いポイントをつくりたいという意図が伝わってきました。
やはり、仙台はこの試合に強いテーマ性を持って臨んでいたことが伝わってきます。
しかし、この(98)エロンがそれなりに良い場面を迎えるものの、ワンプレーごとに若干精度を欠いている印象は拭えませんでした。
また、RSBからRCBに回った(2)髙田も不安定なプレーに終始、岡山のプレスのポイントになってしまっていました。
しかし、この(98)エロンのポジションに山口から移籍加入した梅木翼が入り、(2)髙田のポジションに横浜F・Mから新加入の實藤友紀が入った仙台を想像すると、攻守両面に今後精度が上がってくることは予想され、却って仙台は侮れないとの思いを強くするのでした。
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何が何でも相手のシュート、クロスを自由に撃たせない。
今シーズンの岡山のコンセプトである。
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彼へのプレスは終始徹底していた。
仙台は69分ついに切り札LCH(24)名願斗哉を投入します。
相変わらずのキレ味を魅せる(24)名願でしたが、岡山は79分に対面の(88)柳(貴)に代えてCB(5)柳(育)を投入、RCBに入れて(4)阿部海大をRWBに出して(24)名願を封じます。
(4)阿部の状態の良さを踏まえたこの木山監督の交代策は見事であったといえます。(4)阿部海大についても書き切れないぐらい、良いプレーがあったのですが、この点はまたいずれ述べたいと思います。
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今シーズンは駆け引きが上手くなったと思う。
3.まとめ
ということで、仙台戦を振り返りました。
現時点では岡山の力量を示せた一戦であり、その点は自信を持ってよいと思ったのですが、仙台は先を見据えて新たな戦術の浸透過程にあるといった印象を持ちましたし、現在の順位でまだ伸びしろを残している点は脅威です。仙台と比べ蒸し暑い岡山のコンディションも彼らの体の動きを重くしていたように思えました。
よって、対仙台という観点では岡山もまだまだ油断できないと感じています。そして、岡山の生命線はやはりWBであると感じた一戦でもありました。両翼それぞれに役割は異なるようですが、この両翼の揚力を高く維持し続けることが、この先の雉の飛翔に繋がることは間違いないようです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
※敬称略
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藤田が「点を打つ人」なら
輪笠は「線を引く人」と表現する
中盤にスペースが出来たことから、
彼の運ぶ能力が存分に活かされた。
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【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。