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【ファジサポ日誌】63.紙一重の若さ~第26節ファジアーノ岡山vsV・ファーレン長崎
人間が浴びることができる紫外線の量にも限界があるのであれば、当にその許容量は超えているのではないか?と思わせるような、強い夏の陽射しが照りつける中で行われたホームゲーム。
屋根が有っても無くても西日は射し込むのかもしれませんが、スタンドの一部でも屋根で覆うことが出来れば、サポーターも避難できます。
試合開始2時間前のバックスタンドでは、スタッフさんがバックスタンドに長時間いると危険なので外に出るように勧めていました。
とはいえ、スタジアムの外も暑さは一緒。こんな時にスタジアムの中にフリースペースがあればなどと、無いモノねだりもしてしまいます。
筆者が若い頃よりも暑さは気温、質ともに厳しいものへと変化しています。
老若男女を問わず、いずれこの暑さは人間の許容量を超えます。
やはり、近い将来、サポーターの安全な観戦環境確保という観点からも新スタジアムは必要と確信しました。
決して大袈裟ではなく、選手への健康被害も心配される中、この試合はそんな酷暑をもろともしない若者の躍動と、同時に悪い意味での「若さ」も出た試合となりました。振り返ります。
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1.試合結果&スタートメンバー
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前節のレビューで、岡山の逆転プレーオフ圏内入りの条件を踏まえた上で、この長崎戦は岡山にとって6ポイントマッチであり2-0での勝利が理想と述べました。
守備が堅い長崎相手に前半から攻勢であった岡山は、前半の内に先制に成功。ゲームコントロールを上手く行えば、2-0で勝利できる要素は十分にあったのですが、またしても自らのミスによりすぐにリードを吐き出し、逆転まで許してしまいます。
難しい精神状況と思われる中、チームは後半も前向きに戦い同点としましたが、再びの勝ち越しを目指す中で攻撃細部の粗が出てしまった。
総合的にはこんな試合であったと思います。
ドローという結果について、筆者の計算上では最低限必要な結果と捉えています。しかし、6位との勝点7の差を縮めることは出来ず、今後が苦しくなったこともまた事実です。
これまでのレビューでも述べてきましたが、最近何節かのファジアーノ岡山はボール運びに進境をみせており、この点については、この試合でも期待どおりに再現性の高い内容をみせてくれました。
完璧ではないにせよ、ビルドアップは安定していますので、今回のレビューではこの点を省いた論点に絞ってみたいと思います。
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メンバーです。
岡山はおそらく想定どおりの4-4-2、攻撃時は(16)河野諒祐を前に上げる3-5-2です。おそらくこのスタメンが木山監督が考える現状のベストメンバーといえます。
長崎もフォーメーションはいつもどおりですが、RSB(8)増山朝陽は攻撃時に予め高いポジションをとります。守備時には早めに4-4-2のブロックを敷いてきます。
(9)ファンマ・デルガドが累積警告8枚目による出場停止2試合目ということで欠場。CFには(27)都倉賢ではなく、加入したばかりの長身FW(195cm)20歳の(32)ジョップ・セリンサリウが入ります。
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予測の良さを感じさせる丁寧なプレーぶりが光った(32)ジョップ。「柔」のストライカーというイメージ。
2.レビュー
(1)成長をみせた佐野航大のフィニッシュワーク
当レビューで度々採り上げていましたLSHでの(22)佐野航大のプレーについて、この試合ではその成長ぶりをみることが出来ました。
(22)佐野のLSHでのプレーの課題(攻撃面)は2点あると考えていました。ひとつはプレーの選択肢の大半が切り返しになること、そしてボックス手前でプレースピードが落ちることです。
この傾向は実は昨シーズン終盤から続いています。
アタッキングサードで(22)佐野が相手複数人に囲まれて、ボールをロストするというシーン、おそらく多くの方が見てきたと思います。
この試合での(22)佐野はボックス手前で(48)坂本一彩や(44)仙波大志らの手厚いサポートを受けながら、プレースピードを緩めることなくフィニッシュに至ります。惜しくも長崎GK(21)波多野豪にセーブされましたが、8分のシュートに至った場面は代表的でした。
おそらく守備ブロックが整うと長崎は堅いので、チームとしてそれが整う前に速い攻撃を仕掛ける意図があったように思います。そして長崎(8)増山の裏を狙うとのプランがあったのかもしれません。(22)佐野がいるピッチ左側に意図的にボールを集めていたように見えました。
そして先制点は佐野の課題のひとつであった縦への突破、利き足ではない左足からのクロスから生まれました。
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ごちゃごちゃした図で恐縮ですが、岡山の先制ゴールのシーンです。
(23)ヨルディ・バイスが(32)ジョップの守備対応の甘さを突いて、自らボックス脇まで持ち上がってきました。
長崎は一見既に守備ブロックが完成しているように見えますが、RSB(8)増山が高い位置から戻っている分、ボックス内左脇にスペースが出来ています。
この得点場面は(48)坂本一彩がフリーでシュートを撃てた理由も注目なのですが、(23)バイスから(22)佐野へ戻した際に長崎の守備ブロック全体がボールに寄せられて少し広がっているのです。
この若干の陣形変化により長崎最終ラインと第2列の間にスペースが出来て(48)坂本がポジションを取り直しています。
長崎の最終ライン(25)櫛引一紀や(23)米田隼也は(22)佐野の切り返しからのシュートと(18)櫻川ソロモンを警戒、この一連の動きにより(48)坂本のプレースペースが更にに広がっていきます。
(22)佐野がボールを持った時に(44)仙波大志はボックス左奥のスペースに反応しており、もしここに(22)佐野が浮き球のパスを出していれば、天皇杯で湘南がみせたような攻撃になるなと思いながら見ていましたが、(22)佐野の選択肢は縦へのドリブルでした。
切り返しからのシュートコースが無かったからだとは思いますが、そこで更に時間をかけて切り返すのではなく、躊躇なく縦を選択した点に(22)佐野の成長をみました。
(44)仙波とのワンツーで自らボックス脇のスペースを突きます。(8)増山がついてきますが、しっかり股抜きを狙いました。
このクロスもこれまでは、ゴールラインと並行した力の無い球が多かったのですが、しっかりしたマイナスのクロスを蹴ることが出来た点も素晴らしかったです。同じシチュエーションをいつも見ていることもあり、(22)佐野のプレーの向上を目の当たりにすることが出来ました。
長崎CB(4)ヴァウドはここで本来(48)坂本をマークすべきなのですが、クロスがゴールラインと並行にくると予想、ニアでクリアするポジションを取ります。この動きにより、先ほどの一連の流れと併せて(48)坂本が完全なフリーになったのです。
ゴール後、長崎(21)波多野と(4)ヴァウドが若干言い合っていたのは、おそらくこの対応についてです。(21)波多野としてはゴールラインと並行に入るクロスは自身で対応できるので(4)ヴァウドにはマイナスのクロス、(48)坂本に対応してほしかったのでしょう。
この得点からは強固な長崎の守備ブロックの綻びをチームとして突けたという収穫、そして(22)佐野の判断、技術の向上を見ることが出来ました。
U-20日本代表コンビの相性の良さもありますが、それだけではなかったと思います。
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前のお客さんの団扇が入るのも喜びの証拠
(2)流れが変わったプレー
序盤からチームのねらいを出せ、かつ良い時間に良い形で得点できたことから、岡山がこの6ポイントマッチを複数得点により勝利する可能性が高まったと筆者は感じました。しかし、そんな良い流れを持続できないのも今シーズンの岡山の傾向です。
40分の失点のきっかけとなったプレー、実は得点直後の38分(22)佐野のボールロストにあったと筆者は考えます。
中盤左サイドでボールを持った(22)佐野の周囲には(18)櫻川、(44)仙波、(41)田部井涼、(48)坂本と多くのパスの選択肢があったのですが、なぜか自身でボールを持ち続けてロスト、長崎ボールになってしまいました。ここから長崎にスローインで押し込まれ、長崎のリズムになったことが、その後の(44)仙波のパスミスよりも、試合全体の流れを変えたという意味では大きかったと筆者は考えます。
前半の(22)佐野は、その表情から非常に気持ちよくプレーしていたように見えました。失礼な表現になるかもしれませんが、相手を楽しそうに追い抜く少年のような躍動感が、自身で相手を追い抜きたい、剥がしたいとの欲求がこのボールロストに繋がってしまったのかもしれません。
しかし、この時間は何としてでも岡山はボールを保持し、試合を落ち着けるべき時間帯でした。2点目を獲りにいく姿勢そのものは必要ですが、時間はたっぷりあります。慌てて敵陣にリスクを冒して侵入する場面ではなかったのです。
先制点から失点まで、わずか数分の間に(22)佐野の「若さ」の表裏両面が出てしまったといえます。
こんな場面で、今の岡山にはピッチ内での「叱り役」がいないような気がします。それがパターンが違えども、今シーズン軽率な失点を繰り返す理由のひとつなのかもしれません。
キャプテン(5)柳育崇や、この試合では不在でしたがベテラン(27)河井陽介は「背中で語る」タイプに見えますし、闘将(23)ヨルディ・バイスは案外ピッチ内では味方に対して感情を昂らせることはあまりありません。
筆者はピッチ内での選手の振る舞いしか見ていませんので、分からない面もありますが、(5)柳が中盤、前線の若手たちとコミュニケーションをとっている姿をあまり見かけないのです。キャプテンなので、ピッチ内でもう少し様々な要求を行っても良いとも思えるのですが、どこか目に見えない壁のようなもの、これは筆者の思い込みかもしれませんが感じてしまうのです。
しかし、この失点に対して「怒る」「叱る」という感情表現は、その対象がチーム全体、特定の選手の何れであっても必要であったと筆者は思いました。「若さ」は魅力でありますが、「未熟さ」とも紙一重です。
この「未熟さ」を叱れる存在、ひょっとしたら中盤~前線の若手衆よりもちょっと上の「叱れるお兄さん」的存在が今の岡山には必要なのかもしれません。
精神論に逃げたくはありませんが、1失点目で気持ちを引き締めていれば、連続失点はなかったと思えます。
2失点目に関しては、長崎自陣からのスローインを(32)ジョップに簡単に触らせてしまった(16)河野の対応が良くはなかったと思いますが、彼だけではなく、セカンドボールへの寄せが甘かった(14)田中、長崎(19)澤田崇に対応した(23)バイス、(41)田部井など全員の対応が悪かったと思います。
失点の責任は広範であると思いますが、論点はシンプルであると考えます。
相手ボールホルダーに対して複数人で対応した時に獲りきる、止めきることがこの試合に限らず徹底できていないのです。
それにしても、2失点とも長崎のスローインが起点になっていた点は見逃せません。岡山も見習いたいものです。
(3)「岡山らしさ」を感じた同点弾
スタンドに広がった「またか」という空気、選手も難しい精神状況であったと思いますが、後半はよく巻き返してくれました。
試合開始時と変わらない酷暑の中、この後半、ずるずると後退しなかった選手のプレーぶりを見る限り、選手からJ1昇格を諦めていない雰囲気が伝わってきました。おそらくベンチも喝を入れたのだと思いますし、その喝に応えた選手たちの気力は認めたいところです。
特に前半に寄せの甘さから失点に絡んでしまった(41)田部井のプレーは見違えるように変化しました。ボールへの寄せもそうですし、ボールの受け手として顔を出す積極性、長崎ボールになった際に地味に自陣へのパスコースを消していた献身性、この巻き返しが身を結んだのが(14)田中の同点ゴールであったと思います。
この同点ゴールまで岡山は何度もPA内でのシュートを長崎に跳ね返されており、このゴールが生まれる前も(22)佐野のシュートが跳ね返されていました。
しかしこの跳ね返りのクリアを(43)鈴木喜丈がヘディングで粘り、(41)田部井が前へ突入、球際で勝ちながらシュート(クロス)、長崎(25)櫛引一紀の目の前に(14)田中がこれも積極的に飛び込んだことから生まれました。何度も長崎に跳ね返される中で、各選手よく腐らずに繋いだと思います。
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再開を急ぐ(48)坂本
有料記事ですので詳細は省きますが、「ファジゲート」で田部井が述べていました自身のねらいとするプレーがよく表現出来ていたと思います。
この粘り強さに少しばかり「岡山らしさ」を感じました。
3.まとめ
このまま、まとめに入ります。
こちらも有料記事ですが、残り試合の岡山のポイントについて重要なことが書かれていましたので貼っておきます。
どうやらチームとしてもこうした「岡山らしさ」を残り試合で求めていくようですし、最近サポーターの間でも球際で粘る、走り切る「岡山らしさ」の追究を求める声が高まっているように感じます。
しかし、筆者にはこうした「岡山らしさ」は既にチーム全員十分に表現してくれいるのではないかと思うのです。この長崎戦、(48)坂本や(41)田部井が極限まで走り足を攣らせ、同点ゴールを決めた(14)田中はベンチに退いた後も選手の給水のサポートを行っていました。途中出場の(19)木村太哉はいつもどおりサイドで球際を戦っていました。
誰もが「岡山らしさ」を表現してくれているのです。
今、岡山が抱えている課題は個人の泥臭い戦いをもっとチームとして共有、統一して戦うことにあります。例えば、同点後も長崎を押し込んでいましたが、アタッキングサードに侵入してからのパスの出し手、受け手の意図が噛み合わない点は今からでも良いので改善しなくてはなりません。
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周囲の選手との距離、パスの強弱
詰めるべき論点は盛りだくさんである。
何分かは忘れましたが、後半途中出場の(8)ステファン・ムークが前線にスルーパスを出しましたが、誰も反応できなかった場面がありました。当然だと思いました。それまでサイドばかりを使っているのですから、突然中央に出されてもという唐突な感じを受けました。今の岡山は各選手の感性で攻撃を司っている部分があるように思えます。その感性が合えば美しい攻撃に繋がるのですが、こうした競った場面、全員の矢印がゴールに向かうような場面では、たちまち選手同士の感性が合わなくなります。右サイドにみられるような守備の穴に目を瞑るには、多くの得点が必要です。その得点を増やすには、アタッキングゾーンへの侵入回数のみではなく、侵入後の細かい約束事、ルールをつくる必要があります。
この点はマネジメントの問題だと思います。木山監督の進化が問われます。
つまり、チームとして今やるべきことは「岡山らしさ」もさることながら、選手間のコミュニケーションの向上や細かい約束事の追究であると思うのです。
懐古主義的な「岡山らしさ」を今のチームに求めたくない。
筆者自身に問いかけて今回のレビューを終えます。
お読みいただきありがとうございました。
※敬称略
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ゴールへ執念を見せた
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今後は(41)田部井のキックに合わせる調整も必要
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【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。