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【ファジサポ日誌】48.殻を破る~第13節ファジアーノ岡山vsモンテディオ山形

約2ヶ月にわたる未勝利の苦しみから解放されたファジアーノ岡山。
G.W期間の連戦ということで、勝利の余韻に十分浸る間もなくやってきたホーム山形戦です。
山形と言えば、昨シーズンのプレーオフ1回戦で苦杯を舐めた相手、因縁の再試合の相手ですが、筆者個人の意識は昨シーズンのリベンジというよりも、苦労して勝利を掴んだ秋田戦の流れを手放したくないという点に傾いていました。
山形もピーター・クラモフスキー監督が解任され、渡邉晋HCが監督に昇格、最近2試合を1勝1分と調子を上げてきました。順位が低迷する状況で上向きな流れを手放したくなかったはずです。
お互いに勝利にこだわった一戦は、互いの持ち味が出る好ゲームになりました。

1.試合結果&スタートメンバー

岡山は今シーズン初の連勝をマーク、順位を7位に上げました。また2試合続けてのクリーンシートを達成。今シーズンの平均失点を1点未満(0.92)としました。
次節、首位町田との対戦を勢いをもって臨めるという点でも意義ある1勝といえます。

J2第13節 岡山vs山形 スタートメンバー

まずはこの試合の基本陣形をおさらいします。
岡山は秋田戦同様、中盤フラットな4-4-2です。
前節秋田戦でスタメンでした(27)河井陽介、(7)チアゴ・アウベスがベンチへ。代わって(44)仙波大志が(6)輪笠祐士とボランチを組み、(8)ステファン・ムークがFWとして先発しました。

山形は4-2-3-1ですが、前節ゴールを決めたRWG(42)イサカ・ゼインに代わり(24)横山塁、LWG(49)後藤優介に代わり(25)國分伸太郎、そしてLSBに(22)吉田泰授に代わり(41)小野雅史が入りました。
なお、昨シーズン9得点、今シーズンも2得点をマークしているFW(9)デラトーレは左大腿部の肉離れにより離脱した模様です。

実際に試合が始まりますとお互いに下図のような形にフォーメーションが変化していたと思います。

J2第13節 岡山vs山形 システムの変化

岡山の(8)ムークはこれまでの起用でもみられたように、純粋な2トップの一角ではなく、トップ下、または1.5列目のような位置をとります。
自陣に引いて守る時は中盤がフラットな4-4-2のコンパクトなブロックを敷いていました。
攻撃時にはRSB(16)河野諒祐が高い位置をとったり、LSB(43)鈴木喜丈が中盤の組み立てに参加しますので(8)ムークも含めて中盤に多くの枚数を割くことになりますが、これには理由があったと思います。

山形は攻撃時にLSB(41)小野を高い位置に上げ、3-3-3-1のような可変システムを採用していました。つまり中盤より前の枚数が多くなりますので、岡山としても中盤に枚数を同じようにかけ、ミドルゾーンで優勢に立ちたいという意図があったのではないでしょうか?

ということは、この試合における岡山のボールの奪い所は中盤、いわゆるミドルゾーンにあったのか?こうした点にも注目してみました。

2.レビュー

J2第13節 岡山vs山形 時間帯別攻勢守勢分布図(筆者の見解)

試合全体を通してみますと、終盤はリードした岡山が守りに入った(ボールを運べなくなった)時間帯が続いていますが、それ以外の時間については攻守が目まぐるしく入れ代わる時間も含めてお互いに決定機をつくっていたと思います。書き出しで「好ゲーム」であったと述べましたのは、お互いに攻撃を完結させていたからです。

(1)新体制山形の変化について

まずは対戦相手の山形の変化について、この試合では触れないといけないと思います。とはいえ、外野(他サポ)からみた雑感に止まるのですが、クラモフスキー監督の頃はGKも含めた最終ラインからのビルドアップを徹底していました。この試合でもみられた山形の華麗なパスワークはこの戦術の徹底による賜物なのですが、上手くいかない時は後方でのパス回しに終始し前に運べない、また相手プレスに嵌められた時はリスクのあるバックパスを選択しなければならない、こうした弱点も抱えていたと思います。
1年前のアウェイ山形戦、競技規則の適用ミスにつながったバックパスはまさにその類いのものといえます。

渡邉監督が就任してからは最終ラインからのビルドアップという強みを残しながらも、相手プレスの枚数、ボールの受け手が消されているかどうかなど、状況に応じて、ゴールキック、ロングフィードなど柔軟にボールの運び方を選択しているように見えます。
3-3-3-1への可変には、縦へのボールの受け手を増やす、サイドにボールの逃げ道をつくるという目的もあったように見えました。

このクラブに関しては、アウェイゲームが続く春先にいかに勝ち点を稼ぐかが課題なのではないかと感じています。戦術については何も言うことはないと思います。今シーズンも見事なパスサッカーを展開すると思いますが、中盤に山口から田中涉が加わり、今シーズンはダイナミックなキックからチャンスを作るシーンも見られそうです。
しかし、ディサロ燦シルヴァーノの清水復帰、半田陸、山崎浩介のJ1個人昇格の穴は大きいと感じました。前線はデラトーレ、チアゴアウベスの決定力向上が求められます。

【ファジサポ日誌】32. 2023 ポストコロナのJ2リーグJ1昇格圏予想 麓一茂

開幕前に投稿しました「昇格予想」記事の山形に関する部分です。
今年の山形は、リーグ開幕後も千葉でキャンプを張るなどの工夫により、J2在籍初となる開幕2連勝と上々の滑り出しを見せました。しかし、その後まさかの失速。北国のチームが春先を戦う難しさを改めて感じます。
裏を返しますと、これから巻き返すチャンスは十分にあると筆者はみています。余談ですが、話題の秋春制についてはその細部はさておき、東北のクラブにとってはハンデでしかありません。リーグ戦としてフェアではないと思います。

(2)岡山のボール奪取位置に注目

(1)を踏まえまして、山形のボール運びに対して岡山はどのようにボールを奪いにいったのか?この点について振り返ってみたいと思います。

ファジアーノ岡山 最近4試合における平均ボール奪取位置(データはDAZN中継より引用)

DAZNがハーフタイム中に提供しているスタッツの内、「平均ボール奪取位置」に関してまとめたものです。

この試合でも前半から(1)堀田大暉が好セーブを連発したこともあり、山形にかなり押し込まれている印象を持っていたのですが、前半全体でみますと、意外にも高い位置でボールを奪えていたのです。DT(ディフェンシブサード)でのボール奪取割合も印象ほどにはこの試合が特化した訳ではなく、最近3試合と同じぐらいであることがわかります。更に最近4試合ではボール奪取回数は最も多かったのです。

山形の決定力不足、そして(1)堀田に助けられた勝利であったことは間違いないのですが、実は岡山の守備のねらいも体現されていたのです。

(3)役割分担が整理された守備

それではこの試合で岡山の守備についてまとめてみたいと思います。

① 縦パスを入れさせない

山形の怖さは、縦に速いパスワークにあります。昨シーズンのプレーオフ1回戦、ディサロ燦シルヴァーノ(清水)の先制ゴールがわかりやすい例であると思いますし、この試合でも14分(21)田中渉のシュートなどボランチから縦パスが入ると決定機につながっていました。

山形に決定機はつくられていましたので完璧とはいえませんが、この試合の岡山は山形最終ラインからの縦パスを上手く制限できていました。
そのねらいは、試合開始早々にみてとれました。
2分のシーンです。

J2第13節 岡山vs山形 岡山ビルドアップのシーン

山形自陣からのビルドアップに対して、岡山が連動してプレスをかけることができました。
GK(16)長谷川洸からCB(5)野田裕喜へ。ここへ(14)田中雄大が猛然とチャージするのですが、(5)野田にプレッシャーをかけながら(41)小野へのパスコースを消します。ボランチの(18)南秀仁がボールを受けに下りますが、(8)ムークがしっかりついてきます。
もう一人のボランチ(8)小西雄大には(44)仙波がマーク、この状況からLWG(25)國分が下りますが、ここにボールをつけたところを岡山(6)輪笠と(16)河野が連携してボール奪取に成功します。
惜しくも(6)輪笠のファールとなりますが、ここでもし流れていれば、前線には(8)ムーク、(14)田中、(18)櫻川ソロモンもいますから、岡山のチャンスになっていた可能性は高かったといえます。

この試合の前半では、こうした山形のボランチを消すことで山形最終ラインからのパスコースを限定し、そこで上手くボールを奪うことが出来ていたと思います。まさに(8)ムークを櫻川の後ろで使う意図は、ボールを受けに下りてくる山形の選手に制限をかけることにあったのだと思います。
この(8)ムークの果たした役割は本当に大きく、上記のように山形のボランチを消すことで、岡山ボランチの内の1人を余らせる効果もありましたし、また(18)櫻川と2人で前線からのプレスにも加わっていました。

後半、木山監督が(8)ムークをなかなか代えられなかった理由には、この試合で彼が果たしていた役割の大きさも関係していたと思います。

こうした良い守備から良い攻撃に移行できたのが21分(8)ムークの決定機です。この場面はよくみますと、山形のボランチを消し切れてはいないのですが、これも(5)野田から(25)國分への縦パスをカットしたところが起点となっています。

上記のような場面を多くつくることができた、これがこの試合前半での岡山のボール奪取位置が高くなった要因といえます。

一度セットされた状態からの山形の球出しについては、連動してプレスできていた岡山ですが、やはり試合が流れている中でのプレスの連動性には課題を残しています。また時間の経過に伴って、パスで岡山陣内深くに運べなくなった山形が、岡山の高いラインの裏をとる場面も増えてきました。
34分山形CF(11)藤本佳希が(5)野田からのロングボールから岡山最終ラインの背後をとったシーンは代表的でした。

山形ボールを刈り取る輪笠
積極的に前線にも顔を出した

② 凄みを増す守護神堀田
この34分のシーンは(11)藤本から(24)横山のフィニッシュにつながりますが、(24)横山の地を這うシュートを横っ飛びしながらキャッチングした(1)堀田は神がかっていました。これはもし弾いていたら、(25)國分に詰められて山形の先制点になっていた可能性も十分にありました。
岡山サポであれば皆さん観ていたと思いますが、このシーンに限らずこの日の(1)堀田のシュートストップ、山形フィニッシャーとの駆け引きは抜群でした。37分の対角線のクロスに山形(4)西村彗祐が飛び込んだシーンは、なぜそれに反応できるのか?と思ってしまいました。
(1)堀田のコメントから感じられるのは相手のシュートに対する予測の良さ、それと自信です。その自信はおそらく山口戦、秋田戦でのビッグセーブから得たものではないかとみています。

前述しましたように、この試合での岡山の中盤での守備は非常に連動性があり素晴らしかったと思います。一方で、山形のパスワークは岡山の中盤での守備を上回る場面もあり、また中盤を省略してロングボールも前線に送っていたことから岡山最終ラインの出番も自ずと増えました。

しかし、山形が決定機を迎えている割には、岡山の最終ラインから慌てている様子は見受けられず、安心して観ていることができました。
それは山形のフィニッシャーに対して岡山の最終ラインがしっかりドリブルコース、シュートコースを限定していたからだと思います。
(1)堀田のビッグセーブの内いくつかは、最終ラインとの連携によって防いでいたものといえます。

最終ラインで持ちこたえる、最後をやらさない守備はドローが続いている間でもみられましたが、先日の仙台戦のようにただ相手の圧を受け続けているだけではなく、中盤と最終ライン、そしてGKと段階を踏まえて守れていた点は好印象でした。1つ勝つとこんなに変わるものです。

驚異的な反応を見せる堀田
山形、横山のシュートをキャッチする堀田
このシュートを弾かなかったのは凄い

(4)「ボランチ」仙波大志

(44)仙波の先制ゴールについては、皆さん何回も再生されたと思いますので、あえてここでは採り上げなくても良いと思います。局面をみれば、なぜそこでスルーできるんだ!、(6)輪笠もなぜそこで浮き球を出せるの?と思ってしまいました。シュートもしっかりアウトにかけてGK(16)長谷川の届かないコースへ。もう、見事としか言いようがありませんでした。

岡山のリーグ序盤戦の大きな課題のひとつは、ビルドアップ時にボランチが最終ラインからボールを受けられない点でしたが、(44)仙波は第9節の熊本戦で先発した時と同様、積極的にボールを受けに下り、ボールを持つと相手複数人に囲まれてもしっかり剥がしてドリブルで前進、展開できるのです。まさに「ボランチ」にふさわしい人材といえます。

この得点をマークしたことで、チーム内での序列をもう一段上げてほしいです。今後はプレータイムを伸ばしてほしいと思います。

シュートを放った直後の仙波
そして歓喜が生まれる

(5)ソロモンの「きっかけ」と2人の「チアゴアウベス」

ゴールシーンの切り取り動画を見つけられなかったのですが、岡山の2点目には様々な要素が含まれていたと思いました。

まずはゴールを決めた(18)櫻川についてですが、ヘディングをしっかり叩いて決めたというのが本当によかったと思いました。
この試合までの3ゴールはいずれも足によるもの、Twitterでも少しつぶやきましたが、競り合いになると楽に相手DFに競り勝てる分、打点も高くなりすぎてしまい、枠上にシュートを外してしまうというシーンが散見されていました。

試合前のアップでは、入念にヘディングを落とす動作を繰り返している時もあり、本人も課題の克服に励んでいる様子が伝わってきました。
しかし、最近はプレー全体に精細を欠く場面も多く、試合中の表情からも苦悩している様子も窺えました。
木山監督も試合後のインタビューで殻を破ってほしかったと彼のゴールを喜んでいました。チームが秋田戦に勝利しひとつ殻を破ったタイミングで、「エースストライカー」も自分の殻を破る。
おそらく多くのサポーターが彼の苦しみを知っていたのではないでしょうか?「殻を破った」喜びにスタジアムが包まれていたと思います。

ジャンプのタイミング
丁寧にコースを狙う技術
お見事の一言

このゴールには、ハーフタイムでの山形の選手交代が影響していたと思います。RWG(24)横山に代えて「山形の」(10)チアゴアウベスが投入されたのですが、(18)櫻川へクロスを上げた(22)佐野航大に対して(10)チアゴが全くプレッシャーをかけていないのです。攻撃に備えているという見方もあるのかもしれませんが、もし味方の選手であれば…、サポーターとして怒りの対象になっているかもしれません。連戦の影響もあったと思いますが(42)イサカ・ゼイン不在は岡山にとっては非常に助かった点でありました。

さて、「味方の」(7)チアゴアウベスは58分、(18)櫻川に代わっての登場でした。(18)櫻川と同様の役割を求めるのでしたら、(99)ルカオの方がまだ適任なのかなとも思いましたが、これも次の町田戦を睨んだ起用と思えました。

(7)チアゴは背中に相手を背負っては持ち味が全く出ませんので、たちまちボールを前に運べなくなり、最初にお示しした「時間帯別守勢攻勢分布図」のように岡山は一気に守勢となります。

この起用は2点リードしていたので、あわよくば(7)チアゴの力で3点目をねらう、山形の攻勢に関してはここまでの岡山守備陣のデキと足し引きして、勝ち切れると踏んだ。木山監督の細かい収支計算があったのかもしれません。

そんな「チアゴアウベス」な後半でしたが、70分に交代出場した(27)河井陽介は後ろ向き(7)チアゴに直接預けるのではなく、自身での持ち上がりや、リターンパスを織り交ぜることで(7)チアゴに前を向く時間とスペースを与えていたように見えました。相変わらずさすがです。

後半、山形國分のFK
昨シーズンも同じような角度から
決められたが、2度はやらさない

3.まとめ

筆者はアウェイ秋田戦から帰岡し、中1日でこの試合を観戦しましたが、秋田戦からの「つながり」の中で殻を破っていくチーム、選手たちを目の当たりにでき、大変充実した2連戦を過ごしています。
次は首位町田との対戦ですが、一点気になっているのはセットプレーでの守りです。今の岡山はゾーンとマークの併用で守っていると思いますが、この試合序盤、山形(5)野田にフリーで強烈なヘディングシュートを撃たれました。今の町田はこうした隙を見逃さずに突いてくるでしょう。
しっかり対策をしてほしいと思います。

でもこの秋田戦では、今後の岡山にもベースになりそうな戦い方も手にしたような気がした。シンプルかもしれないが「粘り強い守備」からチャンスを待つ戦い方である。

全ての時間が自分たちの時間でなくてもサッカーは勝てる。

こうした自信を深め、軌道修正を図りながら、少しずつ理想は実現していけばよいではないか。

【ファジサポ日誌】47.北国の春~第12節ブラウブリッツ秋田vsファジアーノ岡山 麓一茂

秋田戦とは試合展開は全く異なりましたが、「粘り強い守備」からチャンスを待つ戦い方をこの山形戦でもチームは披露してくれました。
まずはこの「粘り強い守備」から町田を上回りたいものです。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。

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