【ファジサポ日誌】58.ポジティブ~第22節ヴァンフォーレ甲府vsファジアーノ岡山
先週の練習中に一部選手間で言い合いが発生していたというファジアーノ岡山。今までのファジアーノの歴史の中でもあまり記憶にない出来事です。
筆者は政田に行ったこと(練習を見学したこと)がなく、練習中の雰囲気はクラブ配信の動画や写真、SNS等で知るしかないのですが、これまでは試合に負けた翌週でも、比較的選手たちの和やかな表情、雰囲気が届けられていたと思います。
もちろん動画や画像は切り取られた一部ですし、メンタルの切り替えが重要なことは承知していますが、結果が出ない時に果たしてこんなに笑っていられるものなのだろうか?と、これまで少々疑問に感じたこともありました。
大分戦の拙レビューからの引用です。
こうしたシーンが多くみられた訳ですから、パスの出し手、受け手の間で不満が溜まって当然なのです。
言い合いが発生する、練習中がピリピリとしたムードになるのは自然な流れといえます。
やはり彼らは、今のチーム状況に満足していないし、投げやりにもなっていない、そしてチームのJ1昇格を諦めていない。
その上で木山監督はこの出来事をただの不協和音で終わらすことなく、チーム一丸の戦いへと昇華させることが大事という内容も語っていました。
大分戦から続くこのような経過から、この甲府戦、筆者はチームの巻き返しに期待していました。
振り返れば第5節、ファジアーノが躓くきっかけとなったホームゲームの相手が甲府でした。アウェイの地でこの甲府にリベンジを果たすことで、今シーズン後半の開幕戦ということのみではなく、ファジアーノ岡山J1昇格ロードへの再スタートとしたかった筈です。
結果はスコアレスドローでしたが、良い意味でJ1昇格戦線浮上へのきっかけとなる試合内容であったと思います。
一方で、許される勝点ロストの限界が迫る中、勝ち切れなかったという結果については当然物足りなさが残ります。
今回のレビューでは、この試合でみせた岡山のパフォーマンスを評価しながら、得点を奪うために何が必要であったのかについて考えてみたいと思います。
1.試合結果&スタートメンバー
この「分布図」はアタッキングサードに人とボールが効果的に入った回数をカウントして色づけをしていますので、ボール支配率とは異なる指標です。
試合全体をみますと甲府の方が効果的な攻撃を行えていた時間が長かったことがわかります。
岡山は後半開始からの15分間にチャンスが集中しましたが、ここで得点できなかったことが響きました。
一方で守備陣はよく耐えました。特にGK(1)堀田大暉は終始好セーブを連発、パンチングなどボールを弾く強さや方向も非常に的確で、この試合のMVPともいえる活躍ぶりでした。
注目されました岡山のフォーメーションですが4-4-2でした。
試合が始まりますと甲府のサイド攻撃に対応するため、両SH(14)田中雄大や(22)佐野航大が戻り5バックのようになっている場面もありましたし、ビルドアップ時には3バックになっている場面もありました。
前節大分戦でRWBに入った(22)佐野はLSHで起用。メンバーの違いはありますが(48)坂本一彩をスタメンで起用したことからも、開幕時に原点回帰するイメージであったのかなと感じました。
(2)高木友也、(42)高橋諒の両レフティが共にベンチスタートとなった点も目を引きました。
一方、甲府は開幕時と比べますと一部のメンバーの違いこそありますが、今シーズン一貫している4-2-3-1で臨みます。フォーメーションをいじっていないというのは、いじる必要がないからであり、最近の甲府の安定した戦いぶりを象徴しています。
2.レビュー
(1)ポジティブに感じた戦いぶり
試合直後のつぶやきです。
TLを見る限りは今回の試合をポジティブに捉えている人は少数派なのかなと感じており、若干戸惑っています。
しかし、現在プレーオフ圏内の相手に対して十分通用するサッカーは出来ていました。良かったと思います。そして強調したいのが、このサッカーであれば相手の違いはあれども、この先も同じような戦い方ができると感じた点です。
この試合での岡山の先発2トップは(7)チアゴ・アウベスと(48)坂本でした。そうなると気になるのが2トップのプレスの有効性です。
前節の大分戦の2トップは(48)坂本と(18)櫻川ソロモンで、やはり(99)ルカオと(8)ステファン・ムークの2トップとはプレスの質、強度が共に不足していたと思います。
これも前回のレビューで述べましたが、岡山の戦術は選手個々の能力に大きく委ねられる部分が大きいのです。よって、出場する選手や組み合わせに適した戦術を試合ごとに考える必要があります。
昨シーズンは比較的これが上手くいっていたと思います。
大別するとミッチェル・デュークがいる試合とそうでない試合で上手く戦術の使い分けが出来ていました。昨シーズンの後半戦、第37節長崎戦(○3-0)と第38節仙台戦(○3-0)の違いはいい例であると思います。
これが今年は「相手コートでの戦い」という統一コンセプトが強調されること(試合前の木山監督へのインタビューからよくわかります)により、戦法に融通が効かなくなっていると感じています。
つまり、現在の岡山には選手の能力や組み合わせに応じて毎試合戦術を変える必要があるのに、誰が出ても「相手コートでのサッカー」という共通コンセプトで戦おうとする矛盾が生じていると言えます。
こうした矛盾を抱えた戦いぶりが岡山の今シーズンの低迷(あえて低迷と表現します)に繋がっていると思うのですが、選手の適性に見合わない選手起用の傾向について実は筆者は全否定はしません。寧ろ肯定的に捉えてもいます。
木山体制に代わりこれまでの監督に関する記事やインタビューを読むことで、こうした選手起用が木山監督の選手育成の大きな特徴ではないかと、最近になり考えるようになったのです。
おそらく木山監督には高レベルのプレーヤー像の「スタンダード」が明確にあるのではないでしょうか。
その「スタンダード」に近づけるよう、各選手の得手不得手に関わらず、平等に実戦のチャンスを与え、チャレンジさせるという思想があるように思えるのです。
最近は出場機会を減らしていますが、一時(9)ハン・イグォンに前線からの守備をさせようとしていた点などにもこの傾向は現れています。
こうした選手起用が選手個人の成長を促し、現有戦力の底上げという形でチーム力に還元される。木山監督が必ずしも資金が潤沢とはいえない地方クラブで結果を残してきた理由なのかもしれません。
ではこの甲府戦の2トップのプレスはどうであったのか?
非常に時間や相手の出方を考えながら、現実的であり、かつチャレンジも出来ていたと思います。
悪い時の岡山のプレスは前線の選手が闇雲にプレスを仕掛けるため、中盤が連動出来ずに前線が剥がされた際に中盤がスカスカになり一気に自陣深くまで相手に運ばれてしまう。大雑把な表現ですが、こんな感じであったと思います。この甲府戦ではまずプレスそのものに計画性を感じました。
まず開始から20分までは(7)チアゴ、(48)坂本、共に無理して甲府最終ラインにプレスしていなかったと思います。
甲府の試合を毎試合観ていないので不明な面はありますが、おそらく開始直後からアグレッシブに戦ってくる甲府の立ち上がりをスカウティングしていたのかなと感じました。
この2トップが甲府のボランチを消すことによりサイドに誘導します。
岡山の自陣両サイドはSBだけではなく、SHが戻り2対1の関係を作り守っていました。このサイドの攻防で数的優位性を活かしてしっかり守れればなお良かったのですが、サイド攻撃に定評がある甲府は一瞬のスピードアップで岡山サイドを数回攻略、14分には甲府右サイドから決定機を迎えますが、岡山(1)堀田のビッグセーブにより得点にはなりません。
一方、岡山もサイドで網を張った効果はあり、16分には自陣右サイドから(14)田中雄大が持ち上がり(7)チアゴへ、一気にカウンターのチャンスを迎えます。また19分には同じくカウンターから(7)チアゴがPAに侵入も甲府は(40)E.マンシャが(7)チアゴの左足を切る好守備を披露しました。スコアが動いてもおかしくない見応えのある攻防がみられました。
まずこの序盤の時間帯の岡山は、甲府の猛攻を受けながら自陣でボールを回収すると比較的低い位置で待つ(7)チアゴに渡しカウンターをねらうという明確なプランの下に攻守を行えていました。
これは自陣である程度受ける守備を選択したことで、2トップに無駄にプレスさせず、自陣寄りにコンパクトな陣形を保ちながら(7)チアゴの前方にスペースをしっかり作るという、非常に現実的かつ可能性を感じさせる試合運びであったと思います。
この試合全体では、大分戦でみられたようなボールホルダーがボールの受け手に自分の近くに来るよう手振りをするシーンもそれ程はみられませんでした。チームの陣形全体をコンパクトにすることで、選手同士の距離感の改善を図ったのではないかと推測します。
では「相手コートでの戦い」を全く捨てているかというと、そんなこともなく、一連の甲府の猛攻を受けきった21分、甲府がペースダウンを試みようと最終ラインでボールを繋ぎ始めたところで、岡山2トップがプレスを開始します。甲府に小休止を与えず22分にはサイドに流れた(7)チアゴと(48)坂本の連携から(48)坂本がフィニッシュを迎えます。
この時間以降、岡山は前からプレスを仕掛け始め、仕掛けた分、甲府に裏返される場面も多くなってしまったのですが、それでも30~34分の5分間は攻勢を仕掛けられていましたし、前線からプレスを掛けることにより、前半からある程度オープンな展開に持ち込み(7)チアゴや(48)坂本の攻撃能力を活かすことに成功していたといえます。
この前半の岡山の前線からのプレスは、前で相手のミスを誘発させる、相手のボールを誘導するというプレスの直接的な効果を越えて、ゲーム全体をオープンなものにし(7)チアゴの得点能力を最大限に活かすというねらいを体現出来ていたのではないかと、筆者には感じられたのです。
よって前半終了時には以下のように思ったわけです。
(2)勝ち切るために必要であったこと
甲府の守備は前述しましたように(40)E.マンシャが(7)チアゴの左足を徹底して切りにいく、(5)蓮川壮大の運動量をフルに活かしたカバーリング、そして最後の砦(1)河田晃兵と二重三重の壁を敷いています。
その壁を破るためには、上につぶやいたとおりボックス内でのもう一人、もう一工夫が必要でしたが甲府ゴールを割ることができませんでした。その要因について幾つか考えてみました。
① 被カウンターを恐れている
今シーズンの岡山はいわゆる「ネガトラ」に関しては、ここまでよく戦えていたと思います。しかし、全体的にはファールで止めるシーン、特に手を使って止めていたシーンが多かったように思います。
ところが東京V戦をきっかけに手を使わない守備が求められる状況になった。よって各選手、押し込んでいる場面でどこかカウンターを恐れている心理状況にあるのかなと推測します。
この試合も岡山は(27)河井陽介を始め、多くの選手がイエローカードを受けてしまいましたが、半分ぐらいは不要なファール、カードであったと感じました。やはりここにもカウンターを恐れている心理状況が出ていたように思います。
カウンターを恐れることで、ボックス内へもう1本パスを出せば好機という場面で無理筋なミドルシュートを撃っていた、またそのミドルシュート自体も引っかけられたくないという意識がはたらき、ゴール上を意識し過ぎることで枠を大きく外していたのではないかと思いました。
アタッキングサードまで運んで自陣深くまで戻してしまうシーンも散見されましたが、これもやはりボールロストからの被カウンターを恐れている証なのかなと感じました。
② 攻勢をかけられる時間が少ない
そしてゲーム全体の観点からみますと、いい試合運びをしていたとは思いますが、攻勢をかけられる時間帯が少なかったです。
甲府は積極的にサイド攻撃を仕掛けてきますから、相手のサイドを裏返せばチャンスになるのですが、そうした攻撃が十分に出来ていないと思いました。
甲府が(2)須貝や(23)関口正大など相手陣内に侵入してからも力強いドリブルで深くまで持ち運べる選手がいる一方、岡山の(16)河野は浅い位置からのクロス、パス供給が中心になってしまう、そして(43)鈴木喜丈はビルドアップには冴えを魅せるものの相手陣内に入ってからの脅威は不足してしまいます。
サイドをドリブルで突破できる選手がいれば、もう少し岡山の攻撃時間をつくれていたのではないかと思うのです。
実際のところ、終盤に(42)高橋、(2)高木を投入した後は短い時間ながらも得点の可能性を感じさせる決定機をつくれていました。
この2人のレフティを2人ともスタメンで起用しないというのも勿体ないですし、2人のパワーをいっぺんに投入するのであれば、もっと早い時間でも良かったのではないかと思うのです。
この論点を深掘りすると(22)佐野の起用法にぶち当たります。
当レビューでも何度か(22)佐野のLS Hでの停滞について触れていますが、最近はパンチ力のあるシュートも観ることが出来なくなっている。
若手の成長力に期待している木山監督の考え方もあるとのだと思いますが、このポジションはメスの入れ所であると考えます。
③ パターン化されているセットプレー
最後にセットプレーについて考えます。
セットプレーのパターン自体は岡山もたくさん持っているように思うのですが、どのパターンも最終的には(5)柳育崇にいかに楽にシュートを撃たすのかというところに行き着きます。
相手の立場に立つなら、岡山はセットプレーで色々仕掛けてくるけど最終的に(5)柳を押さえれば良いので読みやすいのではないでしょうか?
この試合の前半に(5)柳がスペースをつくり(23)ヨルディ・バイスに撃たすというパターンがあり、変化をつけててきたなと注目していたのですが、その後はやはり(5)柳一辺倒になってしまいました。
高い確率で(5)柳が空中戦で勝てるということでこの形なのでしょうが、今シーズンはセットプレーからの得点が減っていますので、考え方の転換が必要と考えます。(5)柳を囮に使うパターンが必要です。
まとめ
今回は試合を観た直後の感覚を重視したレビュー構成にしてみました。
この試合に関しては筆者の想像以上に厳しい評価、見解も多いように感じました。それだけJ2全体のレベルが上がっており、ライバル他クラブも洗練された戦術を用いる中、筆者の言葉で述べるなら「型らしい型がない」岡山のサッカーに不安を憶えているサポーターが増えている証であると思います。ファジサポの視野は広がり目も肥えているのです。
岡山らしさを語る場合、これまでは「泥臭さ」や「走り切る」といった言葉で形容されることが多かったと思いますが、今やそれはどこのクラブもやっている事であります。
木山監督のコメントをみますと、どうやら「繋ぐ」ことを捨てない、「繋ぎ」を向上させた先にJ1があると考えているようです。しかし、繋ぐには守備からもっとチーム戦術を深めていかなくてはなりませんし、簡単な道ではないと思います。
しかし、「繋ぐ」=ポゼッションではないという点はしっかり認識しておきたいと思います。
現状の岡山の強みは最後をやらさない強さにあると思います。この甲府戦でもその点は再認識できました。
いかに自陣で奪ったマイボールを素早く大事に運ぶのか、結局個の力ではないかと言われてしまいそうですが、この試合でも見られました(48)坂本の下りて来て受ける、ライン間で受ける動き、その後のドリブルは岡山の強力な武器になりそうです。この後半戦のキーマンは間違いなく(48)坂本であると思います。
残り20試合、筆者はまだ全く諦めていません。
今回もお読みいただきありがとうございました。
【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。