【ファジサポ日誌】69.酷暑のベストゲーム~第31節ファジアーノ岡山vs大分トリニータ~
8月14日佐野航大(NECナイメヘン)の移籍にあたって、北川真也社長が発信したコメントです。
シーズン終盤に向かって思うように勝点を積み上げられない中、数字上はプレーオフ進出の可能性は十分に残っている一方で、夏のマーケットの補強はMF(17)末吉塁のみに止まり、今シーズンにJ1昇格についてクラブの本気度が問われていた昨今であったと思います。
そんな中、現場の選手、スタッフを含めてJ1昇格を諦めていないことをクラブは表明してくれました。
この表明に対しても、サポーターそれぞれで様々な想い、見方があったと思います。しかし、いずれにしましても、チームとしては昇格への本気度を示さなくてはならない試合、それがこの大分戦であったと思います。
そういう意味では結果をきっちり出せたこと、そして試合内容についてもファイティングポーズをしっかり示せた一戦となりました。大変意義ある勝利でした。振り返ります。
1.試合結果&スタートメンバー
6月のアウェイ大分戦では、大分の「繋ぎ」の前にほぼ完敗した岡山でしたが、今節はロースコアながらボールを握る、攻勢をかける時間をつくることができました。今回のレビューはこの点を中心の述べていくことになります。
続いてスタートメンバーです。
岡山では前節大宮戦で途中交代したRWB(16)河野諒祐、RIH(14)田中雄大はベンチ外となりました。代わりに(17)末吉塁、出場停止明けの(44)仙波大志が入ります。
主力2人の負傷(おそらく)は痛い点ですが、攻守のバランス、出力という点で結果的に左右のバランスは良いとの印象を持ちました。
そして2トップは(7)チアゴ・アウベスと(48)坂本一彩の組み合わせとなります。この2人の場合、プレスの掛け方、強度、ファーストディフェンスの行い方が注目となります。得点力の面ではベンチメンバーと比較しても先行逃げ切り型の戦いが想定されます。
そのベンチにはFW(18)櫻川ソロモンの姿がありません。2戦続けてのベンチ外となりました。スタジアムには姿を現していたようです。詳細は不明ですが、戦術上の理由により外れたものと推測します。
大分は前回対戦時よりもメンバーが大きく変わりました。前回の対戦ではFW登録の選手が不在。ゼロトップのような形で戦っていたと思いますが、逆に今回はFW登録選手が多数存在します。この点も実は今回の試合結果に影響したとみています。
2.レビュー
(1)すべては好守から
(7)チアゴと(48)坂本の2トップという事で、試合前には前線からのプレスについて一定の懸念もあったと思います。しかし、結論から述べますと比較的この2人の守備が機能していたと思います。
(44)仙波のミドルシュートが外れた直後、18分39秒の大分のビルドアップに対する岡山の守備をみてみます。
大分CB(49)羽田健人からのビルドアップですが、これに対して岡山の2トップがそれぞれ「2つのタスク」を行うことで、ボールを相手陣内に止めたシーンでした。
まず(7)チアゴは(49)羽田とGK(24)西川幸之助の双方にプレスする構えをみせながら、ボランチ(26)保田堅心を背中で消します。
そして(48)坂本はRCB(3)ペレイラをみながらRIH(8)町田也真人へのパスコースを消しています。
この直後のスローインから岡山は(7)チアゴを走らせ、チャンスをつくりかけます。相手陣内での奪還から攻撃へと繋がりかけた良い場面でした。
この2トップの動きにより(49)羽田から縦へのパス先がなく、(24)西川へ渡った段階で(3)ペレイラへのパスが想定されたことから、(48)坂本が後方へ下がりながらターン、勢いをつけて(3)ペレイラを追い込みサイドへ誘導。タッチラインを割り、岡山ボールへと代わりました。
仮に繋がれていても(21)鮎川峻には(5)柳育崇がついていました。
(7)チアゴと(48)坂本は、決して100%相手ボールホルダーにプレスに行く訳でもなく、相手ボランチをすべての場面において消していた訳でもなかったのですが、ボランチを消しながら「行ったり行かなかったり」を繰り返すことで、大分のボール出しに「考える時間」を与え、攻撃を遅らせることに成功していました。
(7)チアゴの守備意識の高まりは今シーズンここまでも述べてきましたが、その意識は高まっています。この試合では、その高い意識に加えて、しっかりした戦術理解に基づいた守備が行えていたように見えました。これは(7)チアゴのプレーヤーとしての大きな成長といえます。
また(48)坂本も寄せの速さにより、大分ボランチをみるポジションからボールホルダーへ素早くプレスを仕掛けていました。豊富な運動量からはコンディションの良さを感じさせました。
そしてこのシーンでもう一点注目しましたのが、中盤の選手のポジションです。高い位置、2トップと良い距離感を保ちながら、大分のパス先へ即時にプレッシャーかけられる体勢であることがわかります。
試合全体でも岡山2トップによって誘導された先に対する岡山中盤の選手のプレスは速かったと思います。岡山がこの2シーズン大きな課題としてきたプレスの連動性に大きな成果をみることができました。
すべてはコンパクトな陣形を敷けていたことに要因があります。
sporteriaさんの「時間帯別パスネットワーク図」です。
大分のデータとも比較しましたが、前半を中心に岡山の最終ラインが高い位置でパス交換を行えていました。
最終ラインが高い位置を維持することで、岡山の陣形全体がコンパクトになっており、選手間の距離が短くなることでプレスの連動性も高まったのです。
特にRCB(15)本山遥やLCB(43)鈴木喜丈がビルドアップ時に一段上に上がることで両IH(44)仙波や(41)田部井涼を前に押し出す効果がみられました。前線での分厚い攻撃、守備に局面が変わっても相手陣内での奪還に繋がっていた大きな要因と考えられます。
特に(15)本山は守備時にはアンカー(6)輪笠祐士の脇のポジションで相手ボールを奪還したり、素早く最終ラインに戻り(5)柳をカバーするなど、その機動力と強さを如何なく発揮していたと思います。
(23)ヨルディ・バイスを下げ(15)本山を先発で起用し続けている効果が目に見える形で現れていたと思います。
最後方の(堀田を除き)(5)柳にはこの試合(20)長沢駿という明確なターゲットがいました。前節大宮戦で(10)シュビルツォクを相手に堂々と対峙した自信がプレーから漲っており、(20)長沢に仕事らしい仕事をさせていなかった点も特筆すべきです。(20)長沢は(5)柳を引きずり出そうと中盤へ度々下りていましたが、岡山の陣形がコンパクトな分、(5)柳がついていかなくても、中盤の選手で対応できる場面も多かったと思います。(5)柳が最終ラインにポジションをキープ出来ていた点も岡山の守備の安定に繋がっていました。
これも実は(23)バイス不在が影響していたのだと思います。
元来、前へ潰しにいきたい(5)柳ではありますが、前へいけたのも(23)バイスが後方にいたからだと思うのです(両方出ていってしまう時もありましたが)。それが最近の最終ラインの組み合わせとなれば、無条件に前にはいきにくくなり、チーム全体の守備リスクを低減することも出来ます。
前回の大分の対戦時にはFW登録の選手がいなく、ゼロトップのような形を採用していましたが、岡山としては中盤で細かくパス交換されてサイドや裏へ飛び出される形に苦労しました。その点今回は(20)長沢という明確なターゲットがいたことは、岡山にとって(柳にとって)大きな守りやすさに繋がっていたと思います。この試合の隠れたポイントであったと考えます。
(2)攻守に貢献度が高い両WB
(22)佐野航大の移籍、(おそらく)負傷による(16)河野諒祐の欠場により、WBには(17)末吉、(42)高橋諒がそれぞれ起用されましたが、彼らの攻守での貢献も目立ちました。RWB(17)末吉は(16)河野と遜色のない精度のクロスは配球出来ていたと思います(河野のクロスはスペシャル)。実戦をこなす内に中の動きとは合いそうな予感もありました。そして守備対応も大分(17)高畑奎太にクロスを上げられるシーンはあったものの、粘り強い対応で時間をかけさせることは出来ていたと思います。時間を掛けさせればボックス内の守備は固まりますので、あっさり上げさせるのとでは大きな違いです。
LWB(42)高橋はこれまでもその実力をみせつけてきましたが、この日も貫禄のプレーぶりでした。彼は「本職の強さ」をアピールしていたと思います。縦への突破はさることながら、右に持ち替えて中へ入ることで、大分守備陣を混乱に陥れているように見えました。また(41)田部井涼との相性の良さも感じさせてくれました。
この試合の岡山は攻守において左右のバランスが良かったように思えます。
負傷者の影響によりこのメンバーになった訳ですが、このメンバーが残り試合のファーストチョイスでも良いような気がしてきました。
(16)河野の不在はセットプレーでの得点力減少を招きそうなのですが、そこを補完する意味でも(41)田部井涼のキックからセットプレーで獲れた点も良かったと思います。
工夫がみられましたね。(5)柳にフィニッシュさせるとなると、ある程度、ライナー性のボールになるのですが、最近の試合ではこれを相手に読まれていて、なかなか(5)柳が触れないシーンも多かったと思います。
そこで(5)柳に確実に落とさせることを最優先にして山なりのボールを配球した。よく考えているなと思いました。落としたボールに対しても(7)チアゴが絡みにいったことで(43)鈴木が良い形でシュートを撃てました。
得点力という面に関しては、やはりもう少し早めに先制し、追加点を奪いたいところですが、そこは(48)坂本に期待という事で良いと思います。
決定力不足に泣きましたが、ボックス内の狭いスペースで相手を冷静に交わせる技術はチーム随一です。続けてほしいと思います。
(3)クローザー ルカオ
大宮戦レビューでは、(48)坂本と(99)ルカオの出場順を逆にするべきであったと述べました。
今回の大分戦では偶然にも(48)坂本→(99)ルカオの出場順となり、注目していましたが、1点リードで迎えた(99)ルカオの働きぶりは素晴らしかったと思います。単純に前線にボールの預け先が出来たことで、岡山は終盤の大分の反撃に対してそこまで苦しむことなく試合を運べていたと思います。(99)ルカオが加入した当初は「ポストプレーヤー」ではないと、筆者はレビュー内でも述べてきましたが、故障復帰後のプレーはこのポストプレーに大きな進境をみせていると思いました。
後は、大宮戦レビューでも述べましたが、彼を絡めて得点を奪うパターンを確立することであると思います。(99)ルカオ投入によって得点を奪えるようになれば、ビハインドの展開でも自信をもって送り出すことが出来ます。
3.まとめ
以上、もう東京V戦の当日なのですが、ようやく大分戦をまとめることが出来ました。
特に前半はずっと理想としてきた「相手コートでのサッカー」を長時間にわたり体現、後半大分ペースになりかけるタイミングで(99)ルカオや(19)木村太哉ををはじめとした選手交代で流れを大分に渡さしませんでした。
チームとしてのねらいの達成という観点では、今シーズンベストゲームであったと思います。そして、この好内容を3戦未勝利という困難な状況で達成できたことに意義があります。
おそらくチームは、結果は結果として受け止め、試合内容の上積みを着実に自信に代えていたのだと思います。心強い限りです。
また、各選手のコンディションの良さも感じました。この酷暑の中、この点も好材料といえます。
あとは今シーズン、連勝が1回しかない中でこの好調をいかに維持できるかにかかっています。
ポイントは「コンパクトな陣形」を維持できるかです。対戦相手は当然、最終ラインの裏を狙ってきますし、(5)柳を引っ張り出しにくることでしょう。今後の勝負のカギは最終的にキャプテンに委ねられるのかもしれません。最後に大分戦翌日のファン感の写真もアップさせていただいて、今回のレビューを終えます。
お読みいただきありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。