大奥の女中たちに秘められた過去【モノノ怪考察】
以前の記事でも書きましたが、今作はTVシリーズとは違い、キャラクター個人の人物や心情も多く描かれました。
この映画を彩った魅力的な登場人物を、個人の感情に注目して掘り下げていきたいと思います。
淡島と麦谷は悪役なのか
新人であるアサとカメの指導を担当する淡島と麦谷という女中のお二人。いわゆる「お局キャラ」であり、一見悪役に見えますよね。
今までのモノノ怪だと嫌なキャラのまま成敗されて終わりだったと思うんですが、今回は彼女らの心情も見え隠れする感じがして、個人的にあまり嫌いになれませんでした。
最初はこの二人が「お局コンビ」として二人で結託して新人二人をいじめるのかと思ったのですが、よく見ると
淡島→アサ と 麦谷→カメ
の構図は独立していることに気付いたんです。
淡島&麦谷チーム vs アサ&カメチーム じゃなくて
「淡島vsアサ」と「麦谷vsカメ」は別々だったんですね。
淡島は、新人にして出世していくアサ
麦谷は、仕事ができないが容姿の良いカメ
各々がコンプレックスを刺激する存在だったんだと思います。
大餅曳の手配で怒られているシーンがある淡島はカメタイプの仕事できない人なのかなとか
カメの失敗にイライラするシーンがある麦谷はアサタイプの仕事ができる人なんだろうなというのを見ながら感じました。
これを踏まえて観てほしいシーンがありまして。
まずはこちら、鯛の飾りが準備できてなくてカメが鬼詰めされてるシーンですね。
一見ただの新人いびりに見えるかもしれないんですが、淡島さんに注目。
カメが麦谷さんに責め立てられている時、滝汗をかきながらひとり黙々とカメの仕事であったはずの準備を進めています。
そして、その場にアサが到着すると、途端にアサを責め始めるんです。
これ、カメに感情移入してるんだと思って。
元凶であるカメには怒らず、なんなら作業の尻拭いまでして。
怒らないんじゃなくて、怒れなかったんじゃないか。
この時の異様な焦りの表情は「歌山様に叱られる~」かと思ってたんですが、カメへ向けられる麦谷の怒号を聞いて、蘇る新人時代の思い出があったりするのかなと考えてしまいました。
次に見てほしいのがこちら、上記のシーンの後に麦谷の部屋でカメが説教を受けているシーン。
麦谷はカメに水を浴びせ、再び捲し立てるように罵り始めるのですが。
カメの仕事での失態が発端にもか関わらず、「容姿がいいだけで調子に乗ってる」だの、「男に浸け入る女」だの、的外れな悪口ばかり。
最初に麦谷のキャラデザを見た時に覚えた違和感を思い出しました。
女性を売りにした大奥という場所において、決してスタイルが良いとは言い難い体型がずっと気になっていたんです。
麦谷さんはきっと、自身の容姿にコンプレックスを持っていたんですね。
そうするとあの抽象的で的外れな悪口にも納得できます。
フキ様に瞳を輝かせていたシーンもあって、本当は御中臈のような女性としての役職に憧れてたんだと思います。
自身のコンプレックスによる諦めから、いつからかその憧れに蓋をして心の奥に隠しているんだなと考えると少し可哀想で、個人的には憎めずにいる女性です。
こういった視点で見てみると、淡島&麦谷コンビにはアサ&カメコンビにも通ずるところがあって、道を間違えたらアサとカメもこうなる未来はあったんじゃないかと。
こうした登場人物一人一人に秘められたものにも着目してみるとキャラクターへの愛着が湧くかもしれませんね。
薬売りを見たアサの反応
TVシリーズから引き続き、薬売りの設定には「浮世離れした容姿」といった一文が記されています。
アニメ版もしかり、基本的には薬売りを目にした女性は頬を染める描写が毎度ありまして、今回も同じく見受けられました。
大奥の入り口で薬売りに見惚れるカメや、淡島さんなんかはモノノ怪に襲われる絶体絶命の状態ですらそのような表情を見せていました。
が、しかし!唯一例外の人物が現れました。そう。アサです。
隣で頬を染めるカメの横で、涼しげな表情で薬売りを眺めていました。
今作には珍しい女性だなと思いつつ、「男嫌い説」と「会ったことある説」を考えました。
アサは男嫌い?
これは説っていうか確実にそういう設定だと思うんですが。
気になったシーンを一つ。
お目付け役の男二人をアサとカメが案内するシーン。
女好きの平基が少し遠くで「どちらが好みだ?」と三郎丸に持ち掛けます。
その会話にアサは聞き耳を立て、辟易した表情で無視。
「男同士の幼稚な会話に呆れる」という経験、女性なら一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
監督は細かい女子あるあるを上手く踏襲していて、特に大奥という舞台と相性バツグン。
YouTubeの特別番組でも「女子同士の会話のリアリティを女性スタッフに褒められた」と仰っていました。
アサは男性に対して感情を向ける描写が一切ない一方で、唯一の拠り所であるカメへの愛を膨らませていきます。
アサのカメへの「愛」は果たして友情なのか恋心なのか、気になってドキドキしながら観た人も多いんじゃないでしょうか。
この絶妙なバランスで揺れ動く様子を眺めながら、監督や声優さんの表現力を感じ、アサとカメの関係性に惹かれていきました。
ちなみに監督の中でアサの気持ちには正解があるらしく、「声優さんにはお伝えした。」のだそう。
アサと薬売りは面識がある?
これは飛躍した考察かもしれないんですが一応。
最初に薬売りを見た時のアサの反応として、容姿に見惚れていないという点の他に、謎に「ハッ」とした表情をした気がするんですよね。
単に驚いただけかな?とも思ったのですが、アサが驚くほど不意の登場ならカメはもっと盛大に驚いてそうだしな…とかなんとなく考えてしまって。
既に会ったことがあるのなら容姿に気を取られず「ここに居ること」への驚きが先行するのかなと。
そうするとアサは大奥へ来る以前にモノノ怪に遭遇していた、ということになります。
次回作のどこかで語られることがあるかもしれません。
もし次回作以降でアサの過去が語られるとした場合、今作においてそれを示唆する発言等はあっただろうか?と振り返ってみました。
・アサは近所のご飯の世話までしていた
アサとカメが朝餉の説明を受けるシーンで、朝食作りへの不安を漏らすカメに対し
「大丈夫だよ。私、近所の分も作ってたから。」
との発言をしていました。
家庭環境を想像させる、含みのあるセリフだと思いませんか?
・大奥に訪れたことがある
御祐筆の北川と出会い、憧れを語るシーンで
「以前父と大奥に訪れた」と発言しています。
過去に大奥で起こった事件が他にもあるのかもしれません。
・大切なものがない
北川との会話内で
「私には捨てたいものしかありませんでした。」
と発言しています。
何か意味深なセリフですね。
両手に大荷物を抱えてやってきたカメのことを思い出してみると、アサにはカメのおにぎりや櫛のような大事にしているものがないように見えました。
父の存在が明示されながら、何も持たされていない?
娘が憧れの大奥に旅立つというのに…?
カメのような愛情を受けていないか、あるいは今はもう亡き存在であるのか、いろいろ想像してしまいますがどれも重苦しいものばかりです。
アサちゃんは会話の中で自分の情報を開示してくれるようなタイプではないので、何か過去を持っていてもおかしくありません。
カメが大奥を去った以上、次回作以降はアサが一人で実質的な主役を担うのか、別の人物を中心に新たな視点が描かれるのかも、気になるところですね。
大奥の女中には派閥がある
大奥の女性たちを見ていると二つのタイプに分かれているなと思いましたので、紹介します。
欲しいものは愛か?地位か?
今作は大奥を舞台とした「お仕事もの」でした。
大奥には社会を動かすための官僚機構、そして将軍の跡継ぎを生むための機関として二つの面を持っています。
それによって女中たちが抱く目標は、二通り存在していました。
出世したい派
大奥の中で出世し、己の目指した役職へと就くことを目標としているタイプ。
アサちゃんは御祐筆という明確な役職の希望をもって大奥にやって来ました。
いずれは歌山様の後継にでもなってしまいそうな出世ぶりですが、トップとかには興味なさそう。
淡島さんは歌山様への敬慕と恐怖が描写されており、出世あるいは歌山様に認められることを目標としているように見えましたね。
ボタン様は夜伽担当である御中臈であるにも関わらず、天子様には目もくれず政治への興味を示す様子が不思議でした。
歌山様の座を虎視眈々と狙っていそうです。
寵愛を受けたい派
天子様に見初められ、夜伽の相手に選ばれることを目標としているタイプ。
フキ様は少ない登場でしたが、天子様からの寵愛を受けており、かつそんな自分に自信を持っている様子が見てとれました。
天子様に選ばれることで己を満たしているのでしょう。
麦谷さんはこっそりこのタイプ。
御中臈のお姿に目を輝かせたり、平基に頬を染める描写があり、天子様あるいは男性からの寵愛を求めているように見えます。
大友家vs時田家
今回の唐傘には直接関わってきませんでしたが、台詞内で二つの家系の名前が出てきました。
大友家
大友家より大奥に使いに来ている大友ボタン様。
大友家の実態が何なのか不明ですが、何か大きい権力を持っているような話しぶりだったのが印象的でした。
また、「歌山は大友の庇護下」というような発言をボタンがしていました。
歌山の傍についているボタンですが、歌山に対して恐れる様子が一切ない堂々とした態度が気になりました。
大友家の権力によって歌山は大奥での地位を手にしたという説はどうでしょうか。
そうするとボタンの強気な態度やこの発言にも合点がいきます。
時田家
時田家は御中臈の時田フキ様と、その弟の三郎丸。
フキ様は天子様からの寵愛を受けており、「このままいくと跡取りはフキ様」という噂も囁かれていました。
同じく御中臈でありながら夜伽には興味がないボタン様ですが、「時田家が力を持っては困る」との発言がありましたね。
このままフキ様が跡継ぎになってしまうと、時田家が権力を持ってしまうのでそれは阻止したいというのがボタン様の本音でしょう。
ボタン様の何気ない発言一つですが、「大友家と時田家が対立していること」や「現状の権力は大友>時田」であることが読み取れました。深いセリフですね…。
また、表からの使いで大奥にやってきた三郎丸ですが、フキ様の地位によって同じく時田家の三郎丸に振られた仕事であることが平基との会話で分かります。
要はコネ仕事といったところでしょうか。
時田家もある程度の権力を持っているのですね。
先ほど寵愛を受けることを自身の目的としているとフキ様を紹介しましたが、実は天子様に取り入り時田家の権力を強めることが狙いの可能性も大いにあります。
キャラクター相関図を見た時から、フキとボタンにだけ苗字が書かれていることが意味深で気になっていました。
時折名前が挙がりながらまだまだ謎の多い存在。
次回作以降で大友家vs時田家の勢力争いが起こるのではないかと考えています。
また、最後に一瞬だけ今は亡き歌山様の空の玉座が映ったのを見逃しませんでした。
この椅子を奪い合うことになるのか、トップなき大奥はどうなるのか、大奥の今後へ期待と妄想が肥大するばかりです。
モノノ怪にしては珍しく、キャラクターひとりひとりの心情を読みながら観る作品だったので、強く美しい女性たちに魅了されました。
全員とても魅力的で、深掘りするあまり長い記事になってしまいましたが、ご一読いただきありがとうございます。
モノノ怪に対する止まらない愛と考察を記していくので、他の記事もぜひ読んでもらえますと幸いです。