ジャパン・ナショナル・オーケストラ
一昨日、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)の演奏会に行ってきました。JNOは、2021年のショパン国際ピアノコンクールで第二位に入賞したピアニストの反田恭平さんが中心となって活動する、今注目のオーケストラです。
「オール・ベートーヴェン・プログラム」ということで、演目はすべてベートーヴェンから。序曲コリオラン、交響曲第2番、ピアノ協奏曲5番「皇帝」が演奏されました。アンコールは二つありましたが、そのうちの一つはベートーヴェンの弦楽四重奏曲(9番)で、もうひとつはシューマンのピアノ曲「トロイメライ」でした。
コリオランと交響曲2番は反田さんが指揮を務め、「皇帝」は反田さんの弾き振りでした。弾き振りを見たのは初めてだったので、面白かったです。
演奏は洗練されていて、聴きやすかったです。大編成ではないので、迫力はそこまでありませんでしたが、聞きどころの多い演奏でした。ソロで活躍している方が多いこともあってか、ソロパートの部分がとくに聞き入ってしまいました。オーボエもフルートもとても好きでしたが、ホルンがとりわけて美しい音色だと思いました。自分が慣れ親しんで聞いていたグールドとトロント・シンフォニーの「皇帝」では、ホルンがいまいちだったので、「こんなにホルンが綺麗な曲なのか!」とびっくりしました。(これです↓)
ただ個人的には、弦の伸びやかさというか、ベートーヴェン特有のうねるような弦の響きが、少し物足りなく感じました。交響曲第2番では、交響曲第3番「英雄」を予告するような激しい弦の響きがありましたが、激しくうねる波のような、危険にも思えるような躍動感がもう少しあったらと、聴き終わった後正直に思いました。
反田さんのピアノは、音色、音量、技術の面で圧倒的でした。ミスタッチがほとんど無いのはもちろん、オーケストラに負けてしまいそうな小さな音にも、しっかりと重みと感情を託しており、反田さんの描く皇帝の輪郭が細かな部分まではっきりと目に浮かぶような演奏でした。聴いているほうがミスタッチしてしまいそうでハラハラする部分なども、強弱、陰影をつけながら演奏されていて、自分の予想をはるかに上回る回答をそのたびにみせつけられました。解釈に関しては、全体のテンポのなどは一般的な演奏と比べてたいした差はないと思いましたが、所々の揺らしかたは彼独特のもので、なかなか、賛否の分かれるところだと思いました。とくに第二楽章から第三楽章へ向かうところで、テンポをかなり落としていました。もちろんテンポを落とすという指示のあるところなのですが(多分)、やや、やりすぎな感も否めませんでした。
また、個人的な好みとしては、彼の歌い方はあまり好きではありませんでした。例えば、盛り上がってきて感情を解放してほしいところ、そのまま突き進んで欲しいところで一瞬「タメ」がつくられて、(自分の)タイミングが一歩遅れたりしました。ほんのわずかですが、盛り上がってきたところで一歩遅らせる(タメをつくる)のが反田さんの癖なのかもしれません。アダージョの第二楽章など、テンポのゆったりとしたところは、たっぷりすぎるほど歌うのが反田さんの流儀ですが、それがくどく感じてしまうことがありました。反田さんらしさといえばそれまでですが、個人的には、歌いすぎると冷めてしまうというやっかいな性質があるので、そこはどうしても好きにはなれませんでした。
高いお金を払ったので、やや小言めいたこともいいましたが、総じて楽しい演奏会、音楽体験でした。JNOがこれからどんなふうに発展して活躍していくのかということも気になりますし、機会があればまた足を運んで聴きたいと思いました。