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ネオ・ヒューマン感想
タイトル:NEO HUMAN ネオ・ヒューマン―究極の自由を得る未来
著者:ピーター・スコット・モーガン
訳者:藤田 美菜子
ジャンル:自伝
本の触れ込みについて
著者のピーターさんは、全身の筋肉が動かなくなる難病、筋萎縮性側索硬化症《きんいしゅくせいそくさくこうかしょう》(ALS)という病気です。
ピーターさんは持ち前の開拓精神と科学に対する知識を活かして、病に対抗します。
なんとサイボーグのように、身体を少しずつ機械に取り替えていったのです。
本の表紙、帯には「世界最先端のテクノロジーに関する本」「人類初・AIと融合し、サイボーグとして生きる科学者」等あるのですが、正直そのあたりは良く分かりません。
9割が自伝なんですよね。ピーターさんの体験した過去のできごと、現在のできごとを行き来しながら、俺はこう戦ったぜ!と書いてあるものをずっと読む、みたいな本だと思った方が良いです。
かくいう私も、ピーターさんが機械に換装していく段階の具体的な処置や、本人の心理などが知りたく読んでいたのですが……
思いのほか、病気になった日のこと、その当事者としての苦しみが鮮明に書かれていて、そちらに惹かれました。
自分も障碍者だからかもしれませんが。
障碍者になる -エスタブリッシュメントからの転落
ピーターさんは、ロンドンの由緒正しき支配者階級家系に生まれました。
ウィンブルドン公園の傍にあるキングス・カレッジ・スクールという王立パブリックスクールに通い、部活でフェンシングとかやっちゃうレベルのお坊ちゃん。
家族親類にも叙勲者、政府高官、大学役員、社長に会長がいっぱい。
学生時代には、ピーターさん個人のホモセクシャリティに関する問題で、校長から鞭打ちを食らいそうになります。
フェンシング主将の立場や演劇部、ハウスマスターといった一種の権力の象徴をはく奪され、鞭打ちを免れます。
イギリスって日本と環境が似ているせいか、こんなところも似ていますね。体罰文化、同性愛への強い偏見。
ピーターさんは憤り、同性愛者というアイデンティティを包み隠さず生きることにして、エスタブリッシュメントの環境を棄てました。
やがて人生のパートナーであるフランシスさんとも出会い、イギリスで結婚式を挙げた最初のゲイカップルとなるなど、なかなか幸福な人生を送っていたのですが……。
2017年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断され医師から余命2年の宣告を受けて、障碍者となります。
著書内では、障碍当事者としての体験がつづられています。
これまで周囲から少なくとも〝一目置かれていた〟私が、今ではただの阿呆も同然になってしまったこと。もはや私は、認識されるにも値しない人間なのだ。
障害当事者であればみんなが通る道。
私も発症当時、同じことを感じました。
日本だけではなく他国でも、こういった扱い、差別のような風潮は、変わらずあるようです。
潮っぽい、魚っぽいにおいが漂ってくる。私はいつでも、活気あふれる港の香りに心をそそられてきた。
しかし、気管に人工呼吸器を通すことになれば、においはわからなくなる……集中しろ。カモメの声に耳を澄ますんだ。まだ、カモメの声を聞くことはできる。
病の進行にあわせて、今まで当たり前にできていたことが減って、できなくなっていく。切ないですよね。
これまで生まれた家系、頭の良さ、経歴などで一目置かれる存在であったはずのピーターさんですら、”障碍者”になった途端に除け者に。
ピーターさんはこの経験をもバネにして、自らのサイボーグ化へと進んでいきます。
AIと人類の共生
ピーターさんは2022年6月15日に64歳で死去されました。
ピーターさんはまだ体が動かせる段階で、前もって胃ろうや人工肛門・ぼうこうを付ける手術を一気に受けます。
気管を切開し、人工呼吸器も装着。体に多くのチューブがつながった状態でも操作できる電動車椅子を用意。さらに、デジタル空間の中にコンピューターグラフィックス(CG)で自分の分身「アバター」を作成。事前に録音した自分の声をもとにした合成音声と、視線による文字入力システムを組み合わせて、声が出せなくてもあたかも自分が話しているような世界を作り出しました。
こうして少しずつ自らをサイボーグにしていったピーターさんですが、彼が目指した未来について、下記のように触れられています。
このままでは我々は、”AIが独自に発展していく未来”に突入していく。こちらの未来では、必然的に人類は時代に取り残されることになる。一方で”AIとのコラボレーション”を選べば、ヒトだけでもAIだけでも不可能なことを実現できる未来が到来する。
ChatGPTの登場や、AIイラスト問題等、目に見える形でヒトの世界を侵食し始めたAIツール。
ピーターさんは”サイボーグ”のようになることで、不治の病に一縷の望みを残しました。
AIとヒトが淘汰しあうことなく共生し、うまく取り込んでいけたならば、不治の病に対する医療以外での攻略も、いつか叶うかもしれないですね。
そんな可能性を感じる自伝でした。