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アニメ「魔王2099」はストーリー構成に技あり アニメ感想&分析

原作:紫大悟
監督:安藤良
シリーズ構成:百瀬祐一郎
キャラクターデザイン:谷川亮介、諏訪壮大
音楽:加藤達也
アニメーション制作:J.C.STAFF

あらすじ

統合暦2099年――不死の王国を統べていた、伝説の魔王・ベルトールが滅びを迎えてから500年――魔王再臨の刻、来たれり。

電子荒廃都市『新宿市』。天を貫く超高層ビル群、錯綜する極彩色のネオン光――魔導工学の技術革新によって栄光ある発展を遂げた、究極の未来都市。魔王が降り立った世界は、かつての絶対支配者を置き去りに、驚愕の進化を果たしていた――。

巨大都市国家が手にした、華々しい繁栄。しかし……その裏に隠されていたのは――恐るべき“闇”だった。輝かしくも荒んだ“新たな世界”を再び支配すべく、魔王は未来を躍動する!

Amazon書籍ページより

元々は第33回ファンタジア大賞の大賞受賞作であり、2021年1月から富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)より刊行。

作者の紫氏はゲーム好きであり、「エンターテインメントとして面白いだろう」と考え、本作はゲームや映画から蓄積して、自分の中に落とし込んだ世界観が描かれている。過去に紫がSFに寄った似たような作品を応募した際に、若干のとっつきにくさがあると選評で指摘を受けた経験があった。そこで紫は、本作ではわかりやすいファンタジー要素を積極的に取り入れ、ハイファンタジーな世界観に電脳やネットワークといったSF的な世界観を掛け合わせ、かつ作品としての楽しさを優先し、小難しくならないよう注意して描いている、とのこと。

なんてちょうどいいカジュアルSFなんでしょう

まずタイトルが強すぎる!!
一発で分かる内容、サイバーパンク2077を思わせるSF感、何が起きるか分からない期待感、皮肉を混ぜたログライン。完璧なんですこのタイトル
話題になるのも当然といえましょう。

実際に鑑賞してみると、魔王や勇者・魔法が出てくるファンタジー世界と、近未来SFの技術が融合し、上手い具合に醸成されています。
SFは堅苦しい上に小難しいのが弱点なんですが、アニメではSF的設定が好きなキャラ達にバババーって喋らせるのみに留めて、最低限の情報しか開示してないんですよね。これが上手い!
この手法によって、「難しい話はちょっと……」と敬遠してしまう層を引き留め、ファンタジーの方向性で楽しませることに成功しています。
ちなみに設定やメカ・ロボの多くは攻殻機動隊やメタルギアをオマージュしているので、好きな方はおっ!と思う筈です。

構成の巧みさ

そして何より、アニメ全体の構成が巧みです。

Chapter1電子荒廃都市・新宿(1話)では、魔王・ベルトール=ベルベット・ベールシュバルトが勇者に敗北。
やがてベルトールは復活し、早速世界征服をもくろむのですが、世界は彼が眠っていた500年の間に大変動を起こしており、現実世界とファンタジー世界が合体してサイバーパンクのような都市世界になっていました。
魔王ベルトールは新宿を掌握しているかつての部下マルキュスに会いにいきますが、裏切られて無碍に扱われたあげく、その辺のチンピラにも敵わない始末。
俗に言う「復讐もの」の、クビシーンや追放シーンに近いです。

続くChapter3【初配信】魔王ベルトール復活の時である!(3話)では、魔王の力の源である信仰力を得ること、そして金銭を稼ぐためになんとYoutuber配信を行うことになります。ここで若者に人気のYoutuber・配信要素を回収。
個性的で顔も声もいいベルトールは人気配信者になり、チャンネル登録100万人を達成。復活してから知り合った友人・高橋の危機に出くわしたベルトールは、100万登録による信仰力を試しがてら、1話でボコられたチンピラをボコボコにやり返します
これはまさにライトノベル界隈で話題の「ざまぁ」展開ですね。
以降のベルトールは基本的に最強の扱いになります。もともと魔王で不死という設定だしね。

Chapter4新宿市の影(4話)にて、同胞である不死族がマルキュスによって都市全体のエネルギー源にされていると知ったベルトール。時を同じくして、部下でありほぼ内縁の妻同然であるマキナが攫われてしまいます。

Chapter5坩堝の底(5話)でマキナの危機を知ったベルトールは、かつての宿敵である勇者グラム(勇者がグラムっていう名前もSF好きだと結構ンフフってなる)に頭を下げて、協力を依頼します。
この話では、部下のために頭を下げる魔王の懐の深さや、宿敵である勇者との絆を感じて、登場人物達の魅力にぐいぐいと引き込まれていく

Chapter7魔王再誕(7話)にはキッチリと魔王らしい強さを発揮し、マルキュスへの制裁とマキナ救出を達成します。

ここまでの流れを見ていただいても分かるかと思いますが、この作品、とても「売りに」来ています。
話題になっている要素は全て抑えたうえで、テンプレートだらけの現状に飽き飽きしている読者達を取り入れるため、【魔王と勇者】という爆弾ファンタジー設定エッセンス程度のSFを使っているのです。
一見ふわふわしたギャグアニメっぽく見せながら、手堅く購買層を掴み、かつ上澄み的に浮上している無購買層を回収しようとする意欲作でもあるのだ。

廃れてしまったSFジャンルの復権の形

こちらの記事では、日本におけるSFというジャンルの歴史と、それを支えたゲームというメディアについて論じられている。

90年代に日本SFは「冬の時代」と呼ばれる、SF小説が売れない時代が続いたのですが、代わってこのジャンルを担ったのがゲームメディアでもあります。
この時期に有名SFゲームの世界観から影響を受けた作家達が生まれ、SFというジャンルに新たな旋風を巻き起こしたという流れがあるのですが、「魔王2099」の作者・紫大悟氏もゲーム好き。
「魔王2099」作品設定を見ていても、メタルギアや攻殻機動隊、サイバーパンク2077、FF7などの片鱗を感じる部分が多々あります。

もしかすると古参SFファンの人々は不服なところもあるかもしれませんが、SFというジャンルの復権はやはり彼らのような「ゲームメディアからクリエイティブを志した」人々によって成されているのは、もはや疑いようもありません。
ライトノベルやアニメというマルチなメディアでも広がりつつある新風、今後も彼らの創り出す未来世界に注目していきたいです。

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