見出し画像

【本】誰がために鐘は鳴る(下) 感想

こちらの続きです。

橋爆破作戦と、不穏な予感

上巻の最後で少しずつ語られていたものの、作戦は友軍になる予定であったソルド達が殺されてから、暗雲が立ちこめ始める。
手相が見えたりスピリチュアル的な勘が鋭いピラールも落ち着きをなくすことが増え、作戦直前には「手相のことで少し言ってしまったけど、あんたは成功するから気にするなイングレス」と言ってくる。余計に気になるで!?
ジョーダン自身、何となく嫌な予感を覚えていたのか、夜が来るたび衝動に任せるようにしてマリアと愛を誓い合います。

パブロくん

そんな中、反ファシストゲリラのリーダーでピラールの夫であるパブロは、ジョーダンがやってきた時から「腑抜け」「根性が腐ってる」等々とボロクソに叩かれていたわけですが、ついに行動を起こします。
なんと、ジョーダンの作戦で仲間や自分が死んでしまうことに恐怖を抱き、作戦の要となっているダイナマイトと起動装置を盗みだし、川に! ポーイと!! 捨てちゃったんだ☆テヘ!!
と言って飄々と戻ってきました。
ただし捨てた後になって仲間を見捨てることへの罪悪感にとらわれ、ソルド達に代わる援軍を連れてきてくれました。もうジョーダンはカンカンを通り越して呆れ果ててしまい、この腐れゲリラ野郎がくらいのことをずっと心の中で毒づいてます。
さらに結局作戦に加わって活躍するパブロですが、いざ戦闘になったときにその連れてきた仲間を土壇場で裏切って撃ち殺すとかいうワケワカラン行動をします。ジョーダン(この人殺しが……)
パブロは登場時から一貫してトリックスターとして動いており、敵か味方かはっきりしない、いつ何をするか分からない、物語にスパイスを加える存在として良い味出してますね。

戦争という〝いま〟を生きる

ジョーダンは火薬の不足を手榴弾で補うことにし、橋に直接仕掛けて起動させることで、橋の爆破を完遂します。
しかしながら、フェルナンドやアンセルモは戦闘と爆破に巻き込まれて死んでしまった。ジョーダンは爆破の余韻で現実味のない中、ゲリラ組と一緒に撤退するも、途中で撃たれて馬の下敷きになり、重傷を負います。
彼はマリアをパブロ達に託して、彼らが逃げる時間を稼ぐために追撃してくる敵軍を狙い撃ちしようと、痛みに耐えながら隠れて待ちます。物語は、ジョーダンが生き延びたのか死んだのか、パブロ達がどうなったのか分からないまま終わりを迎える。

この作品において光っていたのは、迫真的といえる戦争の現実や人々や国の姿を描いたことよりも、心情描写にありました。
傭兵という立場から見える共和国軍とファシスト軍の煩雑さ、マドリードの素朴な光景に感じるもの、マリアとの愛やセックスを通して描かれる未来への渇望、過酷な戦争中頭をもたげる現実味のない妄想、死の間際に感じる恐怖と切望、そして何のために生きて死ぬんだろうか、という自問自答。

アグスティンはジョーダンとの別れを前にして言います、「戦争なんてゲスもいいところだな、くだらねえったらねえ」
上巻の冒頭にあったジョン・ダンの詩で、「誰が死んでも私の一部が死ぬ わたしもまた人類の一員なのだから 誰のためにあの弔鐘は鳴っているのかと あれはあなたのために鳴っているのだ」と言っている通り、この激動の時代に生きて戦争を目の当たりにしたヘミングウェイが、ひしひしと感じたであろうこんな想いが、強烈な心情描写から伝わってきました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集