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霧ヶ峰、その懐かしき高原風景

「 妙な言い方だが、山には、登る山と遊ぶ山とがある。
 前者は、息を切らし汗を流し、ようやくその頂上に辿り着いて快哉を叫ぶという風であり、後者は、歌でも歌いながら気ままに歩く。
 もちろん山だから登りはあるが、ただ一つの目標に固執しない。気持のいい場所があれば寝ころんで雲を眺め、わざと脇道へ入って迷ったりもする。
 当然それは豐かな地の起伏と広闊な展望を持った高原状の山であらねばならない。
 霧ヶ峰はその代表的なものの一つである 」

 深田久弥著・『日本百名山』より



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 毎年信州に行くのなら、厳しい登山ばかりではなく、たまにはこのような「遊ぶ山」を優雅に楽しみたいものだ。
 しかし、せっかく西日本から遥々と信州まで出かけるのだから、やはりいつも通り北アルプスや八ヶ岳にするかなぁ ・・・
 だが、今年の夏の酷暑はことさら厳しくて、とてもアルプス山行に備えての事前トレーニングどころではなかったしなぁ・・・

 などと逡巡した挙げ句、結局今回は楽な方に流れて諏訪湖の北東に広がる霧ヶ峰高原に向かうことにした😅


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 霧ヶ峰は1600〜1900メートルの標高にあって、約3000ヘクタールの面積を持つ広大な高原地帯だ。

霧ヶ峰概念図(使用済み ^⁠^⁠))

 今はすっかり観光開発が進んだので、誰でもバスやリフトを使えば霧ヶ峰インターチェンジから延びる大草原や標高1925メートルの車山山頂に立つこともできる。

山頂神社

 混雑と行列待ちを覚悟するなら、車山の肩に立つ人気の山小屋『ころぼっくる・ひゅって』で名物のボルシチセットを味わうのもいいだろう。

「ころぼっくる・ひゅって」


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 このあたりで少し音楽がほしいところだ。

モーツァルト
クラリネット協奏曲 K622  第2楽章

 本来の霧ヶ峰の自然の美しさを味わいたいなら、山頂から北西に足を一歩踏み出して蝶々深山ちょうちょうみやま物見岩ものみいわ方面に向かえばよい。
 戦後まもなくの登山ブームの頃まではこうであったろうと思わせる昔ながらのたおやかでゆるやかな起伏の緑の草原や広大な湿原がどこまでも続いて、懐かしい気分が胸に湧き上がってくる。

車山湿原

 ありきたりな表現を使うならば、そこには文字通り『アルプスの少女ハイジ』や『大草原の少女ローラ』の風景がそのまま広がっていると言えば分かりやすいだろうか。

 僕たちは、草原に腰を下ろしてゆっくりと珈琲を沸かしたり、スケッチをしたり、昼寝をしたりしながら長い時を過ごし、それに飽きれば再び歩き始めたとしても、日暮れ前には麓のヒュッテまで戻って来ることかできる。


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 今回は沢渡さわたりの森の中にあって昭和27年から続く山小屋「ヒュッテ・ジャベル」に滞在した。
 新聞やテレビを見ることもスマホを開くこともなく、クーラーも扇風機も不要な高原の日々を過ごすうちに、いつしか季節や世事のことなど忘れてしまっていた。
(noteのことは頭の中にひと欠片かけらもなかったことは言うまでもない💦)

「ヒュッテ・ジャベル」
「霧鐘塔」
強清水こわしみず・忘れ路の丘)

 最終日、霧ヶ峰に別れを告げて上諏訪駅から列車に乗り、塩尻から「特急しなの」に乗り換えた。
 そして名古屋駅のホームに降り立った途端、ムッとする暑気に晒され、今がまだ夏の最中であったことを思い出して軽いショックを覚えた…



※  こういう時こそスケッチだろう、と言われそうですが、今回はリアリティを優先して、敢えて現地撮影フォトを掲載しました。