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【読書感想文】現代アート経済学

イントロダクション

アートは政治と経済に密接に関係している。美学や美術史の観点ではなく、アートというものがいかに経済活動(投資)に関わっているかを解説した本。一般企業に勤めながらアートコレクター活動を20年続けているという、宮津大輔氏が解説。

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ポイント1.日本の文化予算について
日本の文化予算は2012年で1020億円。2023年は1077億円だ。これは国民1人当たりで約900円であり、フランスや韓国の8分の1程度にとどまる。加えて米国の様な、文化・芸術への寄付の文化もない。

一方、アートは経済の面で地域や企業活動に影響を与えた事例は多く、おもしろいところではリヒテンシュタイン公国は歴代侯爵家のアートコレクションがおよそ62兆円となっており、各国への貸与などでお金を稼いだり外交のカードにしている。

日本でも文化庁がアートフェアへの出展支援事業を始めるなど、アートの産業化の兆しは産まれていると筆者は言う。ただ、国際的には何週も遅れているのが現状だろう。

ポイント2 ゴッホはもう生まれない
フィンセント・ファン・ゴッホが、天才ながら生前は正当な評価を得られなかったことは有名であろう。筆者は良くも悪くも、情報や地理的格差がなくなりつつある現代では、「世の中で評価され後世に名を残すことは、アーティスト本人の努力だけでは、極めて難しい」と指摘する。
・作品をプロモートし販売するギャラリスト
・作品の成り立ちを分析し解説してくれる批評家
・作品を体系的に展示するキュレーター
・作品の購入、展覧会時には所蔵物を貸し出すコレクター
こうしたアート界のプレイヤーたちが協働して価値づけをしなければ、世の中で認められないからだ。

ポイント3 横浜トリエンナーレによる経済波及効果

筆者によれば、日本で最初の本格的な大規模国際展は2001年開催の「横浜トリエンナーレ」である。

その10年ほど前から、アジア各国では韓国の光州ビエンナーレや、中国の上海ビエンナーレ、台北ビエンナーレと周辺国で次々と大規模国際展が立ち上がった。これらが政治的メッセージも強く発するタイプだったので、横浜トリエンナーレは逆に地域一体:都市起こし型の展示になったそう。

最初は赤字スタートだったが、第3回でほぼトントンに、今では黒字になって横浜市にお金を増やしている。

驚くべきは、物品・サービスの調達費と、周辺での消費を合わせた経済波及効果が50億以上となっていることだ。横浜市が拠出している予算は約5億なので、約10倍のリターンを得ている。このように地域振興にとって有益なのである。さらに、数字以外の効能として、世界各国の著名アーティストが横浜で活動をしてくれるようにもなった。

こうしたかいもあってか、現在、あいちトリエンナーレや瀬戸内芸術祭など、都市起こし型のアートフェアは増えている。

ただし、国際展が増えれば自ずと淘汰が始まる。

韓国の光州ビエンナーレのように政治色の強いアートフェアは、政府主導でダイナミックな施策・人材育成しやすく、回を追うごとに開催も洗練されている。都市起こし型は、そういう意味ではハンデがあるそうだ(あまり筆者は明言はしてないので推測)。安易な都市起こしとしての投資ではなく、長期的な目線をもって開催されることを願う。



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