【読書感想文】砂糖の世界史 【前編】
イントロダクション
砂糖という切り口から近代史の流れを観ていく本。背景にある人々の暮らしや物語が浮かびあがってくる。ジュニア新書ではあるが、学生だけでなく社会人にとってもとても学びのある本だった。2回に分けて感想を紹介する。
ポイント1.砂糖は世界商品
世界中に行き渡り、求められる商品のことを本書では「世界商品」と呼ぶ。そして、砂糖は世界商品である。
砂糖は世界中の人々に好かれている。実は甘いものが生まれつき嫌いという人間はおらず、人類の甘いもの好き本能によるものだという。お酒の好きなおっさんが「甘いものは嫌い」というのもあるが、それらも後天的なものだ。
世界商品には他にも石油や綿織物があるが、実はハードルは高い。例えば、毛織物は寒冷な地域ではインフラであっても、インドやアフリカではほとんど売れない。その中でも砂糖は文句なしの世界商品だ。
ポイント2.砂糖と奴隷制度
世界商品は当然、覇権国家が手に入れようとする。大量に砂糖を生み出すには、さとうきびか砂糖大根(ビート)を生産するしかない。
ビートが普及したのは19世紀であり、当然サトウキビを作らねばならない。サトウキビは適度な雨量と温度が栽培に、加工に重労働が必要であった。これらの条件を満たすために、カリブ海の諸島やカナリア諸島などに黒人を連れて作らせる、奴隷制度、奴隷貿易が横行した。
カリブ海の島々は先住民のインディオを押しのけてイギリス領とフランス領になり、16世紀あたりから、黒人奴隷が連れてこられ、サトウキビプランテーションを展開するようになった。
そのため、現地はひたすら砂糖という世界商品を生産するための「モノカルチャー」経済に強引に移行した。これは現在に至るまで社会や経済の発展を押し曲げることになった。
「砂糖きびが本格的な奴隷制度をもたらし、生活習慣を一変させたという現象は、これ以降サトウキビの広がった地域全てにみられたこと」と著者の川北 稔氏は語る。
ポイント3 砂糖と茶の遭遇
カリブ海の周辺で砂糖の生産体制が整った17世紀。それ以前、16世紀ごろまでは砂糖は薬品として扱われていた。多くの人々が慢性的に栄養不足だった時代、高カロリーな砂糖を摂るだけでも効果はあったのだろう。12世紀のビザンツ帝国では解熱剤として重宝されていた記録が残っている。
また、17/18世紀には紅茶やコーヒーがイギリスに持ち込まれた。茶はもともと中国のもので、この時代までイギリスにはなく、健忘症に効くとされたていた。つまり紅茶と砂糖、この両方は当初薬品扱いで、高価だったのだ。
この高価さが、貴族階級にとってはステイタスだった。紅茶と砂糖の併用で二重にステイタス・シンボルである。薬品扱いなので、宗教家から「堕落」と扱われることもなかった。
ところで、士農工商と身分制度とその風俗が分かれていた日本では想像しにくいが、イギリス人は上流階級の物まねをしたがる国民性を持つ。むしろ贅沢できるものが上流階級という意見もあり、上流気取り「スノッブ」がイギリス国民の特徴だという。
この国民性と奴隷制度を背景に、当初ステイタスの象徴であった砂糖と紅茶のセットは、上流階級から始まり、生産体制が整い価格が下がるにつれてイギリスに爆発的に広がっていく。
後編で、より現代に近づきながら、砂糖がどのように文化や工業化を進めていったかを紹介する。