ドラマ『海のはじまり』第11話感想 未来志向と過去志向
博多駅から東京行きの新幹線『のぞみ』に乗り込んだ。2列シートの窓際の席に腰を落ち着ける。夕闇に包まれていく街並みが車窓を流れていく。小倉駅に着き乗客が乗り込んでくる。
「これは奇遇ですね」
その声に私は右隣の座席を見た。古居真郎、通称マーロウが座っていた。
古居真郎の登場の経緯はこちら↓
「マーロウ、君も仕事で福岡まで?」
「まあ、そういったところです。ところで『海のはじまり11話』ご覧になられましたか?」
「あゝ観たよ。さすがに今回は後味が悪かったな。主人公の月岡夏が可哀想すぎる。彼があんなに周りから責められる理由が分からない」
「確かにそうですね。事の発端は南雲水季ですからね。巷では『水季の呪い』なんて話も飛び交う始末です。そこでもう一度南雲水季の言動を振り返ってみましょう」
マーロウが指を鳴らすと私のスマホに文章が映し出された。そのカラクリは相変わらず私には分からない。仮想現実的なマーロウだから可能なのだろう…
南雲水季の軌跡(南雲水季の母性)
「水季の言動をまとめるとこんな感じでしょうか」
「そうだね。これらの水季の行動が後になって夏の呪縛となっていくわけだな」
「果たしてそうでしょうか?」
「どういうことだ」
「私が言いたいのは、これら水季の行動は月岡夏にとっては実害がなかったということです」
「うーん…」
「つまり、夏にとって実際に影響を受けるのは、 水季が亡くなり海が夏を訪ねて、夏が海の存在を知ってから、なのです。この条件が揃わないと、水季の『仕掛け』は発動しません」
「確かに…」
「この水季の『仕掛け』つまり、夏が海の存在を知り、夏が海を認知し父親として育てる決意をして、水季が夏や恋人に宛てた手紙が読まれる。こうなる可能性は極めて低くて水季もそれを分かっていたでしょう」
「そうだな。夏が引っ越ししている可能性。夏が海を認めない可能性…そういう可能性が高いわけだしな」
「ええ、そうです。だから私は『水季の呪い』ではなく『水季の母性の発現』だと思います。僅かな可能性だけど我が娘である海に選択肢を残しておきたいという母性だった」
津野晴明と南雲朱音の原罪
「では何故に水季の『仕掛け』が発動したのか、それは津野晴明と南雲朱音が引き金を引いたのです」
「葬式の時だな」
「どういう縁があったのか、夏に水季の葬式の連絡が来てしまいました。夏は律儀に水季の葬式に参列し海と出会い、津野は月岡夏の存在を知り、それを朱音に教えてしまいました。これが引き金となりました」
「海にすれば月岡夏という父親を現実に認識したわけだ」
「葬式での出会いがなければ、海は一人で夏の家まで行かなかっただろうと思えます。小学一年生の海は見ず知らずの父親に会いに行けたかどうか…」
「津野が朱音にわざわざ知らせなければ、別の軟着陸の可能性もあったわけだな」
「おっしゃる通りです。葬儀の参列者名簿があったはずです。後で朱音がそれをみれば夏が参列していたことも分かりますし、その後の対応は今とは違ったものとなったでしょう」
ズレた視線
「そういう意味では津野の存在が今の状況の元凶となったわけか」
「ええ、津野の嫉妬が招いたことでしょうね。彼は月岡夏と南雲水季の事情も全て分かっていたはずです。それなのに嫉妬から夏に暴言を吐くとは…情けないですね」
「そうだな。『南雲さんがいた時もいなくなった時もお前いなかったもんな』なんてどの口が言うねんって感じだよな」
「夏からすれば水季は7年も前にいなくなった存在ですからね。当然『水季はもういない』わけです。『いるいないの話しをしているのは月岡さんだけ』なのは当たり前です。だから夏の視線は未来に向かざる得ないでしょう。でも、海や津野や朱音は過去を向いたまま。過去にいた夏の知らない7年間の水季の存在を覚えているわけですから」
「だから海と夏の気持ちにもズレが生じたわけだな」
未来志向と過去志向
「はい…未来志向と過去志向の違いですね。過去志向の人達から夏は責められて可哀想ですね」
「このすれ違い、どうにかならんもんかね」
「うーん、やはり百瀬弥生の存在ですかね、それと水季が夏に宛てた手紙、それらが指向性の違いを修正できればいいのですが…」
「そうだな、それしか残ってないもんな」
その時、電光掲示板に「ただいま西明石駅を通過しました」という表示がされた。
「次で降りるよ、マーロウ」
「私は新横浜まで行きます」
「最終回どうなることやら、だな」
「ええ、皆が幸せな結末ならいいのですが…」
追記
この第11話で初めて気になったが、南雲(月岡)海を演じる泉谷星奈ちゃんの歩き方がぎこちなく感じた。脚か股関節辺りを痛めているかも。目黒蓮がダウンするくらいハードな撮影のようで心配。私の取り越し苦労であればいいのだが…