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死者の眼差し

先日のこと、糖尿病でかかっている医者が、タグチさん、糖尿由来で失明などということもないではないから、眼の検診も定期的に受けなさいなと仰る。

全く金のかかることだが、一応、美術家を名乗る以上、目のほうは商売道具でもあるので(というか、目が悪くなっても構わないという仕事はほぼないが)、ここは万全を期して診ていただくことにした。

さっそく眼科に行って眼底検査というのを受けたわけだが、お医者さんが言うに、この検査には散瞳薬というのを使うパターンと使わないパターンがあるという。

まぁ、使った方が費用もかかるが、見落としもなくて確実ですよと説明されて、それならばとお願いすることにした。

散瞳薬、読んで字の如く瞳孔を開く薬である。

見開いた瞳孔、まるで死体のようだなと思っていると、効果は5、6時間続きますので、その間自動車等の運転はできません、一般の作業もなかなか難しいです、などと説明を受け、いよいよ生ける屍的なことになるらしい。

そんなこんなで、薬を点眼してもらって、どんなものかとドキドキしていたら、30分ほどで視界が薄ぼんやり霞んできた。

おお、いよいよきたなと思っていると、検査室に呼び出され、目の奥を照らされたり、写真を撮られたりして、わりとあっさり、今のところ異常なしとの御宣託を得た。

あら嬉し。

先生には今後は定期的に、次は半年後に来てください、と言われたが、これは1年後で充分だなと頭の中で自己判断して、早々に退散することにしたわけだが・・・。

クリニックを出た途端、猛烈に眩しいのだ。

そう、わたしの瞳孔は開ききっていた。

物が見えないというわけではない、ピントが合わないこともない、露出が狂っているのだ。
室内にいるときは気づかなかったが、一歩外に出るとひなたは凶暴なほどに明るく、目が開けていられないほどだ。

おぉ、これが死体の見ている風景なのかと、少しだけ思ったが、そんなわけはない。

乗ってきた自転車も、当然危なくて乗れなかったので、15分ほど引っ張ってうちに帰ることとなった。

こうして6時間、また1日が無為に過ぎたのである。


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