昼食530円
今日の昼食は十条のとある定食屋でとった。
ここは本当に安い。
もっとも味はそれなりである。
メニューはわりと豊富なので、飽きはしないのだが、そんなに続けて行こうとも思わない。
そもそも、十条に行くのが週一なので、ここに顔を出すのは、だいたいひと月かふた月に一度である。
ようするに、そのくらいの店なわけだ。
さて、そんな様子だから、今日もとくに何が食べたいという考えもなく、ふわっと店に入った。
それでもわたしは、入り口横の食品サンプルを目の端で確認していて、うーん、サバ焼きの気分ではないな、アジフライにしようかなどと、当たりをつけるくらいはしている。
あとは座ってからじっくり考えればいいさと、その程度の軽い気分である。
さて、店の奥、狭いカウンター席に腰かけたその時のことだ、隣の客の前に、ちょうど注文した料理が提供された。
ハンバーグ定食であった。
うん?ハンバーグ、わたしの心は動いた。
実は入口でハンバーグ定食のサンプルも目には入っていた。
だが、今日の自分にはハンバーグは最初から選択肢になかったのだ。
しかしいま目にするハンバーグは、明らかにサンプルより大きいではないか。
定食屋において量は正義である。
中学生以来、男子はみんなそう思って生きている。
たとえ昔のように、無限にカロリーを摂取できなくとも、いや、むしろそれが体にダメージを与えるのだとしても、この青春の呪縛からは逃れることができない。
辛抱たまらん。
わたしは席につくやいなや叫んだのだった。
ハンバーグ。
ほどなくわたしの前にも、料理が並んだ。
内なる中学生のわたしは舌なめずりをする。
まずは何をおいてもと、ハンバーグを一口食した。
そして、最初自分がこれを無意識に選択肢から外していた理由がわかったのである。
多分わたしは何年前だか、とにかくだいぶ昔にこのメニューを頼んでいたに違いない。
そしてその時、心に刻んだのであろう、二度と注文すまいと。
あまりに昔のことで、出来事じたいすっかり忘れてしまって、とにかく忌避する気持ちだけが残ったのだ。
はっきりいってまずい。
もっとはっきりいうと、昭和の頃の◯◯シンハンバーグの味がする。
もっともっとはっきりいうと、肉ではない魚か何かの味がする。
(◯◯シンの名誉のためにいうと、今は牛豚鶏の混合らしいし、あのころ魚が入っていたかどうかも定かではない)
とにかく肉でない何かだ。
こうなると、サンプルより大きい、というのも実に困ったことだ。
というような一連の出来事を頭の中で反芻しながら、それでも出たものは完食した、小雨降る午後であった。