【1分で読了。即興小説】山の恋心
【お題】
山の恋心
【本文】
「おかーさん!」
「おかーさん!」
山々にこだまする甲高い声。
叫び声の主はこの山の麓の村に住む少女。
彼女は道中、母親とはぐれ、一人野山をさ迷っていた。もうすぐ日が暮れる。このままではまずい。
少女は焦りと恐怖で、べそをかきながらも一生懸命叫びながら歩き回った。
すると、草むらから音がした。
唸り声が聞こえる。きっと野犬か狼に違いない。
少女は固まって動けない。
草をかき分ける音、足音がどんどん近づいてくる。多分こちらに気づいている。近づく音が早くなってきている。
少女は意を決してありったけの力で、叫んだ。
「おかーさーん!」
草むらから獣が飛び出してきた。
そして少女に飛びかかった。
少女が頭を伏せ、悲鳴をあげたその時、
ゴトッと、鈍い音がした。
恐る恐る目を開いてみると、目の前には大きな獣が血を流して倒れていた。そして顔をあげるとそこには見知らぬ少年が立っていた。
少女はお礼を言い、現状を話すと、少年はこの暗さで彷徨くのはまずい。とりあえずここで火を起こして夜が明けるのを待つ方が良いと言った。
泣く泣く少女はそれに従い、一夜を明かすことにした。
少年は手際よく獣を捌き、火にかけて調理した。
たくさん食べて元気が出たあとは、少年と少女はたくさん話をした。夜明けはあっという間だった。
朝日が出てすぐに少女と少年は、母親を探しに動き出した。
しばらくすると大勢の村人を連れた母親と再会することができた。母親はなんとか無事に村へ戻れたらしい。
母親と少女が抱き合い、喜びを噛みしめる中、
少年はいつの間にかどこかへ消えてしまった。
この時から彼女は事あるごとに、少年を思い出すようになった。
また会いたいと強く思っていた。
母親にそのことを話すと、それは恋なのだとおしえてくれた。
少女はギュッと締め付けられるような痛みを小さな胸に感じながら、今日もこの村で元気に暮らしています。
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