5年生『合同な図形』のデザイン①:焦点化した問題で子どもが合同条件に着目していく授業
5年生の授業「合同と三角形、四角形」について紹介します。
算数が得意な子の中にも「図形は苦手…」と思っている子もいると思います。
一方、授業をする側も、「図形の領域って当たり前のことすぎて授業のイメージがわかない。」「何のために図形の性質を調べるのか必要性を感じない。(説明で済ませたい)」と思ってしまう場合もあると思います。
この「図形」の領域における「合同と三角形、四角形」の単元をどのようにデザインしていくのか?を板書をもとに振り返ってみたいと思います。
ただ、「デザイン」と言っても、単元の学習内容を全て変えるようなものではありません。
私自身、普段の授業で教科書の問題を大きく変えることはあまりしません。同じ学年の先生、保護者の方、周囲の人が納得いく状況下での実践です。
その制約の中、
少しの工夫(スポットの当て方を変えるだけ)で学習内容の見え方が変わる。日常の中にちょっと楽しい体験を生む算数授業を目指しています。
「合同と三角形、四角形」の単元の概要
この単元の主な学習内容は概ね以下の通りです。
合同の意味と三角形の合同条件を知る。
三角形や四角形(多角形)の内角の和について知る。
今回は「1」を中心に取り上げます。「2」の実践も好きな内容なので、別の機会に取り上げます。
1時間目:合同の意味を知る
1時間目は教科書通りの授業です。
スライドを用い、どれがピッタリ当てはまるかを問います。
合同の意味を捉えやすくするために、「ぴったりだと言えるには、どう確かめる?」と問います。写真中央の「切って重ねる」「重ねて透かす」ことが、合同の意味を子どもなりに理解し始めていると分かります。
その後は、以下の2点を問題の答えを確認しながら明確にします。
・回転しても合同と言える。
・反転しても合同と言える。
2時間目:合同の性質を知る
2時間目は、合同の定義「重なる」ことによって導き出せる性質を捉えます。
図形を配付し、まずは「対応する頂点」を調べます。こういう時の「対応」という用語も確認しておかなくてはいけない内容です。
「頂点→角→辺」と調べて発表を繰り返すと、子どもたちが自然とどんどん答えを言うようになります。
「なぜ調べる時間がいらないの?」と問うと、
角の場合、「頂点と同じ!」と頂点とのつながりが見えてきます。(当たり前ですが)
辺の場合、「頂点を縦で見ているよ!」板書の茶色の線のように「AB」なら「FE」と、頂点の順番と辺の言い方の対応関係に気付いた発言が出てきます。
それを聞いた子どもたちは、「なるほど!全部つながっているんだ!調べなくてもいい!」と喜びながら、頂点の対応関係と辺の関係を見ていました。
全然大した発見ではないかもしれません。しかし、こうした気付きをクラスで共有していくことが、ちょっとした楽しさに繋がっていきます。
3時間目:四角形の中から合同を見出す
対角線で2等分(4等分)してできた三角形が合同かを考える場面です。中学校でも扱う「証明」の内容に近いと思います。
しかし、そもそも「証明」というイメージすら曖昧な場合が多いです。「なぜ合同だと言えるの?」と、子どもたちに問いたくなりますが、あまりこの言葉を使いすぎると子どもたちの追究も止まってしまいます。
はじめに既習の四角形を引き出します。その中で正方形を取り上げ、正方形のもつ性質を確認します。これで困ったときは、「平行四辺形は正方形のどの性質をもっていたかな?」と確認すれば良いのです。
そして、まず正方形に対角線1本を引きます。できた四角形は合同かを確かめていきます。始めは「重ねればいい!」という発言に付き合い、確かめていいと思います。
ただ、そのうち何度も切るのは面倒になってくるはずです。「簡単に確かめられる方法がいいよね」と、証明の方法を確認していきましょう。この場合「全ての辺や角度が同じ」ことが確かめられれば良いです。
この過程を、正方形→ひし形→平行四辺形→台形と繰り返していきます。
正方形:合同
ひし形:合同
平行四辺形:合同
台形:合同ではない
すると「これ対角線2本で分けたらどうなるの?」というつぶやきが生まれました。(つぶやきが引き出せない場合は私が問う予定でした。)
このつぶやきをきっかけに、子どもたちは思考のギアが一段上がったように見えました。子どもたちは自分から図形を分け、合同か調べ始めます。
早々に切り上げ、調べてみた結果を聞くと、
台形には合同がない
平行四辺形は向かい合った2組が合同となる
ことが分かりました。
これが明らかになると、「対角線で作る合同の三角形って、平行が2組必要なんじゃない?」と、新しい問いが生まれました。
「え、じゃあ、正方形は?」と子どもたちが調べると、「4つ全てが合同だ!」と驚きの声。「これは、4つの辺の長さが全部等しいからだよ!」「じゃあひし形は?」などと、さらに考えを深めようとする姿が見られました。
正確には台形も等脚台形であれば、2本の対角線で1組は合同になりますし、長方形は2組の合同の三角形が生まれます。
鍵となるのは、「平行」と「同じ長さの辺」なのです。
ただ、子どもたちの追究する姿が引き出せたことで時間となり、今回の授業は終わりとしました。
このように教科書の問題を思考が途切れないように繋ぎ合わせたことで、子どもたちは性質の特徴を発見し、それを確かめたくなる姿を引き出すことができました。
今回の授業の構造はこのような形です。
「台形には合同な三角形が作れない」という流れとは相反する事実から、「対角線2本なら作れるのか?」をという問いを引き出し、「台形以外の四角形は対角線2本ならどうなるのか?」と問いを連続させ、「平行線が合同な三角形を作る条件ではないか?」と考えを深めるといったものでした。
4時間目:合同な三角形の描き方を考える
いよいよタイトルの通り、三角形の合同条件の学習です。
教科書では三角形が提示され、「合同な三角形のかき方を考えましょう。」となっています。
ここで注目して欲しいのは教科書の子どもが解決する箇所です。
三角形ABCの辺BCは提示され、「頂点Aに対応する頂点をどのように決めればよいのでしょうか。」と問われています。
三角形は頂点が3つあることで成立します。その前提から子どもたちと確認し、学習を進めていきます。
闇雲に作図をさせてしまっても、測定誤りによって合同な図形かけない子もいます。作図の習熟は次の時間に行われるからです。
そこで、子どもたちに提示したのは「長さや角度が書かれた紙」です。
測定の要素を省き、「どこの辺や角の大きさが分かれば合同な図形を作図できるのか」と、考えるべき視点を焦点化(問題を焦点化)するのです。
「どこを知りたい?」
「いくつ知りたい?」
そう投げかけてあげることで、子どもたちは自然と場所と個数に着目していきます。
この手立てにはもう1つ有効な側面があります。
それは、個数だけで会話をすることで、4つで作図できたと思っている子が「3つでできた」という声を聞き、それに触発されてさらに思考を続けようとします。
つまり、子どもたちに試行錯誤して作図する場が生まれます。
仮に、同じ「3つ」だとしても発表した子が調べたところが違う場合、これもまた「そこでもかけるの!?」と交流が引き出されます。
こうして、問題の要素を限りなく要素を削ぎ落とすことで、感覚的、ありきたりになりやすい交流が活性化するのです。
そして、授業の終盤には「合同な図形をかくために必要な情報は辺BCとあと2つ」と、子どもの考えの共通点が見えていくことになります。
私の行った授業では、「1つを見ればわかるのでは?」という疑問が出されたので、子どもたちと考えてみました。
「これだと頂点Aが決められないね。」とはっきりとさせることができるので、できない方法をとりあげるのも理解を深める有効な手段です。
以上が、「合同な図形」の単元デザインとなります。
ありがとうございました。
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