アンリアルなヤンママを取り囲むリアル。 映画『ミッシング』鑑賞
主演 石原さとみ
監督 𠮷田恵輔
すみません、かなり辛口の感想です。あくまでも私個人の感想ですのでご了承ください。
石原さとみといえば法医学系が好きな私は特にドラマ『アンナチュラル』は興味深く拝見しました。陰惨な過去を持つ解剖医が懸命に謎に追及したり挫折しては立ち上がる姿にすごく励まされました。
今回彼女お得意の、やや芝居じみたオーバーなまくし立てがあり、いわゆる“キムタクはキムタク”といわれるような、“石原さとみは石原さとみ”にしか見えないという固定観念が拭えず。主人公は普段から口が悪そうなヤンママの元気な娘が彼女の内向的な弟と公園で別れた後行方がわからなくなり、ヤンママはどうする?どうなる?というストーリー。
石原さとみ自身の、女性らしさ、柔らかい人当たりの良さが見え隠れして本当にヤンママなのか?ヤンママのふりしてるのか?どっちつかずのリアリティのないものに。
子どもが失踪した映画といえば有名どころでアンジェリーナ・ジョリー主演の『チェンジリング』のように事件が解決したようにみえて実は、、という複雑極まりない問題があるわけではなく。あるいは映画評論家・町田智浩氏おすすめトラウマ古典映画『バニー・レークは行方不明』くらいになるとヒョエ~!とどこから出てきたかわからない変な声が出て心臓止まっちゃってたかもしれないハラハラドキドキのどんでん返しがあるわけでもなく。
ストーリーはよくある失踪事件と言いますか。
実際の事件を彷彿させるような、現実に起きた失踪事件にみられるSNS、マスメディアに対する問題提起が目的、というわけでもなく。
この映画に出てくる主人公のヤンママがちょっと理解出来ないといいますか、、。
テレビのようなマスメディアで娘の失踪を流されればかなり顔は知られているはず。
同情を買うだけでなく誹謗中傷はどうしても避けて通れないことは大人であれば想像できるはず。それなのになぜ夫と人目をひくようなレストランにわざわざ行くのでしょうか?
警察なんか当てにならない、自分たちで手がかりを見つけなければ、といいながら警察から娘が無事に保護されたという電話(実はいたずら電話)に少しも疑いもせずにすぐさま駆けつけるのはどうしてでしょう?
その反面人のよさそうな記者に依存してテレビの取材はどんどん受け入れるがなかなか情報提供が来ないからとキレるキレる。
いつも行動は夫と二人。お年を召した自治会の方々に大量にチラシ作成、配布を頼む。しかしだよ、せっかくみかん農場で働いているならばその同僚達や娘の同級生の親御さん等(気を遣っているふりして陰ではコソコソ噂する人はいるけども)もっと周辺の方々に強力してもらい捜索やビラ配りを頼んだ方が広い範囲で情報が得られるような。だって藁にもすがりたい程どんな手がかりでも欲しいんでしょう?
このヤンママさんは普段から周りの人に感謝するなど相手からも信頼されてなかったのでは?なんて余計なことを考えてしまいました。
実際私だって自分の子どもがいなくなったらまず正気ではいられないし、思いがけず気持ちと矛盾した行動を取ってしまうのかもしれない。正常な判断も出来かねるし、自暴自棄にもなるでしょう。
お母さんは毎日忙しい。日頃の仕事、家事や育児の気晴らしでライブに行くこと自体は決して悪いことではない。
姪っ子と公園で遊んだ後家まで見送らず法に触れるギャンブルをしに行く弟、確かに腹は立つだろうけどそもそもヤンママ自身が弟に娘の面倒を頼んだはず。なのに忘れたかのように許せない!とボッコボコに殴ったり、精神的に不安定な妻を見守るしかない優しい夫に直接責めるような言葉をぶつけられたわけでもないのに本当は私を責めてるんでしょ!と決めつけ八つ当たり。
ショックで混乱するのはわかるよ?だけどあまりに身勝手過ぎやしないか?みんなあなたの扱いに困ってるよ。
現実にいるヤンママさん達ってみかん農場の新入りちゃんみたいに一見クールそうでも人情味があったり。それも一概にはいえないけれども~。なんか元からキレやすい母親なのか、あまりに突っ込みどころが多くて主人公に感情移入できませんでした。
近所に類似事件がありチラシの自分の娘との関連性にこだわったと思いきや娘の顔写真をその女の子に替え独断でチラシを作り配るのもう~ん、、。女の子が見つかって心からよかった~と笑顔が溢れるヤンママ。けどそのときはもうあの暴力的なヤンママではなくいつもの“女優・石原さとみ”の顔に戻ってしまってありゃりゃ。
ラストもなんかモヤモヤ。未解決だからモヤモヤなんかじゃなく何かしら余韻があるわけでもなく。はて?
結末をあえて見せず観客にイマジネーションを掻き立てる、、いやイマジネーションどころか同情すら沸かず。
石原さとみが「私(のイメージ?)を壊してほしい」と𠮷田監督に逆オファーしたらしいけど、本当に壊れる演技じゃなくて最初から最後まで能面の母親で実は◯◯とか上手に演じればそれなりに評価が上がったかもしれません。発狂シーンより腑抜けの顔が恐ろしく醜くて、よかった。
何か話題性だけで彼女のイメチェンは成功した、とはとてもいえないのでは。
映画唯一のリアリティがあるシーン。
テレビの取材時、ヤンママが「なんでもないようなことが本当に幸せだったと、、」と冗談のようなフレーズを記者に語るのを聞き私もつい、
“虎舞竜、、”
と心の中で突っ込んだとたんすぐさまスクリーンでテレビカメラマンが
“虎舞竜、、”
と突っ込む。
ついでに高橋ジョージの歌も頭の中で鳴り響く。
よりによって笑ってはいけない深刻な時にかぎって空気読めない邪な気持ちが起こるって現実にはあります。
まさかここで共感するとは。
ここの部分に唯一リアルを感じました。