介護をしている全ての人へ#102 ~ 夜桜
この日の日記には病気と父の債務を背負って弱気になっている母の内心が綴られていた。
2019年4月12日(金) 母の日記
昨日は全く眠れなかった。目を閉じるとそのまま死んでしまうような気持になる。顔を洗って鏡をみると、幽霊のような顔をした自分が映っていた。
悲しくなってポロポロ涙がこぼれて、声を殺すのに苦労する。
長男は、忙しそうに電話をしたり、パソコンで何かをしている。時々深いため息をついている、疲れているのがよくわかる。
夕方、岩本山公園に夜桜を見に連れて行ってくれた。夕暮れ時に小高い丘の上から住んでいる街を眺めていたら少し気分が晴れた。長男が作ってくれた甘い紅茶を飲んだり、引っ越し先のマンションを双眼鏡で眺めたり楽しい思いをさせてくれた。日が落ちて夜景になってもしばらくその場で長男と話をした。「ごめんね」と発するたびに、「謝られるようなことはしていない」となぐさめられた。
やさしい大人に育ってくれた。私が生きているうちに良い人がみつかるといい。
感謝の意味を込めて、お寿司を買って帰る。
2019年4月12日(金) 私の日記
新年度を迎えて、仕事があわただしい。食卓に資料を広げて、仕事をしていると、終わりの見えない仕事に押し流されそうになってしまう。
ため息をつくと、母が心配そうな顔でこっちを見ていた。ため息も我慢しなければならない。在宅勤務は意外につらい。
仕事を終えて、父と母を連れて夜桜を見に行くことにした。
二人とも、来年の桜を見られる保証はない。やってあげられそうなことは全部やってあげたい。海外旅行にも連れて行ってあげたい。
祖父母の面倒を見続けて、働かない父の放蕩を横目に家族を支え続けた母に、息子からのボーナスをあげたい。もっと稼がなくては。
日曜日に引っ越し先の手付を支払ったら、父は宿泊サービスに行ってもらって、母子で小さな旅行に行きたい。
あとどれくらい、息子でいられるだろうか?
Kさんから返信なし。忘れられちゃったか。