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方法:本質的な理解へと近づく

この記事が提供するもの

前提としての課題意識

筆者はこれまで、

  1. 数理:コンパクトで抽象的な知識の有効性

  2. 仮説:理解 = 顕在破綻のない仮の説明

  3. 仮説:「妥当な推論」の構造

  4. 方法:情報の信頼度を評価する

  5. 方法:概念を適切なモデルで可視化する

  6. 方法:分解能を高める

…という記事を、個別に書いてきました。
ひとつひとつの記事でも有用となるように留意し、かつ、有用であることを信じて上記の記事を書いてきました。
しかし、
「で、本質的な理解を得るためにはどうすれば良いんだっけ?」
…という方法について、上記記事をすべて読んでもらった上で個々に推論を巡らせていただくのは、あまり情報伝達の効率が良いとは言えません。

そこで、本記事では背景理論の説明を大胆に省き、なるべくかんたんな形で筆者の考える「本質的な理解へと至るためのプロセス」示すこと…を、課題とします。

課題意識・疑問に対して本記事が提供するもの

以下に示すような「本質的な理解を得る」ためのプロセス案です。

特に「洗練」の工程については、仮説が説明しようとする事象・対象を$${x}$$とした時に、

  • その要素を欠く$${x}$$が存在しうる

  • その要素の有無・強弱・大小が$${x}$$の結果に大きな影響を与えない

…という2要件を満たす要素が捨象の候補となる点に留意してください。

その他の留意事項:本記事における「本質的な理解」とは

本記事では「本質的な理解」を、

  • 状況変化に頑健な信頼性・再現性

  • 高い応用性

…という2つを併せ持つ理解(=仮説)だと位置づけています。

本質的な理解へと至るプロセス

0.事象を「観測」する

理解 = 観測された事象に対する顕在破綻のない仮の説明…という立場から、このステップがないと本質的云々の前に「理解」がそもそも成立しません。
少なくとも1つ以上の事象観測が「理解」の最低要件となります。

1.「何を理解したいのか」を明確にして適したタイプのモデルを選ぶ

「何を理解したいのか」明確な方が、そうでない場合よりも高精度・高効率で理解しやすいことは言うまでもありません。
しかし、特に対象事象への知識・経験が浅い内は「何を理解したいのか」を明確にすること自体が難しく感じる…ということも珍しくないと思います。

そんな時には、「方法:概念を適切なモデルで可視化する」で示した下図が補助線として役に立つと思います。

これはつまり、「何を理解したいか」を明確にするという問題を「最終的に自分が得たい理解はどのような形を取るのか」という問題に置き換え、その問題を先に解決することで、結果として「自分が何を理解したかったのか」を逆算するというアプローチです。

2.必要な説明強度を決める

決定論的でなく確率論的な世界観においては、どれほど信頼できる仮説でも相反する事象に遭遇する可能性をゼロにはできません。
現実世界に対して我々が作る仮説(=理解)の多くは、巨大隕石が落下した状況では破綻を免れえませんが、だからと言って巨大隕石が落ちてくる可能性を考慮に入れた仮説を考えることはまさに語源通りの意味で杞憂です。

したがって、対象領域で発生する事象の何%を説明できる理解としたいか…という説明強度を定めて、観測事象の発生確率と説明強度とを照らし合わせながらモデルを修正していく過程が、確率論的な世界観の中で本質的な理解へ近づくためには必要となってきます。

なお、正常性バイアスの存在を考えると説明強度はなるべく「モデルを作る前」に決めておくことが望ましいです。

3.叩き台としてのモデル(= 仮説)を作る

より良い / 本質的な理解に近づく第一歩は、
「良くない / 本質的でないかもしれないが一応の理解ではある」
…という状態を得ることです。

本当は間違っているかも…という可能性は気にせず、想像の翼を自由にはばたかせて、観測した事象を破綻なく説明可能な仮説モデルを作りましょう。

ここで重要なのは、間違いが起こった時にどこが間違いだったかを指摘可能な水準で十分に仮説モデルが明確なことです。
先に掲載した「方法:概念を適切なモデルで可視化する」で示した図を参考に、間違っているかもしれないけれど明確なモデルを作ってください。

4.検証:観測事象を増やす

方法:情報の信頼度を評価する」で示したように、どれだけ多くの事象を観測した上での仮説(=理解)か…は、仮説の信頼性そのものを左右します。
十分な量と種類の事象を観測しましょう。

ここで重要なのが、確証バイアスの存在です。

確証バイアス(かくしょうバイアス、: confirmation bias)とは、認知心理学社会心理学における用語で、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと[1]認知バイアスの一種。また、その結果として稀な事象の起こる確率を過大評価しがちであることも知られている[2]

Wikipedia

このバイアスを踏まえると、

  1. 自分の仮説を破綻させるような事象を積極的に探し求める

  2. そのような事象の発生確率にも注意を払う

…という2点を意識的 / 習慣的に行なうことが推奨されます。

また、観測事象という「情報」そのものの信頼性も評価しておく必要があることにも留意してください。
トイレの壁に落書きされた事柄を「観測事象」として信じてはいけません。
詳しくは「方法:情報の信頼度を評価する」をご参照ください。

5.補強:要素を追加して説明力を補う

観測数を増やした結果として、そのままの仮説では十分に説明できない事象と出会い、しかもその発生確率が必要と設定した説明強度に照らして十分に高い場合、仮説を補強する必要が出てきます。
(事象発生確率を$${p}$$、必要説明強度を$${r}$$とした時に$${p > 1 - r}$$となるような状況です)

典型的な補強は、既存のモデルに対して、

$$
もし 〜〜 ならば ……
$$

というような条件分岐を追加するような形で行われます。
このような補強がたくさん行われると、モデルはどんどんと複雑で不格好になっていきます。しかし、この段階でそれを気にする必要はありません。
理由は、以下2つです。

  1. 格好良いが現実をうまく説明できないモデルと、不格好だが現実をうまく説明できるモデルなら、実用性は明らかに前者が勝る。

  2. モデルの洗練は次のステップ「捨象」で行なう。

ある事柄が、3つの要素で説明できないのならば、4つ目の要素を加えよ。

ウォルター・オブ・チャットン

6.洗練:捨象を通じてモデルを磨く

ここまでは「理解」であることを成立させるために必要なステップでした。
最後に、

  • 状況変化に頑健な信頼性・再現性

  • 高い応用性

…の2つを併せ持つ(本記事定義での)「本質的な理解」へと近づくため、捨象のステップを説明します。
捨象は抽象と同義で、たとえば、

外から力がかからない物体は、神が等速でまっすぐ動かし続けている。
→ 外から力がかからない物体は、等速で直進する。

疑似科学と科学の哲学

というように、仮説内の不要な具体情報を抜き出し、切り捨てる工程です。

この捨象の進め方を具体的に説明すると、仮説が説明しようとする事象・対象を$${x}$$とした時に、

  1. モデル内で次の条件を満たす要素$${a}$$を探す

    • その要素$${a}$$を欠く$${x}$$が存在しうる

    • その要素$${a}$$の有無・強弱・大小が$${x}$$の結果に大きな影響を与えない

  2. その要素$${a}$$を外しても観測済み事象を必要な強度で説明可能か確かめる

    • 必要な説明強度を確保できないようであれば捨象NG

  3. その要素$${a}$$がないモデルで大きな説明破綻を起こせないか考える

    • これが起こせそうな場合は以下いずれかの対応を採る

      • 捨象を見合わせる

      • 捨象した上で説明破綻回避のために最低限のモデルを補強を行なう

…というような感じになります。

このような捨象(抽象)ステップを得ることで、モデルの状況変化に対しての頑健性を高めつつ、応用性を高めることが可能となります。
背景理論は数理:コンパクトで抽象的な知識の有効性を参照してください。

7.ふたたび観測事象を増やす

方法:情報の信頼度を評価するで触れたように、情報の信頼性には情報鮮度も影響を与えます。そして、仮説もひとつの情報です。

したがって、ひとたび「本質的に」なった理解も、時の流れに伴う状況変化でその本質性を失うことがまれによくあります。
これを防ぐには、対象領域の状況変化の活発さに応じた頻度で新しい観測事象を絶やさず、モデルを検証・補強・洗練しつづけるサイクルが必要となります。

まとめ

これまでの議論をまとめると、次のようなプロセス図を得られます。

特に「洗練」の工程については、仮説が説明しようとする事象・対象を$${x}$$とした時に、

  • その要素を欠く$${x}$$が存在しうる

  • その要素の有無・強弱・大小が$${x}$$の結果に大きな影響を与えない

…という2要件を満たす要素が捨象の候補となる点に留意してください。

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