【小説】恋の成仏短歌5「昼の挑戦状」
いつからだろう、昔は普通に使ってた「合コン」って言葉。気づけばあんまり聞かない気がする。
最近はその代わりに「食事会」なんて呼ぶらしいけど……中身は結局変わってないような。
そんな「合コン」にまだ行っていた、20代後半の頃の話。
友達に誘われた、4対4の合コン。彼氏持ちが二人と、特定の彼氏を作る気がなくて遊んでる子が一人。彼氏が欲しいのにいないのは私だけという、既に「負け犬感」溢れるかんじだった。
一体なんのための合コンなんだか。
余裕のある人たちの中で一人だけガチ感が出るのが嫌で、「興味がない感」「どうでもいい感」を出すのに必死だったけど。
結局出会ってしまったんだよな、あの人に。
顔が整ったわかりやすいイケメン……ではないけれど、みんなに優しくてちゃんと満遍なく話を振ってくれて、ほどよくいじり、いじられ、その場を回せる器用な人だった。
モテるだろうなーと思ったし、なんだか掴みどころがないかんじが怖くもあって。
釣った魚には餌をやらず、惚れた時点でこっちの負け。絶対そういうタイプだ!って警戒してたはずなのに。
「今日はありがとう!よかったらまたごはん行かない?」
届いた1通のLINE。どうせ4人全員に送ってるんだろうけど……それでも、自分にもちゃんと届いたことが嬉しかった。たとえ文章がコピペだったとしても。
*
数日経って答え合わせをすると、意外にもごはんに誘われてたのは私だけだったみたいで。
彼氏が欲しいのにいない私に、断る権利なんてあるはずがなかった。
いや、そんなまどろっこしい言い方しなくたって、純粋に「行きたい」と思った。
合コン中に街中華の話で盛り上がった流れもあり、誘われたのは街中華……よりも少しだけこじゃれた、ワインと中華のお店。
気兼ねなく食べ飲みできる雰囲気と、彼との心地よい会話にすっかり気持ちよくなってしまいって。気づけば二軒目に行くまでもなく、あっという間に終電ギリギリの時間。
「ちょっと酔い覚まして行った方がいいんじゃない?」
こんな、遊んでる男が言いそうな台詞ナンバーワンみたいな言葉にうかうかついて行くなんて今思うと恥ずかしいけど。
モテない女に巡ってきたせっかくのチャンス。ここでも断る理由は見つからなかった。
というか、ただただ行きたかった。
*
その夜から私たちのなんとも言えない関係は始まって、2週間に1回程度夜ごはんに行って、そのままなんとなく彼の家に行く。そんなことが続いた。
彼は初めて会ったときから変わらず優しくて一緒にいると楽しくて。想像してた「釣った魚に餌をやらないタイプ」とはちょっと違った。
でも、どこか掴みどころがないのは相変わらず。「好き」とか「付き合う」とかいう言葉は一切出てくることなく、ただその夜を一緒に楽しく過ごすだけの関係性は変わらなくて……
私もモテないとはいえ、それなりにいろんな男性は見てきたつもり。一緒にいて幸せになれるタイプじゃないことは既にわかってたし、これ以上期待しないことに決めようと思ったけど……
何か、きっかけが必要だった。
いつもの「夜ごはんからの自宅」に流されず、相手と向き合う何かが。
「今度の土曜、デートしません?」
ごはんじゃなく、デート。私の中でのデートの定義は、昼から会って夜までがっつり一緒に過ごすこと。そんな本気デートという名の挑戦状を、相手に叩きつけることにした。
「いいよー」
対戦相手は、余裕の表情で挑戦を受け入れてる。決戦は金曜日ならぬ「決戦は土曜日」でとうとう私はこの関係に決着をつけることにした。
*
ランチの時間に待ち合わせをして、軽く食事を済ませたあとにそのときやってた無難な映画を見に行く。
私が望んでいた、絵に描いたようなデートだった。間違いなくそうだったはずなのに……
「今日はほんと楽しかった、ありがとね」
夜ごはんを食べることなく解散を促してきた彼の様子を見て、私の気持ちは終わりに向かっていった。
土曜日にこんなに早く解散するなんて、きっと私に興味ないんだ。他に夜を一緒に過ごす人がいるんだ。
掴みどころのない彼は、やっぱり最後まで掴みどころがなかった。
モテない私に巡ってきた数少ないチャンスを、簡単にあきらめちゃいけない。そう思う自分もいたし、今思えば勝手に思い込まずにもう少しだけ頑張ればよかったのかもしれない。
それでも当時の私にとって、あきらめるのに十分な理由が揃ってて。
結局今でも私は自分に自信が持てず、昼のデート恐怖症だったりもする。相手が誰だったとしても、やっぱり「夜ごはんからの自宅」の流れは楽しくて、ラクだから。
また昼のデートを真正面から提案できるくらい、本気で向き合いたい相手に出会える日は来るのかな。
淡い期待を持ちつつも、今夜もこうしてまた目の前の波にゆらゆらと流されそうな私がいる。
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