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知らないほうがいい「言葉」

『言葉は思考の枠組みである』とは、よく言われることだ。

言葉があるから考えることができて、言葉があるから良くも悪くもそこに分断が生まれる。

例えば、そこに『グレープフルーツ』と『レモン』という言葉があるから、ぼくはそれらを『黄色い果物』という雑なくくりではなく、そこからもう1段階解像度の上がった状態で、それらの物体を見ることができる。

言葉は、ぼくたちの見る世界の解像度を上げてくれる。


そんな言い方をすると、言葉を獲得することはまるでいいことの一方通行のような気もするけど、ちゃんとベクトルは両方向に伸びてるんだなというのが、今日の言いたいこと。

例えば、もうタイトルも作者の名前も忘れてしまったけど、高校生のときに読んだエッセイのなかで『花粉症だと思うから花粉症なのだ』という文章があった。

要は、自分のことを『花粉症だ』と思うから花粉症になるのであって、単に今日はちょっと目がかゆいなとか、ちょっと鼻がムズムズするなとか思っている人のそれは、花粉症ではないというロジックだ。


上のは少し強引さを感じるかもしれないけど、似たような現象はいたるところで起きていると思う。

特に、社会的弱者や病名に関する言葉は、その現象が起きやすい。

ここで具体例を出すと倫理的に問題が出てくる可能性もあるから出さないけど、本来そういった状態にある彼ら彼女を守る『盾』になるために生み出されたはずの言葉が、彼ら彼女らの『槍』となって逆に誰かを突いている場面を見かける。

彼ら彼女らが『弱者』という名の『強者』になった瞬間だ。

あと、『盾』とか『槍』とは少し違った文脈で『言葉を獲得してないことによる幸福』、あと少し安っぽい言い方をすると『言葉を獲得してないからこそが頑張れた』みたいな場面も見かける。


『キングダム』を読んでいていつも思うのは、当時『骨折』や『打撲』って言葉はなかったんだろうなということ。

弓矢を打たれて剣で斬られて、みんな血まみれになって戦っている。

当時の解像度はたぶん『戦えないくらい痛いか』『まだギリ戦える痛み』くらいで、もっと言えば『生きてるか』『死んでるか』ぐらいだったかもしれない。

でも『骨折』や『打撲』や『致死量の出血』みたいな言葉がなかったからこそ、兵たちは多少のダメージをくらっても戦い続けられたのかもしれないなと、思う自分がいる。

もっとも、令和の時代においても戦場に行けばそんなこと関係なく、死ぬまで相手を殺し続けるかもしれないから、これは例として不適切だったかもしれない。


あと、これもまた例としてふさわしい度は高くないなと自覚していながら書くんだけど、東日本大震災が起きて原発が爆発したとき、そのせいで甲状腺ガンが増えたみたいな報道があった。

ぼくは専門家ではないまったくのド素人なので、真偽のほどはわからないのだけど、甲状腺ガンが増えてないと主張する学者の論拠のひとつとしては、『検査を厳しくしすぎたからだ』というものがあった。

甲状腺ガンにかかっていると言えばかかってるんだが、もし検査をしなくて知らないままだったら、それを本格的に発症する前に死んだ人や、患っていても生活に支障をきたさない人もいただろうと。

つまり、実際の甲状腺ガンの人自体は原発が爆発する前と後で変わってないけど、『爆発によって増えた!』という言説が出てしまったから、結果的に増えた『ように見える』というのが、その学者の人たちの主張だった。

知らなくてもいい言葉に出会ったことによって、幸福度が下がってしまった人がいるかもしれないなと思った。


こんな感じで、言葉を獲得して解像度を上げることが、結果的にその人のためにならない場合もある。

書きながら途中で、『これ半年前に読んだカツセさんのnoteと似たようなことを書いてるな』と気づいた。

どっかでインスピレーションを受けてるんだろうなと思ったので、そのnote貼っとこ。

カツセさんの場合は、タイトルにも『拘束する言葉』とある通り、言葉によって逆に解像度が下がってしまう話もしてたから、ちょっとだけ切り取った視点が違うかもしれない。


でも根底で言いたいことは、おこがましいけどたぶんこのnoteのカツセさんと同じだから、カツセさんの最後のメッセージをそのまま借りよう。

言葉って、ときにはとっても大きなパワーを持つものなんだよということ。

単純に「高く飛べる言葉もあれば、足枷のように拘束する言葉もある。それをどう受け入れられるか、その言葉からどう逃れるかが、人生を左右するほど大切なことかもしれない」とだけ、鈴掛さんのイベントを通して思ったことだった。


▼やっぱり、どんどんポジティブなことに言葉を使っていきたいよねという話


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藤本 健太郎 / 編集者
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